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第16話



 スイは――ミスイ・アルカボイドは雷の刀を振るっていた。


 心中はぐちゃぐちゃだ。必死に刀を振ってごまかしてはいるが、考えないといけないことがありすぎる。任務や一般人の安全の確保、そしてこの男。この男である。


 二年ぶりだ。彼が何も言わず英雄連合を抜けてから、二年が経った。

 聞きたいことは山ほどある。なんならその横っ面をぶん殴りたい。いやぶん殴るだけじゃ足りない。ぶった斬りたい。


「らあ! とお! たぁ!」


 迫りくる信者を必死にいなす。このままでは任務どころか……。

 刹那、ぱりん、と音を立てて信者の握る槍が弾ける。


「っ! やあ!」


 理由は分からない。だがその隙に信者を一人切り伏せる。

 スイは信じている。この人でなしが、いざという時はやる男ということを。

 だってずっと隣で見てたから。

 同じ師をもってして、どうしてこれだけの差が生まれてしまうのか、と悩まない夜はなかった。


 だがそれ以上に、彼の在り様に憧れていた。。


(だめだ……もう頼るのはやめたんだ。だって)


 頼って、背負わせて、傷つけてた。

 罪悪感と、それでそれで……ありったけの怒り。

 あぁ、考えるたびにイライラする! なんで何も言わなかったのよ!


「やあ! たあ! うりゃりゃりゃ!」


 怒りのままに刀を振るう。

 あの人から教わった刀。あの人を追いかけていたアイツ、そんな彼を追いかけていたスイ。


(スイが助けるんだ!)


 斬って斬って斬って。この雷は誰よりも早く駆け付けるための力だから。

 もうなにもこぼさないための力だから。


「あぁあがあぁッ――!!」


 彼の叫び声がした。

 見ると、彼は自分の右腕を切り落としていた。


「なにやってっ――」


 問いかけるより前に彼は、酷く苦しそうな顔で呟いた。


「【影さえも。】―ッ!」


 良くない力だと、直感で分かった。あれはきっと、「悪い側」だ。あっちにいったら戻れない。

 止めたかった。もう一人で戦うな、と言いたかった。

 だが、彼は刀を握った。いつの間にか生えていた右手で握っていた。色は違うが、あれは先生が振るっていた刀に似ている。


「――」


 彼が地を蹴った。すさまじい速さ。

 身をわずかに翻すことで信者の網を掻い潜っていく。

 そして、神父の眼前まで迫り、彼は刀を振るった。


 神父は微動だにしない。しかし、彼の目を見て、なにかを感じ取ったのかぎょっとして一歩引いた。


 しかしもう遅い。


「らぁッ――!」


 ――真っ赤な血液とともに、神父の左腕が宙を舞った。


 苦悶の表情を浮かべる神父。退いた神父には、あと一歩届かない。


(なんで!? 届くわけないのに!?)


 神父に触れることができるのは、呪いにかかっていない部外者か――あるいは、信者のみ。


 《聖母の神器》の呪いを解いたとは考えずらい。手段がない。


 であれば、彼は信者として神父に刀を振るったのだ。

 仮に彼の右腕、あれが信者の右腕をそのまま移植したのであれば、説明がつく。


(いや、それでも届かない……だって、それはスイが刀を握っているのと同じことだから)


 冷静に考えれば、スイが握っている刀も、ある種の呪いの外に存在する部外者であるが、神父には届かない。


 ようは――スイたちが神父に危害を加えることが禁止されているのだ。


 じゃあアレはなんだ。信者の腕を移植しただけでは説明がつかない。


(あれはもっと、根源的で、魂的なつながり………)


「たしかこうだっけ――【准聖典第一節・哭くるる槍】」


 ガクの刀の刃先、そこにまばゆい光でできた槍が構築される。


 それは、信者が扱っていたものと酷似していた。


  ◇

 【転生症候群:■■の転生者――九十九ガク】


己の手で殺した人間の死体を影に取り込み、自分の欠損した身体と結合することができる。物理的な結合のみならず、根源的な魂の結合。結合した身体が所持していた能力を漆黒の刀をパイプとして出力することができる。


なお、時間経過とともに結合部分から魂の浸食が進む。

  ◇


(だめ…………そっちに行ったらっ……行ってはだめよ!)


 刹那の間に、スイは少しでもガクを止めようと、近づこうと手を伸ばす。けど届かない。

 ガクは黒い刀を手放し、その槍を空中で握り。そして槍の腹で神父の首を薙ぎ払った。

 鈍い骨が軋む音が鳴る。


「ぐげっ」


 神父の身体は吹き飛んだ。

 すると、神父が白目をむいて脱力した途端、教会が哭いた。


「教会が崩れていく……?」


 ごごごご、と柱が崩れ始める。

 力を失った信者たちは神父の身柄を探すが、すでにそこにはなかった。

 今は神父ではなく、一般人を優先させないと!


「ぇ」


 開け放たれた教会の扉。そこに一般人の屍が転がっていた。


 どっ、どっ、どっ、と心臓が脈打つ。


 視線は自然と扉の向こうに立ち尽くすガクへと向かった。


「待ちなさいッ!」


 スイの声にぴくり、と動きを止めたガク。ガクの背には気絶した神父の姿。赤髪の少女はガクの隣で笑顔を浮かべていた。


 きっと、ここが別れ道だと思った。


 これから交わされる問答によって、なにか大事なものが決まる気がした。


 スイは諦めない。


 あの時間に戻りたい。あの幸せだった時間をもう一度過ごしたい。


 だから、欠けたピースをスイは取り戻す。


 とびっきり大きくて歪でとげとげしくて優しい、大切なピースを。



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