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第13話

 直後、エルマが笑みを浮かべながら飛び出し、神父に拳をぶつける。


 依然、拳は神父に触れる寸前で止まる。はらりとエルマの頭を覆っていた白のベールがはだけて、彼女の素顔が明らかになる。


「――はは、こうして運命は巡り合わせる。再び、神の巫女に逢えようとは」


「アタシはエルマ! 神なんかの手下じゃないやい!」


 条件反射のように俺はすぐさま、礼拝堂の扉を刀で壊した。


「逃げろおおおおおおおおおおお!」


 一般人へそう呼びかける。戦いのゴングが鳴った。

 逃げざるを得ない状況になった。ゆえに、一般人は扉の外へと駆け出す。


 俺は礼拝堂を見渡す。一般人――仮に信者候補としよう――が俺とエルマを含めて12人。信者が6人、神父が1人。


 だが、この部屋から出たところで信者候補たちは階段の下の扉の前でたむろすることしかできないない。


 俺たちが今やるべきことは――神父の無力化。


「とりあえず、あのクソ神父のからくりを解かねえとな」


 神父と二人の信者は祭壇の前で聖典を唱え始めた。神父とエルマの間に、六人の信者が壁となり行方を阻んでいる。


 俺は刀を握り覚悟を決める。


「エルマ、神父をぶちのめすぞ!」


「あいあいさーっ! そうこなくっちゃね!」


 神器のせいか信者の身体能力は上がっているが動きは武者のそれではない。これくらいだったら持ちこたえることはできるが。


 すると、立ちはだかる信者の一人が聖典を広げる。


「【准聖典第一節・哭くるる槍】」


 詠唱の後、信者の手に淡い光が纏い、鋭い槍が構築される。


「なんそれ、かっちょいいっ! ってあちっ、あちちちっ!」


 信者が振るう鋭い槍を難なく交わしたエルマは、無理やりその槍を奪おうとするが、どうやら熱いようで手こずっている。手こずらんくていいから手を放せ馬鹿。


 俺はその隙に、エルマへと振るわれた槍を刀でいなして首を掻っ切る。ぶしゅ、と鮮血が白い教会に飛び散る。


(信者に攻撃は通じる、と)


 それを皮切りに、わなわなと迫る信者。しかし、この程度の実力なら俺とエルマで事足りる。


 だが。


「【聖典儀式・奇跡の収愛】」


 神父が大きく空に十字と円を描き、そう叫ぶ。


「――ぁぅ?」


 直後、身体から力が吸い取られる感覚に襲われ視線が落ちる。エルマも脱力し大勢を崩した。


 おもむろに、まばゆい発光体が信者の背に集約し。


「……おぉ、なんかやば――」


 エルマの呟きが掻き消したのは、耳をつんざく光の高音。発光体がゆっくりと消え、姿を現した信者は――まばゆい光の羽を有していた。


「ぐぁっ」「きゃっ」


 視界が目まぐるしく変わる。空中を滑空したのち、礼拝堂の壁へ突き刺さる。その時ようやく、信者に何かしらの攻撃を受け吹き飛ばされたのだと理解した。


 先ほどの二倍……いや三倍ほど速くて重かった。すんでのところで刀で防御できたから致命傷には至らなかったが、武器を持たないエルマはどうなった。


「……いちちちっ……うっへぇ、いたぁぃ」


 がれきの中から姿を現したエルマは頭から血を流しながらうずくまっている。右肩が痛々しい焼け跡のようなものがある。


「命は捧げなくてよろしい。意識を刈り取りなさい」


「はい、神父ネリッタ」


 気づいた時には信者が迫っていた。しまったと思ったときにはもう遅かった。


(あ、これまずいやつ――)


 まばゆく光る槍の先端が、見る見るうちにこちらに迫って――。


「【稲妻纏リンク】」


 訪れるであろう槍の押収はしかし、けたたましい轟音がかき消す。砂埃が立ち上がる中で、目の前には一つの人影。


「――これで給料変わんないならヒーローなんてやってられないわ。ガクもそう思うでしょ?」


 俺たちと同じ、真っ白な聖衣に身を包んだ少女。金髪のポニーテールを靡かせ、雷でできた刀を握っている、まるで雷のような女だった。


「……ミスイ」


「一年ぶりの再会だって言うのに、随分嬉しくなさそうね」


 少女はまっすぐ俺をとらえた。

――ミスイ・アルカボイド。俺が英雄連合に所属していた時の同僚だ。


「第一声がスイの名前だったのは及第点かしら。スイの寛大な懐に感謝しなさい」


 俺はどんな顔をしているだろうか。


「あら、今は暢気に話している場合じゃないのだわ。さっさと立ち上がりなさい、ガク」


 酷く抑揚のない声音に、どこか居たたまれなさを感じてしまう。


「……何も聞かねえのか」


「聞くに決まってるわ。でも、それはこれが片付いた後。その後、拷問してでも吐かせてやる」


「シンプル怖えよ」


 元から表情の読みにくい奴だ。これが冗談か否かも、判断がつかない。


「お前ひとりか?」


「ええ、本当は偵察だけだったのだけれど予想外だったわ。ああ、それと救援は期待しないで。たどり着くまでにスイたちきっと儀式でやられちゃうわ」


「儀式ってーと、さっきの力が抜かれてく感覚がそれか?」


「ええ、おそらく」


 俺たちは儀式を信者候補を洗脳しきるために執り行われるものだと考えていた。だが、今の状況を鑑みるに、それは間違いである可能性が高い。


「ねえ、信者さん。スイたちってもしかして生贄かしら」


 信者の一人、おそらく信者たちを統率している男が口を開く。


「逆である。聖母ナキ様は信者を募れば募るほどに強力な加護の与えて下さる。しかし、我々は気づいた。弱き信者はことごとくを挫かれる、と。であるなら、弱気信者には箱庭の中、延々とその生命をナキ様に捧げていただこう。それが幸福であろうと」


「それってつまり――電池みたいに使われるだけ使われながらじっとしてろ、って聞こえるけど」


「私たちはそれを幸福と呼ぶのだ」


 まったく胸糞悪い話だ。この儀式は洗脳を施すのではない。信者候補の者たちから生命エネルギーを回収し、その後は電池のごとく役割を担わせる。そんな魂胆らしい。


「いずれ儀式が完遂し、あなた方は醒めぬ睡眠につくだろう。安心なされ、我らが慈愛をもってしてその命、守ってやろう。あなた方は、ただひたすらに聖母様に奇跡を捧げればそれでいい」


「植物状態にさせられた挙句、てめえらに世話されるだぁ? もちっとマシな待遇を要求するぜ」


「いずれ理解し、それを享受するようになろう」


「それを洗脳っつーんだよ。けたくそわいい」


 信者と話していてもらちが明かないと判断したのか、ミスイは俺を横目にとらえた。


「スイが隙を作るからあの赤毛さんを避難させなさい。謎解きはそれからよ」


 基本、信者たちは神父の元から離れない。それはおそらく、儀式を進行している神父以外の『二人の信者』を護衛するためだろう。神父は俺たちの攻撃が当たらないが信者にはそうではないからだ。


 であるから、俺たちが攻めるべきは儀式を執り行う二人の信者。それを潰せば儀式は止められる、はず。


「邪魔なもの、断ち切ろうじゃない――」


 スイが飛び出すと同時に俺はすぐにエルマのもとに駆け寄る。確かに、この傷ではまともに戦えない。


「きゃっ」


 エルマを抱えて礼拝堂の入口を目指す。一瞬、エルマが小さな声を上げる。


「お、お姫様だっこ!」


「元気じゃねえか。って出血すごいな。止血しとけよ」


「すごーロマンティックな気持ちだよ! これは胸がどきどき…………ってぎゃあっ! なんあれっ!」


「あ?」


俺は礼拝堂の扉付近に彼女を下ろして、エルマの視線を追う。


「ちょっちょちょ! あれ見てあれ! キモ! 死体がっ!?」


 そこには先ほど俺が切り伏せた信者の死体。


 ――それがまるで黒い海に沈んでいくように、影に溺れていく。


 その瞬間、脳内に膨大な記憶と感情が流れ込んできた。



 それは――一人の男の人生の記憶。



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