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君と珈琲とギター。  作者: 終焉を迎えたTomato
序章。世界の始まり。

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3/4

痕跡を残せ。

午後4時。駅前のカフェにいた。

奏が来るまで30分。今最寄駅についたと言っている。

この三十分間で何ができるか。

答えは……答え……は……ゆったりする。くらいだろう。ポケットに忍ばせた有線イヤホン。少々ケーブルが邪魔だが音質は最高だ。

データにへ変換された音楽が、電流になり、音へと変わる。

「奏まだかな~早く歌いたいよおお」

先に会員カードの準備だけはしておく。

イヤホンから流れる曲は、透き通っている。変わらずに、ただ流れていく。時間もそれを追って進み、歌う曲を考えていたらもうすでに奏が到着する時間になっていた。

『どこにいるの? 朝日』

『えーっと、隣の駅の一階にあるプロントっていうカフェに立てこもってる』

『……お前はすでに包囲されている! 武器を下ろせ!』

『あ! ごめん誤字だよ!w』

どうやらかなりノリのいい子だ。ありがたい。爪切りについてる爪とぎくらいありがたい。

『とりあえずそっち向かうから。待ってて~ホットのカフェラテよろしく~』

買えと?この私に? 買えと?


「仕方ないなー」

席を仕方なく立ち上がり、オーダーへ向かった。

五百五十円をぴったり支払い待っていると、奏が来店してきた。

危うく「いらっしゃいませ」と言ってしまいそうになったが、頑張って我慢をした。

奏は小さく手を振りながらこちらへやってきた。

気になる奏のファッションは、というと、黒の短いスカートに黒の少し大きいトレーナー。透き通るようなというか透き通る水色の上着に黒のベレー帽。という何とも現代的なファッション……

朝日は春なのもあり、ピンクを基調としたふんわり系だ。

「やっほーここいいね。もしかして頼んでくれたの? 払ってって言ってないのに」

小悪魔的な笑いを浮かべる奏に、朝日は「なら」と支払いを求めた。案外あっさりとお金を出したので、少し責めづらくなった。ずるいよ、奏。


小一時間談笑してからカラオケへ向かった。

と言っても、東口へ出てロータリーの反対側にあるため、そこまでの難易度ではないし、時間も要さない。受付にて、学割を利用し、さらには会員証を利用。一人九百円で済んだうえ、あと二回くれば一時間無料のチケットがもらえるというお得仕様。


「では二階、14号室へどうぞ。階段を上って、ドリンクバーのところを右にUターンするように曲がってすぐにあります。こちらお飲み物のコップです」

「はーい。ありがとうございまーっす!」

優しく美しい受付のお姉さんは仕事が丁寧だ。評価上げとこ。

14号室。荷物を置き、上着をハンガーにかける。フリータイムなのでゆったりとこの時間を満喫できるのはいいことだ。でもわざわざここへ来るのが……家にカラオケ設置しようかな……

一曲目は流行りの曲アニソンだ。次に奏の番。ボカロだった。しかもかなり昔の曲である上に、私が歌った曲に対し、ピアノがメインで少し悲しい曲。多分失恋ソングのような曲だ。

奏の歌はうまく、人気のある曲も、そうでない曲も、曲の難易度問わず必ず高得点を取っている。

朝日はボーカルなので高い点数を取るが、それでも80から99点と、得点は不安定なうえ、ただうまいだけで人を魅せられるものではなかった。しかし奏は違う。その言葉一つ一つに感情がこもり、曲のテンポや雰囲気に合わせて声が若干変わっている。少し悲しそうな部分であれば涙を我慢するような声で、うれしそうな場面であれば高く、興奮しているように魅せた。恋や愛を唄うなら、彼女は少し吐息を混ぜた。それは恋に対する、未来に対する期待や願望などを連想させる素晴らしいものだった。

感情のコントロール。彼女からは学ぶものがあるそう思った朝日はこぶしを強く握りしめた。


「次、一緒に歌お~」

「う、うん」


突然の願いに慌てて返事をした。デュエット曲……初挑戦と言えば嘘になるが、それでも私はやってやる。


「じゃあこれでいい?」

「いよー」

即答であった。多分何も考えていない。

「……ご、ごめん、ちょっと抜けるね」

曲をいれる前にトイレへ向かった。


少し苦しい。休憩もかねた。洗面所で顔を洗った。小汚いトイレは、私の心のようだ。

深呼吸をする。少しはしゃぎすぎたか。

早くしなければ奏が待っている。

「早く行こう。朝日」

そう自分に言い聞かせた。

鏡の中の自分は、偽物のように感じた。正確に言えばそうなのだが、私が私じゃない気がした。

飛べない小鳥が巣から落ちたように、知っていたはずなのに知らない世界にいた。

果てしなく偽物に近い自分はどうすればいいのか。

胸の奥の小さな粒が、集まって大きくなって、私の心を貫いたような、そんな感覚だ。

これからどうしようという不安が、脳裏をさまよっている。

もし本当に偽物でも、本物の痕跡を残してやろう。

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