紅蓮の王子、暴虐の覇射
「……さて、始めようぜ」
アレクセイが地を蹴った。
紅蓮の鎧が残像を引き、一瞬で俺の懐へと潜り込む。
「ぐぅっ……!」
俺は全神経を集中し、超高速の斬撃を叩き込む。
一秒間に十数閃。
真空の刃がアレクセイの死角を突くはずだった。
だが――。
「遅い、ヌるい、欠伸が出るなァ!」
アレクセイは首をわずかに傾け、上体を逸らし、すべての刃を紙一重で躱していく。
まるで俺の剣筋がスローモーションに見えているかのように、余裕の笑みを浮かべたままだ。
「テメェッ!!」
俺は横一閃の凪を放つ。
アレクセイはその刃を、なんと背負った派手な装飾の『剣の鞘』の先端で、カチリ、とピンポイントで受け止めた。
「ほぅ、少しは筋が良い。だが、俺様とは格が違うッ!」
アレクセイの脚が、爆発的な速度で俺の腹部へと伸びた。
ドゴォォォォンッ!!
内臓を潰すような鈍い音。
衝撃波が地下施設を駆け抜け、俺の身体は砲弾のように天井へと跳ね上がった。
分厚い岩盤を突き破り、そのまま二階の屋根までも貫通して、俺はセド村の冷たい地面へと叩きつけられる。
「刃殿!」
「刃様!?」
外へ避難していたヴィクトリアやアイナたちの悲鳴が上がる。
土煙の中からアレクセイが、月光を背負って屋根の穴から悠然と飛び降りてきた。
「はぁ、はぁっ……!」
俺は口の中の血を吐き出し、即座に立ち上がる。
「まだだ……まだ、終わってねえッ!!」
紅蓮に輝くアレクセイに向かって、渾身の突撃を敢行した。
だが、アレクセイはフンと鼻を鳴らして足を止めた。
「飽きた。剣を使うまでもないな」
アレクセイは愛剣を鞘に納めたまま、拳を固めた。
そこからは、一方的な『暴力』の嵐だった。
「オラッ! どうした覇射使い! その程度か!」
重厚な紅蓮の小手が俺の顔面を捉え、視界が火花を散らす。
続く回し蹴りが肋骨を砕き、砕けた骨が肺に刺さる感触が伝わる。
剣を振るう暇さえ与えられない。
アレクセイの攻撃は、剣技というよりは純粋な『破壊』だった。
殴られ、蹴られ、泥の中を這いずり回る。
「……ぁ……」
意識が遠のく中、俺を見つめるアイナの、涙に濡れた瞳が視界に入った。
(……グッ……)
「刃様を……放せッ!!」
見るに堪え兼ねたシオンが、隠し持っていた小太刀を手に、アレクセイの死角――背後から飛び出す。
「シオン、よせっ……! 来るなッ!!」
俺の絶叫は、シオンの忠誠心には届かなかった。
「邪魔だ、雌犬」
アレクセイは見向きもせず、後ろ回し蹴りを一閃。
バキィッ!
生々しい、骨が砕ける音が響き、シオンの細い身体が木の葉のように吹き飛ぶ。
「……ぁ……」
シオンは崩れた石壁に激突し、そのまま力なく崩れ落ちて意識を失った。
「シオン――ッ!!」
俺の絶叫が、静まり返った廃村に虚しく響き渡った。




