紅蓮の囮
「奴隷オークションは明晩。だが、肝心の場所がまだ割れていないわ」
『肉棒亭』での会食の締めくくりに、ヴィクトリアが苦い表情で告げた。
二重スパイからの報告によれば、アドルフ・ヒューキンは極めて慎重で、直前まで開催場所を伏せているという。
「……ならば、アイナに『発信機』になってもらうしかないわね」
作戦は決まった。
その日の夜、俺たちは一旦解散し、決戦の地となるエルミンデア王国西区へと向かった。
深夜。
西区の端にひっそりと佇む『薔薇騎士団』の隠れ家。
室内では、アイナが一人、囮として待機していた。
(……アカン。影から見てる俺まで心臓がバクバクしてきたぜ)
静まり返った通りに三つの人影が音もなく現れた。
その中の一人、脂ぎった顔に狡猾な笑みを浮かべた男がアドルフ・ヒューキンだ。
一人の男が手慣れた手つきでピッキングの小道具を使い、カチリと音を立てて扉を開ける。
「……ッ!? だ、誰ですかっ!」
アイナの鋭い声が響くが、奴らの方が一枚上手だった。
多人数で一気に押し入り、小柄なアイナを押さえつける。
アイナは必死に抵抗するが、武器もなく、男たちの放った特殊な拘束魔法と猿ぐつわによって、声も出せず、自由を奪われてしまった。
「ひひっ、こいつは特級品だ。このサイズでこの乳……客どもが泣いて喜ぶぜ」
アドルフがアイナのGカップを無造作に鷲掴みにし、下卑た笑い声を上げる。
そのまま彼女は手荒に担がれ、待機していた黒塗りの馬車の荷台へと放り込まれた。
「……追うぞ」
ヴィクトリアの低い号令。
俺はシオンの馬の後ろに飛び乗った。
密着するシオンの背中の温もりと、鞍の振動で押し付けられる彼女の豊かなJカップの感触が、緊迫した状況下で俺の『覇射』をチリチリと刺激する。
「刃様、しっかり捕まっていてください。……振り落とされないように」
俺たちは闇夜に紛れ、馬車の車輪の音を頼りに尾行を開始した。
馬車がたどり着いたのは、不気味な静寂に包まれた荒れ地だった。
「……ここは、『セド村』。かつては豊かな村だったけれど、数年前、凶悪な盗賊団『猪突の牙』に襲われ、一夜にして壊滅した廃村よ」
ヴィクトリアの説明に、俺の胸の奥で熱い怒りが込み上げた。
「……『猪突の牙』だと……? あの野郎……!」
俺はこの世界に来て間もない頃、その首領であるゾドをこの手で叩き伏せた。だが、俺が奴を倒すより前に、こんな平穏な村を地獄に変えていたなんて。
朽ち果てた家屋の隙間から、アイナを乗せた馬車が大きな屋敷の裏手へと消えていった。
俺が剣の柄を強く握りしめると、シオンがそっと俺の手の上に自分の手を重ね、静かに首を振った。
今はまだ、暴れる時ではない。
「あの屋敷の地下に、大規模な施設が作られているようね。アイナはあそこに運び込まれたわ」
俺たちは馬を降り、そっと屋敷の入り口へと近づいた。
頑丈な鉄製のドアには小さな覗き窓が設置されており、中から見張りの男が鋭い視線で外の様子をうかがっている。
「……まともにノックしても開けやしねえだろうな。シオン、壁をぶち破るか?」
俺が提案すると、ヴィクトリアが妖艶な笑みを浮かべて俺の手を制した。
「待ちなさい、刃。ここは私の出番よ。……男の欲望を逆手に取るのが、一番確実な鍵になるわ」
ヴィクトリアはそう言うと、自身の胸元の鎧を少し緩め、わざと乱れた足取りでドアへと歩み寄っていった。
「……た、助けて……誰か、いないの……?」
一国の騎士団長とは思えない、弱々しく、それでいて抗いがたい色気を孕んだ声。
覗き窓から男の目が、ヴィクトリアの露わになった鎖骨と、豊かな胸元の谷間に釘付けになるのが分かった。




