第014話 回避盾は不機嫌な猫娘とともに
週末になったので、俺は朝からFDにログインした。
いつも通り、レベルを上げながら素材を集める。
レアスキル探しもしたいが、あれは意識して探せる代物ではない。
自分の立ち回りは≪剣の舞≫を使用しながら攻撃力を高めて撃破しか勝ち筋がない。
この前手に入れた≪泥の短剣≫は俺のスタイルとかなり相性がいい。
形状は飛び散った泥のような形状だが、早く攻撃すれば威力は上がり形状は思いのままだ。
同時に取得した泥の英雄は稀にだが一度だけ被ダメを無効化してくれるものだったので、万が一のお守り代わりとしてはちょうどよい。
しばらく狩りをしていると、コトハちゃんがログインしてきた。
俺が入っているのに気付いたのかすぐにメッセージを送ってきたので、今いる狩場に来てもらうことにした。
少しするとコトハちゃんが移動してきて、しばらく2人で狩りをし続けた。
「攻撃力と防御力をあげるスキルを覚えました」
「便利なものを覚えたね。
今のコトハちゃんのスキル構成で、バフ系はかなりありがたいな」
「おじさん、あぶないです! ジャッジメントパニッシャー!!!」
コトハちゃんはステップとともに俺のすぐそばに寄っていたモンスターに向かって杖を振り下ろした。
コトハちゃんはサポート特化のスキル構成なのだが、その実最火力アタッカーでもある。
数値は見えなかったが、パーティー戦闘時、コトハちゃんはずっと構え状態でサポートをし続けている。
「おじさんのそれが、前に手に入れた武器ですか?」
「そう、泥の短剣。こうやって振ると!」
「わっ、凄い。短剣が伸びるんですね」
「まぁ、伸びたからなんだってのはあるけどね」
「そうなんですか?」
「見た目格好いいのはやっぱり大事だしね」
「あの大きな亀を倒したおじさんは格好良かったですよ」
「そ、そうかな……」
直球で褒められると、照れてしまうので止めてほしい。
「あっ、ピティさんが入ってきましたよ」
「まじか?」
「はい、メッセージ来ました。こちらに来るそうです」
「あいつ、俺には連絡なしじゃねぇか」
しばらくすると、ピティがやってきた。
「コトハちゃーん、寂しかったよぉ」
ピティは来るとわき目も振らずにコトハに抱きついた。
「ピティさん、大袈裟ですよ」
「大袈裟じゃないよ。だって2日も会わなかったんだから」
「お前と違ってコトハちゃんは学校があるからな」
「大丈夫? いじめられてない?」
ピティの猛追にコトハは思わず苦笑いする。
「お前、今日は何のために集まったか覚えてるんだろうな」
「もちろんだよ! コトハちゃんと会うためだよ!」
「違うだろ!」
「はいはい、裁縫屋に会うためでしょ。
ミヤコは冗談通じないから」
「お前の場合、冗談かどうかが分かんねぇんだよ」
「今日はコトハちゃんの服ができるかも知れないから気合入らないわけがない!」
「そうなんですか?」
「まぁ、
あの素材アイテム恐らくレアアイテムだし、ヒーラー用の服を作る可能性が高いかな」
「可愛いのだったらいいなぁ」
コトハはどんな洋服が出来上がるか嬉しそうに想像した。
「で、その裁縫屋はどこにいるんだ?」
「えーっと、≪シオネス≫の三番道路で店を出しているよ」
産業街シオネス。
始まりの町≪ティレス≫から数えて5番目の町だ。
近くの狩場の適正レベルが40台というのを考えるとレベルの高いプレイヤーからの需要がある職人だろう。
「シオネスか。
この前、行ったからすぐに飛べそうだな。
いつも通り、パーティー申請するぞ」
ピティとコトハちゃんをパーティに加えてシオネスまで飛んだ。
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産業街シオネス。
近くに豊富な資源を持つマレクス鉱山と露店通りを持つまさに生産職にはうってつけの街である。
「三番道路ってことは、結構初期からここに構えたのか」
「うん。裁縫をスキルじゃなくてマニュアルでやってるからレベルの上がりも早いんだよね。
まぁ、彼女は冒険よりも服作っているほうが楽しそうだけど」
「マニュアルでそのレベルってことはプロみたいだな」
「まぁ、半分正解ではあるかなー」
ピティにつられて、その例の裁縫屋がいる店にやってきた。
店の名前は溶ける魚らしい。
「サッシャ、こんにちは」
「ピティね。今忙しいんだけど」
「まぁまぁ、そう言わずに」
暗い店内に不機嫌そうな猫耳の女性が座っていた。
机の上に雑多に並んでいる型紙とデザイン画、その横でサッシャは話しながらも手は針を動かしていた。
「コトハちゃん、例のあれ渡してくれる」
「はい」
不機嫌そうな彼女にコトハは恐る恐る≪聖女の聖骸布≫を渡す。
「可愛い……」
「えっ?」
「何でもないわ。で、これが例のそれね」
コトハは聞こえないみたいだったが、俺は聞こえた。
こいつもピティと同類じゃねぇか。
「おい、ピティ」
ピティの袖を引っ張って近くに寄せた。
「おい、あいつ、大丈夫なんだろうな」
「大丈夫ってのは?」
「お前と同じにおいがするぞ」
「におい?」
ピティが自分をクンクンと嗅ぐが、残念ながらフルダイブといえ、匂いまでまだ実現されていない。
「違う。あいつも、可愛いもの好きとかいう落ちじゃないだろうな」
「何を言っているのよ。
女の子はみんな可愛いものが好きなのよ」
「そういう意味じゃねぇ。
一応、俺はコトハちゃんの保護者代行でもあるんだぞ。
これ以上、変人が増えると」
「えっ、その言い方だと、私も変人みたいじゃない」
「みたいじゃなくて、変人だろ」
「心外だね。
まぁ、サッシャは腕はいいわよ」
「いや、腕の心配じゃなくてだな」
と、ピティと話しているとサッシャがコトハをべたべたと触り始めた。
「って、お前何してんだよ」
「サイズを測っているのよ。
ほかに何かある?」
「いや、測るって普通はメジャーとかで測るだろ」
「知らないの? プロはメジャーを使わなくても触ってわかるのよ」
「だとしても、触り方がおかしいわ」
指先が妙にわきわきと動く。
「プロのやり方に口を出さないで。
コトハちゃんちょっと脇を見たいから腕を上げてもらえる?」
「お前、全世界のプロに謝れ!」
ピティ以上にやばいやつだったかもしれない。
「仕方ないわね。
真面目に話すわ」
「最初から真面目にお願いします」
「結論から言うと、今の私の裁縫スキルのレベルなら何とか加工できそう」
「えっ、サッシャで、何とかなの。
かなりやばい素材だったかな」
「やばいってのは?」
「現状、サッシャよりも裁縫スキル高い人ってFDにはいないんだよね」
「待て待て、お前そんなに凄いやつなのかよ!」
ただの不機嫌な猫娘じゃなかった。
「ふん、私の実力が分かったかしら」
「分かったから、コトハちゃんの脇を触るのやめろ。
死にそうだぞ」
「イヤよ。採寸中なんだから」
「おじさん……大丈夫です……
必要な……ことなんですよね?」
恥ずかしさとくすぐったさから涙目のコトハちゃんは醜態は見せまいと必死でこらえている。
「コトハちゃんっていうのね。
大丈夫。大事なことなの」
サッシャの手が、指先が脇から二の腕へ。そして、肩をたどって首筋へ行く。
「綺麗な首ね……肌も柔らかい……」
サッシャの顔がコトハの首筋に近づく。
彼女の鼻がコトハの肌のすぐ近くでひくひくと動く。
保護者代行として、これ以上は看過できない。
軽く拳を作ってサッシャの頭に拳骨をくらわす。
「ちょっと、なにすんのよ!」
「それはこっちのセリフだ。
保護者代行としてこれ以上の認められん」
「なに、保護者って代行できんの?
なら、コトハちゃん。今日から私もあなたのママになりたいの」
「なれねぇよ!」
「ママが2人になりましたね」
コトハちゃんが笑ってそういう。
コトハちゃんは分かっていない。
サッシャなら自分のことをママと呼んでとか言いかねない。
「コトハちゃん、遠慮せず私のこと、ママって呼んでいいからね」
「早速か! ってか、呼ばせるか!
あぁーもう、話が進まねぇ!」
つい先ほど真面目に話すと言ったはずだが、あっという間に脱線している。
「このアイテムで服を作るのよね。
……いいけど。恐らく私ひとりじゃ無理よ」
「無理ってのは?」
サッシャは自分が受けているクエスト一覧を開くと俺たちにみせた。
「これの一番下にあるクエストあるでしょ?」
「なになに≪聖女の装い作成≫? なんだこれ?」
「さっき、この布を加工しようとしたらクエスト受注画面が開いたのよ。
このアイテムただ単純にスキルで加工できるものじゃないわ」
「加工だけでイベントが発生するアイテムなんて初めて見たぞ」
「私もよ。
他からの裁縫の依頼は少なからずやってきたけどクエストが発生するアイテムなんて初めてよ」
「これ、クリアできそうか?」
「私1人じゃ無理ね。
素材集めとかあるからね。協力は仰いでいいらしいからどうする?」
「どうするったって……」
俺はピティとコトハを見た。
「やります! 服を作るお手伝いができるならやりたいです!」
一番に口を開いたのは、コトハだった。
洋服を作る。
小学生の女児には結構魅力的なキーワードのようだ。
「ピティもいいか?」
「私は全然問題ないわよ」
「ってことだ、俺たちも手伝うからよろしくお願いしたい」
「分かったわ」
俺の前にクエストの受注画面が開いた。
クエスト:聖女の装い作成
達成報酬:聖女装い




