刑務所内自殺人事件 14
告知した時間より遅い投稿となってしまって、すみませんでした。
——やはり、気付かれていたか。
恐らく、ヤオにヤンを殺すように指示するのを阻止するために入ってきたのだろう。
自分に向かって『げっちゅ』なんて言った軽さには呆れる他ないが、その呆れを他所に置かなければならないほど、彼女はこちらの行動を一挙一動見逃さないように自分を見つめている。
——この女、飄々と軽く振舞っているが……かなりの激情家だな。黒眼鏡で察することができる程度になっているが……彼女とまともに目を合わせていたら、怯んで動けなかっただろうな。
それを分かったからこそ、メディシンは拘束していた二人から距離をとる。レナートは警戒を解かず、いつでも攻撃できるように剣に手を添えている。だが、それが飾りであることは既に見抜いている。
レナートの恐ろしさは攻撃の手段が多彩なこと。目に見える情報だけに頼っていたら、予想外の攻撃で死んでしまう。
「ユイ先生」
「分かっている。
……こうして会うのは初めましてになるね! メディシン看守長殿! 驚いている様子がないことから察するに……私がここに来るのは予想通りだったかい? まいったな……びっくり箱みたいに登場すべきだったか?」
「お言葉ですが、ユイ先生。演出方面は今ので問題なかったかと」
「花束とか持ってた方が良かったか?」
「ユイ先生?」
ユイの頭を片手でつかむレナート達のやり取りは漫才にしか見えない。随分と余裕だな。それだけ自分が舐められている、ということが分かってしまって腹立たしいが。
やりとりがいったん落ち着いたのか、ユイが再びこちらを見る。
「……やっぱり、きみ。グォシュヌイに嫌な感情を持っているな。きみの感情は一般的な嫌悪や憎悪に当てはめることができないほど複雑で、ドロドロだ。
珈琲スライムの方がまださらさらしていたな」
「粉でしたもんね」
「今そのボケはいらないんだよレナートさん」
お前が言うな。
「よく分からんなぁ。何でグォシュヌイをそんな目の敵にするような感情を持つんだ?
受刑者として結構な問題児だったのかな? 独房に移ったくらいだし」
ユイが顎に手を当てて顔を天井に向ける。グォシュヌイへの感情を自分に聞かないで欲しい。自分にだって、よく分かっていないのだ。
ただ、あれの顔や声、言葉を聞くたびに、言い様のない感情が渦巻くのだ。
『おれ、ひどい小児喘息で戦争に行けなかったんです。だから、戦争に参加人達は全員、国の貢献者として活躍した人達だって、心の底から尊敬しています』
最初に会ったとき、彼はレックにそう話していた。
『三秒先の未来が視える? 凄いじゃないですか! 仲間の生存率を上げる、凄い魔術ですよ!
見逃しがあったとしても、貴女のおかげで助かった命があるのは事実でしょう?
誇っていいですよ』
あるときは自嘲するように自分の特異魔術を語ったジョアンナに、目をキラキラさせながら彼女の利点を語っていた。
『手に持ったものを不可視にする? 武器持ったら最強じゃないですか……魔族への対抗としてこの上ないほど最高ですよ! その魔術を……へぇ! 凄い凄い!!』
あるときは戦時中の活躍を語るキェシェニの話を聞いて素直に称賛するグォシュヌイ。
『ジョアンナから聞きました。メディシン看守長は、あのゲリラ戦地の生き残りなんですよね?』
一年半前のあのとき。外での刑務ができなくて屋内で、たまたまグォシュヌイに遭遇して世間話をする流れになったとき。
会わないように避けていたのに。思い出したくないから避けていたのに。
あれは、メディシンに聞いてきた。
あの戦争について。
『人伝で聞いた話ですけど……勝手に聞いてしまってすみません。
十年以上も闘った、て聞いてどうしても話してみたくて。戦争ですから、おれの想像よりずっと辛く、大変で嫌なこともあったと思います。
それでも、こうして生きて、国のために戦ったことをおれは……おれは凄く誇らしいことだと思っています』
足元に死体が一つ。体から流れている出血からしてまだ新しい。死んで間もないことがよく分かる。
人間だ。第三師団所属で、歩兵二番隊所属の、自分の同期。
罠にかかってしまって、死んでしまった。
——違う。
殺したのだ。
敵に見つかって拷問されて情報を吐かれないように。自分達を守るために殺した。
メディシンが、殺した。
『国のために十年以上も戦った看守長は凄く、カッコいいですよ』
うるさい。
『いいなぁ』
やめろ
『おれも、メディシン看守長みたいに強くなりたいです』
やめろ!!
「うるせぇ!!」
感情のままに口から怒りをぶちまける。目の前の生き物が何か言っているが、どうでもいい。
グォシュヌイは。あいつは。あれは。
——戦争の現実も知らねえクソガキのくせに! いっちょ前に語りやがって!
感情が抑えられない。爆発のまま、手に触れたそれを薙ぎ払う。遠くで何かが割れて、自分の手が濡れる感覚がする。どうでもいい。
でも抑えなくては。
床を何度も踏む。強く、強く、強く。何度も何度も踏む。足の裏の肉を通り越して骨に振動が響いて神経が痛みを訴える。どうでもいい。
抑えなくては。
自分の腕を何かがつかまえる。離してほしくて、それに噛みついた。顎の力は馬鹿にできない。顎に力を込めて、それを噛み千切る。
歯と歯がぶつかって、ぐらつく感覚がした。折れているかもしれない。
どうでもいい。
——どうでも、
「どうでもよくねぇべや!」
「人のことさんざんわやしやがって!」
「俺がどんな思いで大切な戦友を殺したのか、民間人の死体を見ていたのか、ここまで生き残ってしまったのか!」
「なんも、なんもなんもなんも知らんくせに!」
「あのクソガキが! ただただ親の愛に甘えていただけのクソガキが!
あんなやつ、あんな、あんないきもの」
「死んでしまえ!!」
メディシンがどうしてグォシュヌイをあんな風に殺してしまったのか。
どうすれば伝わるのか考えていたら時間が過ぎてしまいました。
今でもこれでいいのか、悩んでいますが、区切りとしてここで投稿します。




