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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
刑務所内自殺人事件
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刑務所内自殺人事件 9

お久しぶりです。

目途が立ったので投稿再開します。

これからは夜の9時30分に毎日投稿しますので、よろしくお願いします。


「どうして死んだのかは、大体分かった」


 ユイの言葉に、ウロチの目が細くなる。笑ったような細さではない。触れれば切れそうな、刃物みたいな鋭利な細さだ。


「死んだトリックまでは想像できたんだが……証拠と犯人が分からん。だから今は下手に言えないんだ。

 そもそもどうしてあのテオフィリンが増えたのかよく分からないし」

「普通に数え間違いなのでは?」

「それはない」


 レナートの指摘を否定する。これにはちゃんとした根拠がある。


「パヴェウ先生は一日の終わりに薬を数える、て言ったよな? 先生はそのとき紙に書いて残すんだ。記録を見させてもらったが、確かに数が違くて、五日分多かった。あの記録に嘘は無いぜ」

「だとしても、どうしてそれが事件から六日も経った後なんだ。トイレに流すなりして処分すればよかったものを……」


 ユイの言いたいことが何となくだがつかめてきた。あの薬を戻したのは、犯人として合理的ではない、ということだろう。


「なぜ薬を戻したのか。処方された者ではないのは確かだけど……理由が分からん。

 どうして戻したのかが分かれば、事件はだいぶ進むんだが……」

「パヴェウ先生にはひどいですけど、鍵を盗まれたとかは?」

「そんな話は聞いていないな。あったら大問題だ」


 ユイの口から煙が勢いよく出て行く。画面に当たって円状に広がっていく紫煙。

 それを見ながらレナートは煙草を口に挟んだまま煙を吐き出す。ここにヤオがいなくてよかった。ヤオは自分と違って嫌煙家なのだ。

 ユイが画面を睨むこと数分。


「……駄目ださっぱり分からん! いったん脳を休ませるわ」


 監視鏡映像再生器を乗せていた机を蹴る。そうして椅子に座っていた自分との距離を作る。両足を上へ綺麗にまっすぐ上げ、降ろして勢い良く立ち上がる。

 綺麗な椅子の立ち方だな。


「レナートさん、ついて来てください。外で甘いもん食いましょう!」

「賛成です。どれをいただきますか?」

「いちごのケーキかチョコのケーキか、迷うな~」

「いちごのケーキになさったらいかがです? 私はチョコのケーキをいただきます」

「共食いじゃん……」

「分かり切ったことですけど聞きますね。私の何を見て判断されました?」

「ヤコブさん達は事件を調べてくださいね~」

「私の話を聞いてますか?」


 こちらに手を振りながら監視鏡室を出て行くユイとレナート。ついて行った方がいいのか確認の意味を込めてウロチを見上げるが、二人で考えたいこともあるんでしょう、と言われた。

 ——確かに、俺達全員容疑者であることを考えるとあまり自分の考えを言いたくはないか。


「ユイ先生達が休憩している間、私達はもう一回目撃証言を洗いましょうか」

「川に行くんですか?」


 ロッソよ、何でその返事になるんだ。

 レックの突っ込みは胸の内に留めた。言っても絶対に疲れるだけだ。




 ユイと無機質さしか感じない廊下を歩く。等間隔で設置されている照明が自分達の影を作る。

 食堂でケーキを貰ったユイとレナートは、人気のない場所を探して歩いていた。外で食べようと思っていたが、今は昼休憩ということもあって受刑者達が遊んでいるのだ。流石にあそこでは事件について話せない。

 だが、いくら歩いても事件について話せるようないい場所が見つからない。


「しょうがない。レックさん達と初めて会った、あの部屋にしますか」

「先生にとっては初めて、ですけどね」

「レナートさん、彼を知っているんですか?」

「ええ。会ったのは初めてですけどね」


 幸いなことに、レック達と会った部屋は今いる場所から近かった。中に誰もいないことを確認してから入室する。

 椅子を引いてユイを座らせ、続いて自分も座る。


「通信兵として、彼は指揮官の側にいましたから。彼は前線の指揮官の通信兵として行動していたんです。無線でよく、彼の声を聞いていました」


 黒い悪魔になってからですけどね、とおどけるように肩を竦めながらチョコのケーキにフォークを刺す。


「……レックさんを見たレナートさんの感情の意味が分かったよ。懐かしかったんだね?」

「そういうことです。向こうはどう思っているか知りませんけど」


 一口分の大きさに切ったケーキを口に入れる。口に広がるチョコ特有の甘さと舌を塗るような濃厚さ。一介の刑務所で出していい質ではない。腕のいい菓子職人でも雇っているのか、と聞きたくなる。どこに経費を使っているのか問い詰めたい。


「ヤコブ警部については? 彼の感情、かなり薄いんでしょう?」

「いや、薄いだけでちゃんとあるよ。おそらく感情エネルギーが一定なんだろうね。人並みに喜怒哀楽は持っているけど、それを持つ理由や発露が、私達より少ないだけ」 


 恐らく、そういう思考回路の人間なんだろうな。

 いちごのケーキのいちごを口に入れて咀嚼して飲み込むユイを見ながら一緒に貰った珈琲(粉末珈琲一杯分)を見つめる。


「それよりもヤバいのが、いたんだけどね……」

「どいつですか?」


 ユイの目を通してヤバいと言わせるのは、相当だ。警戒して損はない。


「いや。そいつは犯人じゃない。根拠を今は言えないが……犯人である可能性は限りなく低い。

 ——それより、 レナートさん。きみはこの事件の犯人……想像ついているんじゃないですか?」


 フォークを指で挟んだまま、両手の指を組んでこちらを見る。覗き込むような顔の角度で見ているが、相変わらず黒眼鏡の奥は見えない。

 だが、その目がどんな感情を宿しているのか想像はできる。

 珈琲を一口飲んで、自分の中の思考を整える。


「……テオフィリンを戻したのは犯人ではありません」

「根拠をお聞きしても?」

「医務室で薬を入手していたらパヴェウ先生が気付いています。薬が減っている、と。しかし今回は逆に薬が増えている。つまり犯人はあの医務室以外でテオフィリンを入手していることになります。だから、戻したら逆に不自然になることを知っている」

「でも、薬は実際に戻されているし、増えている」


 チョコのケーキにフォークを刺して一口分の大きさに切り分けて、口に入れる。

 そこまで言えば、自分が言いたいことなど分かるだろうに。彼女は自分に言わせたいらしい。性格が悪い。

 ——だから、彼女は自分と二人きりになった。

 監視の目がないことは自分の特異魔術の干渉能力で分かっている。

 レナートは手に持っていたフォークを置いて、告げた。


「犯人は看守側の人間です」


 ユイの黄色くて薄い唇が横に伸びた。


「正解だよ、レナートさん」


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