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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
死人に梔子
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死人に梔子 4

私はこれをご飯食べながら書いていたので全く気付きませんでしたが、これは食事時に読むものではない描写があります。

特にカレーを食べている方は食後に読むことをお勧めします。

 椅子を倒す勢いで立ち上がる。同じタイミングで何かが激突する音。聞こえた方向へ首を巡らせば、ジョーダンが壁に激突して倒れている。かなりの勢いでぶつかったのか、壁に大きくひびが入っている。

 ——呪文なしでこの威力? しかも魔術発動の予備動作が一切なかった。

 ゆっくり、本当にゆっくりと振り向く。下手な動きは相手を刺激すると、本能が警告している。

 周りの喧騒など全く気にしてない様子で、ウエリは水を飲んでいる。

 あそこまでの勢いでぶつけられたら、相手はただで済まない。普通なら肋何本かは折れている。友人とはいかずとも、ギルドでそれなり以上の交流があったはずだ。彼の行動は、仲間にしてはあまりにもひどい仕打ちだった。


「——ああ。修復しろ(ナプラバ)


 皆の視線にようやく気付いたのか、ウエリは修復の魔術を壁にかけた。三秒も経たずにひび割れた壁は元通りになった。

 魔術の発動速度・展開速度。どちらも並の魔術師では実行できない速さだ。戦時中のフランチスカといい勝負だ。


「彼奴なら心配いらないよ。皆が心配しているからね」


 ウエリの言葉通り、ジョーダンはすぐに復活した。しかも怪我している様子は全くない。

 壁に当たった箇所をさすりながらさっきまで座っていた椅子に戻る。


「お前なぁ~。いくら俺の言い方が癪に障ったから、てやっていいことと悪いことがあるだろ!」

「言ったらお前、防ぐじゃない」

「当たり前だ!」


 なんて気安いやり取り。もしやこれは日常茶飯事なのでは、と疑ってしまうほど彼らの会話は不自然が全くなかった。

 ラマンが眉間のしわを揉んでいる。案内した相手達が急に喧嘩紛いのことを始めたらこんな表情になるのだろう、と表現するほど疲れ切った顔をしていた。

 ——とりあえず、今分かっている情報をまとめるか。

 特異魔術で紙とペンを用意する。今までの話で分かったことを箇条書きにする。


 一つ。ジョーダンが真っ先にサリバンの存在に気付いた。

 二つ。ジョーダンは相手の魂を知覚できる。

 三つ。目撃者三人はサリバンの葬儀に参列していて彼の遺骨を見ている。

 四つ。馬が恐怖したことで今回の事故は起こった。


 ——うーん……。


「全然分からない」

「何してるんだ……てなんだその字。教科書かよ」

「娼婦(姉)達から、字は徹底されましたから」


 娼婦や主人、近所の医者から色々なことを教わった。教えてくれたことをすぐ身につけたのがかなり面白かったようで、文字の読み書きだけでなく歌や演奏、踊りや堕胎薬など色々教えてくれた。

 彼らには本当に感謝している。自分を拾ってくれた日に薬の材料や服、食料を送るくらいには。

 ——送るとお前の誕生日みたいな日に何でお前が贈り物をするんだ、て言われるけど。


「いったんユイ先生に情報を送ります。少々お待ちを」


 文書通信でこれまで分かったことを送る。すぐに返事がきた。速いな。

 ベルンハルトが視線をよこす。気になっているのがよく分かる。まあ、誤魔化すほどのことでもないが、少し腹芸はできた方がいいと思う。


「蘇生術などの禁術について聞きたい、と。ユイ先生は魔術が使えないから、ピンとこないのでしょう」

「マジで魔術にちんぷんかんぷんなんだな」

「本当に推理小説家なの? そこの知識がないと小説なんて書けないと思うけど」

「担当編集者が優秀なんですよ」


 ユイの凄いところは好奇心と行動力だ。調べ出したら絶対ヤバいものを掘り出すから、上手い具合に抑えていたのだろう。

 ——それも、怪しくなりましたけど。


「禁忌の一つである死者蘇生か……またそんな面倒なもんを」

「ウエリが昔挑戦して死にかけたやつじゃん」


 ベルンハルト、いつの間にか頼んでいたケーキを吹き出した。

 ラマンや自分も、彼ほどではないが驚いている。禁術の使用は倫理や手順の複雑さや代償などの理由があって禁術なのだ。

 ——何でやろうとしてるの何で普通に暴露できるの。


「昔古代の竜や巨人を復活させようとして、大失敗したのよ。誓って、人にやっていない」

「蘇生術の時点で大問題なんだよなぁ〰〰。俺警察なんだよなぁあ〰〰〰〰!!」

「許して。今から二十年以上前の話だから」

「俺警察であんたの情報見ました。今三十六歳で二十年以上前だと十六歳より前にやってんだよ。ふっつーにヤバいんだよ。それはそれで大問題なんだわ」


 ベルンハルトがじぃ、とウエリを見詰める。ウエリは無視して猫のニニで暖をとっていた。


「では、ウエリさん。そこで頭を抱えている警察に代わって、私が聞きます。

 先生の言うように、蘇生術で復活した、という可能性は?」

「ないな。百パーない」


 コートのポケットから棒付きの飴を取り出して口に入れる。禁煙中なのか。


「蘇生術が禁術なのは、倫理・道徳より再現性の難しさにある。

 蘇生術に必要なものに生贄が必要なのは何故か知っているか?」


 問われた三人は顔を見合わせる。


「普通に考えれば、自分でまかないきれない魔力の補填要素だけど……その聞き方をするってことは違いますよね」


 すぐに答えたのはラマン。答えというよりは、自分の意見を述べたようなものだが。だがこれで自分の考えを言えるようになった。


「己の覚悟を見せるためとかですか?」

「誰に見せんだよ。ソセイ=ジュツさんにか?」


 レナートの考えがベルンハルトの冷静な突っ込みによってボケに変化した。ウケ狙いで言ったわけではないのに、たった一言で漫才に。味付けした料理人もびっくりの味変である。


「違うよ。もっとシンプルに考えようよ。イメージ的にはうーん……うんこ!」

「どんなイメージだよ」

「食事中にする会話ではないよね」


 呆れという感情一色に染まるベルンハルトとジョーダン。ラマンは猫の耳で遊んでいる。どうやら思考を放棄したようだ。

 ——あ、そういうことか。

 思考をやめなかったレナートは、左手の平を押すと音と光が出る装置に変換させて右手で思い切り叩く。


 ピンポーン!


「分かりました!」

「なにその音なにその光なにその道具」

「カレー味のうんこかうんこ味のカレー、てことですね!」


 左から衝撃。流石の警察も食事で話すべきではない会話に我慢ならなかったみたいだ。ベルンハルトの拳を素直に受け止め、ウエリの返事を待つ。

 ウエリは整えられた爪を顎に当てて数秒。


「正解!」

「嘘だろ?」

「もっといい例えなかったのか?」

「今うんこって言った?」


 ベルンハルトとジョーダンの顔が歪む隣で、ラマンが会話に入る。途中の会話を全く聞いていなかったのか、怪訝そうに四人の顔を見ている。ラマンが遊んでいた猫は顔が不細工になっていた。今までの会話を聞いていたのだろうか。

 ——畜生にそんな知能、あるわけないか。


「カレーを食べたいから再現しようにも材料がうんこだった場合食べることはできない。食べることを考えたらちゃんとした素材が必要。その理屈で考えると生贄が必要なのは対象が人間としての行動ができるようにするため……もしや生贄とは対象と同種族の生贄ですか?」

「正解」

「でも、肉や骨などの素材を集めても、肝心の中身……魂の補填の問題点が残る」

「それも正解。その部分の再現が難しくて、」

「だけど生贄の魂で代用するならこの問題点は解決できるけど、それで上手くいくなら蘇生術が禁術にはならない。なら何かしらの問題が……」

「聞いてる?」


 空中の塵から紙に変換させ、自分のこれまでの考えを書いてまとめる。

 ——魂と肉体の癒着が成功しない、という問題点があるのか? 成功率を上げるために膨大な魔力が必要なのは接着面を滑らかにする潤滑油みたいな役割でもあるのか? そもそもこの蘇生術の成功条件が曖昧だ。仮にこの条件を対象の肉体が再現される、だけなら問題なく成功できるだろう。実際、化石などから生前の姿を推測して再現する技術があるから。でもこれに本人の性格や思考・行動パターンなどを入れると難易度は大きく上がるだろうな。成功条件が細かくなる上に、条件達成までの納得が遠くなる。それならば魔術師の、(いっで)


「戻ってこい!」


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