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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
交差と発覚
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交差と発覚 2

 声は、アスクレピオスが持っている携帯からしていた。

 ——これは、特異魔術だ。魔力抜き以上に厄介すぎる。ここまで強力なら、何かしらの制限があるはず。その隙をつけば……。

 例えば、特異魔術以外での会話ができないとか——。


「マラカイト。制限を解いてくれないか。私達まで拘束してどうする」

『あぁ。お前もいたのか、ロコ。ヒュール以外は動いていいぞ』


 ——は、話せるのか? 声を聞いた全員跪かせる力があるのに? そんなの……あまりにも都合が良すぎる。ここまで都合がいい特異魔術は、黒い悪魔だけで十分よ!

 肩を揉みながら立ち上がるダチュラが何か言っているけど、常識外の出来事の連続で耳に入らない。


『きみら、私達を置いて会話し過ぎだろ。いれてほしーなー!』

『いれて、と言えばよろしいのでは?』


 黒い悪魔、なんてことを思ったせいか、電話の向こうから聞きたくない声が聞こえた。

 あの笑い声を、自分はよく覚えている。


『私がアスクレピオスくんに電話するよう指示したのは、きみがどうやって本当のララさんを殺したのか、暴いていないからだよ。

 彼はそこまで思考が至っていないみたいだけど……きみ、あのとき彼女を殺しきっていないだろう?』


 ——この女、もしかして気付いているのか?

 あの、死体の絡繰りに。この場にいないのに。実物を見ていないのに。

 見抜いたというのか?


『死亡時刻に嘘偽りはない。それはダチュラさんやアスクレピオスくんの発言で確かなものとなった。となると、死んだ場所と行方不明だった二週間が謎として残る。

 殺して冷凍し、隠す。頃合いを見て解凍させて発見させる、なんて雑なトリックはすぐに警察に見抜かれる。

 では、どうやって発見当時と死亡時刻が重ねたのか。

 簡単なことだ。皆に発見されたあのとき、彼女は死んだんだ』


『死体として発見されるまでの二週間、ヒューイさんによって隠された彼女は、あそこでゆっくり死んでいったのさ』


 左側の首に衝撃。触れば火の魔術をくらったようで、触った手が真っ赤になっていた。

 子供の耳を塞いだ母親が、魔術を行使したようだ。


「探偵の言葉なんかどうでもいい。こんな化物、はやくつかまえて!」


 警察が母親に駆け寄って何かしているようだが、お前らの行動が遅いせいだと一喝されてしまった。


『何が起きたのかよく分からないが、ご要望に応える前に一つだけ。

 きみが、ララさんを傷つけた一瞬でここまで考えられたなんて思えない。そこでララさんに成り代わるなんて、すぐに至れる思考じゃない。

 それは私の目の前にいる連続殺人犯のこの子も同じ。

 ……誰の入れ知恵だ?』


 ユイは静かに質問するが、それは質問ではなかった。

 この事件に首謀者がいるという、確信に満ちた、確認だった。

 これだけはっきり言われたら、否定できない。


「……教えない」


 だから、これだけしか答えないことにした。これだけで十分だろう。

 案の定、彼女には伝わったようだ。

 彼女からの言葉は、返ってこなかった。


『……レナートさん。この子供は必ずつかまえろ。拷問してでも吐かせる』

『お言葉ですが、ユイ先生。拷問で得られる情報は信憑性が薄い上に、この子は痛みに強い。

 別の方法がいいとおも、』


 黒い悪魔の言葉が途切れた。


『レナートさん!?』

『止まれ!』

『く、首が、首が!!』

『叫ぶ暇があるなら頭伏せてろ!』


 レナートさん、と叫ぶユイの言葉を最後に通話が終わった。

 通話終了を告げる音だけが、静かになった空間に嫌というほど響く。


「せんせい……?」

「向こうで、何があったんだ?」


 戸惑うバルバラとアスクレピオス。

 これを好機ととらえて行動するには警察達が油断していない。向こうの出来事は向こうの出来事として完結しているのだ。何より、電話の向こうの警察の特異魔術がまだ機能している。強力すぎる、なんて済ませていいものではないほどの力だ。

 ——どう逃げたものか。


「助けてやるよ」


 知らない男の声が、頭上からした。




 作家の言葉に提言しようとしたレナートの首が、吹っ飛んだ。

 本当に一瞬のことで、誰も反応できなかった。作家が倒れそうになるレナートの体を掴んで名を叫ぶ。

 視界の端に動く影。


「止まれ!」

「く、首が、首が!!」

「叫ぶ暇があるなら頭伏せてろ!」


 狼狽える作家の頭を掴んでしゃがませる。レナートを掴んでいた手が離れて地面に倒れた。その姿に作家が息を呑む。黒眼鏡で顔の半分が隠れていても作家が動揺しているのは丸分かりだった。

 レナートが死んだ。今対応できるのは自分と警察数名。他の警察は避難誘導でいない。自分達だけで対応しないといけない。

 『黒い悪魔』を殺した人間と。

 腰に提げていた銃を手にとって構える。

 自分の特異魔術は発動していたようで、止まっていた黒い影に銃口を突きつける。


「どういうことか、聞こうか——ロフ・トカ鑑識官」


 銃を向けられた黒い影——ロフは、栗色の髪をたなびかせながら口の両端をつり上げて笑う。


「この子はある方にとって必要なものなんです。警察なんかにつかまえられると困るんですよ」

「……証拠隠滅もしていたのか?」

「はい。といっても、魔力痕跡を消しただけですけど」


 答えるロフの顔に迷いはない。

 自身の行いが職務違反に該当する者であると認識していての行動なのは、長年警察として人間を見てきた自分にとっては容易に分かった。

 ロフへ銃口を向ける。


「おいおい。戦争知らずの坊ちゃん共に俺がつかまえられる、なんて飴ちゃんよりも甘い考えは捨てろよ。

 俺が先にレナートを殺したのは、脅威はレナートだけだったからだ」

「私の特異魔術に引っかかっていての言葉なら、盛大に笑ってやるよ」

「それが、甘いって言ってんだ」


 隣に倒れていたレナートの死体が、燃え上がった。灰まで燃やさんとするその熱量に言葉を失う。

 レナートはもう死んでいる。

 なのに、何故ここまでして消そうとしている。

 ——いや、その謎は後だ。今は、目の前の敵に集中しなければ。

 青い目を目の前のロフを見据える。レナートと同じ、第四師団の第五小隊所属。いや、所属は重要ではない。戦争で殺人経験を積んでいる敵が自分達の前にいることが重要だ。犯人の確保とは訳が違う。

 最悪の場合、死人が出てもおかしくない。

 見知らぬ青年が震える作家の肩を掴んで引き寄せる。敵ではなさそうだから、彼女のことは任せてよいだろう。

 銃の安全装置を外して、引き金を引いた。

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