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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
交差と発覚
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交差と発覚 1


『きみは、頭を開くという手術に不安していたとき、シャルさんに心を救われた。

 心を奪われたかどうかは無視する。正直、そこはあまり重要じゃない』


 図書館の空気を震わせる唯一の音として、通話口から女性の声がする。

 不愉快極まりない。


『一番大事なのは、きみが……きみが、シャルさんと近かったララさんに嫉妬したことだ。

 きみはほとんど衝動的に殺した。その様子が目に浮かぶよ』


 実際に見ていないくせに、この女は何を言っているのだろうか。

 警察が一緒にいた利用者達を背後に置いて自分を取り囲む。


『我に返ったときは焦ったろうね。だって自分が犯人だって言っているようなものだから。

 だから、魔術で姿を偽った。ただ偽っただけじゃない。自分を見た人から、『ブロシア・ダラダット』ではなく『ララ』として認識してもらうように自身の見た目に細工をした。そして、それが自然な形になるように、町を——きみの魔力で満たした』

「魔力ってそんなに万能なの?」


 バルバラが近くにいる警察に質問する。

 警察、ダチュラは眉間のしわを揉みながら答える。


「……実現する可能性はかなり低いが、不可能ではない。

 そもそも、魔術とは『魔力操作の統一化』を目的に作られた計算式だ。魔術に下級・中級・上級があるのがその証拠。魔力消費量を設定させて魔力のみの使用を止めさせ、制限させた」

「魔力はとてもふわっとしていますから! ふわっとした目的だとふわっとした結果しか出せないんですね! その状態だといらぬ被害が生まれますから、魔術という計算式で細かく設定する必要があるんです!

 その点、特異魔術は個人の才能の開花という感覚的なもの。対象を任意の場所に送る、という魔術なら高度な転移系統も特異魔術なら魔力をちょっと操ればちょちょいのちょい、でできますからね!」

「馬鹿っぽい補足ありがとうセルド。もう喋らなくていいぞ」

「分かりました!」

「喋らなくていい、て言ったろ!」


 かなり強めに小突かれたセルドは痛そうに顔にしわを作る。


「僕が貴女を怪しいと思ったのは、ダチュラさんからある話を聞いたからです。

 シャルさんとダチュラさんが会話しているときに割り込んできたと。病院のカルテを例に出して。

 その話を聞いたとき僕は思い出したんです。対応に注意の印がついたカルテについて話していたな、て。

 僕の話を聞いてそれを連想したのならおかしいことではないんです。ロッソさんやバーシアが言っていたら僕は何も疑問を持たなかった。

 でも、貴女がその話をするのはおかしいんです。

 だって、貴女は僕達と一緒にいなかった」


 え、と驚いた声をあげたシャルを始めに、周りが騒がしくなる。

 ——この指摘が来るかもしれないから、下手を踏んだと思ってしまった。

 アスクレピオスの質問に答える気は起きなくて、爪先を見つめていた。


「現場の棚の仕組みについて確認をとる可能性があったから一緒にいましたが、僕達はそこから分かれて、バーシアとロッソさんの三人で被害者の情報を収集しています。貴女が病院のカルテを話すのはおかしいんです」

「私は病院にいたのよ。カルテについて思うところがあってもおかしくないでしょう」

「今、ここにいる貴女はララさんなのに?」


 また、下手を踏んだ。

 上手く誤魔化せていたことが、誤魔化せなくなっていく。

 自分の正体が、バレてしまう。

 ——私があの女じゃない、てシャルが認識してしまう。


「貴女が姿を隠して僕達の側にいたのなら、あの監視記録を見つけにくくさせるようにあの道具に魔術をかけることも可能です。警察ではなく、僕達にしたのは、見抜かれる危険性があるからでしょうね。

 そこまでして何を誤魔化したかったのか、僕には分からなかった。

 ダチュラさんから、遺体がララさんに変わったという連絡が入ったのはその頃でした。

 そこから、貴女の目的を知ることができました。……先生の力を借りて、ですが」

「セルドが遺体にかけられた魔力を豚にしたことで剥がしたんだ」


 ダチュラの言葉が遠い。頭に届かないくらい、理解不能なことを言っている。

 肉眼で捉えることができない。できたとしても感覚的な魔力を、物質的なものにした。ある、という事実が確かなものでないとできないのに。

 ——魔力操作と同じくらい、自由度が高すぎる……!


「——お前、イカれてるわ」

「犯行を認める、と捉えてもいい発言だが」


 ダチュラが右手をジャケットの内側に入れる。そこにしまっている銃をいつでも取り出せる態勢だ。


「知られても、またシャルの魔力に干渉して塗り替えればいいだけだもの。問題ないわ。邪魔をするなら殺すだけだし」

「そのせいで、シャルさんの脳に多大な負荷がかかっていることを理解して言っているの?」


 アスクレピオスが自分の考えに真っ向からぶつかる。


「シャルさんの頭痛は脳に多大な魔力負荷がかかったことによる防衛反応だ。ロッソさんが先生から話を聞いてくれました。個人情報になるため、詳しく言うのはやめておきますが、検査結果から脳から大きな魔力反応があったんだ。本人の暴走か、他者によるものか。詳しく検査するために次の日に精密検査の案内をしたみたいですが……その様子だと、それすらも覚えていないみたいですね」


 翡翠色の目が、シャルを映す。

 背中に、冷たいものが流れた。

 攻撃しようと体内に流れている魔力に意識を向けた瞬間、体から力が抜ける。この感覚には覚えがある。

 ——魔力封じ、いやこれは……魔力抜き!

 内側に魔力を押し込める形式ではなく、外に逃がす形式の拘束魔術。これで何匹もの魔族を殺したからすぐに分かった。

 これでは魔力を一点に集中させて、内側から壊すようなやり方ができない。

 魔力封じより構成が複雑なこの魔術を短時間で形成できたとは思えない。

 右手を入れたまま動かないダチュラを睨む。


「おまえ……仕掛けたな!」

「そこから動かないでもらおうか」


 ショルダーホルスターから銃を取り出して銃口をこちらに突きつけられる。そうしている間にアスクレピオスがシャルの額に手を伸ばす。

 やめろ

 白い指が、額に触れる。

 やめろ

 本能的に、気付いていた。


「私の希望を壊すな!」


 体が膨れ上がる感覚。その勢いに任せて、アスクレピオスに怒りを向ける。



『——跪け』



 時間が、止まった。

 誰の言葉なのか分からない。だけど、誰かの言葉で自分の体が、魔力が、心が、逆らえない。

 アスクレピオスもシャルも、ダチュラも、皆。セルド以外の全員が膝をついていた。



『拝聴しろ』



 全員、言葉どころか、声一つ上げることができなかった。



『王の言葉だぞ』



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