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昭和のテーマパーク(観光地)を体験してみよう!  作者: 僧籍
昭和のテーマパーク(観光地)を体験してみよう!

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9/13

ex.エピソード 9 昭和の観光地の1日のシュミレーション 千葉県『ディズニーランド』

昭和60年(1985年)、つくば万博で「21世紀の未来」を覗き見た翌日。健二と真由美は、開業からまだ2年余り、日本中の若者が憧れた最新の魔法の国「東京ディズニーランド」のゲートをくぐりました。


赤いファミリアは自宅に置いたまま。二人は京葉線がまだ全通していないため、浦安駅から「お買い物バス」のような賑やかなシャトルバスに揺られ、広大な駐車場へと到着したのです。

魔法の王国の幕開け


「健二、見て! 本当にお城があるわ……!」


ワールドバザールの壮麗なビクトリア様式の屋根を抜けると、目の前には青空にそびえ立つシンデレラ城。真由美は、前日の万博での知的な装いから一転、パフスリーブのポロシャツにデニムのタイトスカートという、活動的ながらもお嬢様らしい清潔感あふれるスタイルです。


当時のディズニーランドは、今のような「絶叫マシン」の殿堂というより、もっと「夢と魔法」の情緒を大切にする大人の社交場のようでした。


「まずはあそこだ、真由美。一番人気なんだってさ」


健二が指差したのは、アドベンチャーランドの『ジャングルクルーズ』。当時はまだファストパスもスマホアプリもなく、二人は「ビッグ10」という、アトラクションごとに切り離して使う紙のチケット(AからEまでのランクがあった)を手に、ワクワクしながら列に並びました。


「船長さんの喋りがナウいわね」と真由美がクスクス笑う。健二は、本物のジャングルのような植生に驚きながら、ニコンFE2のシャッターを切り続けました。


1985年の「ハッスル」と「ミート・ミッキー」


昼食は『クリスタルパレス・レストラン』。ガラス張りの温室のような優雅な空間で、二人はハンバーグステーキを囲みました。


「ねえ健二。昨日の万博のロボットもすごかったけど、ここのオーディオ・アニマトロニクス(機械人形)は、もっと『生きてる』感じがするわ」


「そうだな。科学の力で夢を見せる万博と、夢を形にするために科学を使うディズニー。どっちも俺たちの世代には刺激が強すぎるよ」


食事のあと、二人はラッキーなことに、シンデレラ城の前でミッキーマウスに遭遇しました。当時のミッキーは、今よりも少しだけクラシックな顔立ち。健二は、隣に並ぶ真由美が緊張して少し肩をすくめるのを見て、思わず微笑みました。


「真由美、ミッキーの横でピースしてみて!」


カシャッ。

1983年の関ケ原ウォーランドで落ち武者の横にいた二人が、今は世界一有名なネズミと並んでいる。その対比に、健二は自分たちが時代を駆け抜けていることを実感しました。


****

夏の湿り気を帯びた夜風が、東京ディズニーランドのトゥモローランドに流れていました。


「ねえ健二、次はいよいよ……!」

真由美が、期待に胸を膨らませて隣の健二を仰ぎ見ます。彼女の手には、ポップコーンのバケットと、先ほどショップで買ったばかりのミッキーマウスのカチューシャが握られていました。


二人の目の前に掲げられていたのは、銀色に輝くスペーシーな看板。

『キャプテンEO』。


「製作総指揮がジョージ・ルーカスで、監督がフランシス・フォード・コッポラ……。それに主演が、あのマイケル・ジャクソンなんだぜ。これを見なきゃ、今の時代に乗り遅れるよな」

健二は少し得意げに、雑誌『ポパイ』で仕入れた知識を披露します。


専用の3Dメガネを受け取り、シアターの中へ。

冷房の効いた場内は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていました。期待感で肌が粟立つような独特の緊張感の中、ついに照明が落ちます。


「わっ……!」

真由美が思わず声を上げました。

3Dメガネを通した視界の向こうから、小惑星や宇宙船が自分たちの目の前まで飛び出してくるのです。健二もまた、思わず手を伸ばして空を掴もうとしてしまいました。


そして、スクリーンにキャプテンEO――マイケル・ジャクソンが登場した瞬間、シアターの熱気は最高潮に達しました。


白と銀を基調とした近未来的なスーツに身を包んだマイケルが、軽やかなステップを踏み、力ずよくリズムを刻む、指先から魔法のような光線を放ち、次々と怪人に姿を変えられた人々を復活させ、ともにミュージカルの様にマイケルと一体になった息の合ったダンスを繰り広げる。ギーガー風のデザインの暗黒の女王に支配された冷たい鋼鉄の世界が、彼の歌声とダンスによって、色鮮やかな楽園へと変貌していく。


「健二、見て! 画面から飛び出してくるみたい!」

「ああ、すごい迫力だ……!」


物語のクライマックス、名曲『We Are Here to Change the World』に合わせてマイケルがムーンウォーク、スピン、ロボットの様なダンス、リズムを刻むダンス、なんといっても、マイケルと何十人ものダンサーが一部の隙もなくシンクロするダンスは彼のミュージックビデオの名物だ、これを披露すると、二人はシンクロする光と音の渦に完全に飲み込まれました。ただの映画ではない。まるで自分たちもキャプテンEOの宇宙船のクルーとして、一緒に世界を変えているような、そんな高揚感が胸を突き抜けます。


上映が終わり、シアターの外に出ると、パレードの音楽が遠くから聞こえてきました。


「すごかった……。魔法って、本当にあるのかもね」

真由美は、まだ夢見心地のような表情で夜空を見上げました。


「ああ。きっと、世界はあんなふうに変えられるんだな」

健二は、隣を歩く真由美の少し火照った横顔を見て、心の中で確信していました。この夏、この場所で彼女と一緒に見た光景は、どんな3D映画よりも鮮明に、一生消えない思い出として刻まれるのだと。


二人は余韻に浸りながら、エレクトリカルパレードの光が踊るワールドバザールの方へと、ゆっくりと歩き出しました。


****

エレクトトリカルパレードと未来の約束


日が落ち、園内に魔法の夜が訪れました。

当時、始まったばかりだった『東京ディズニーランド・エレクトリカルパレード』の光の洪水が、ファンタジーランドからゆっくりと進んできます。


バロック・ホウダウンの電子音が響き、数十万個の電球に彩られたフロートが通り過ぎるたび、真由美の瞳に七色の光が反射しました。


「健二……綺麗。なんだか、ずっとこの夢の中にいたいみたい」


夜の帳が下りた東京ディズニーランド。ワールドバザールを抜けたシンデレラ城の前で、二人は光の洪水がやってくるのを今か今かと待っていました。


「健二、あっち! 光が見えてきたわ!」


真由美が、つま先立ちをしてパレードルートの先を指差します。遠くから聞こえてくる、あの独特の電子音――バロック・ホウダウンのメロディ。1985年、始まったばかりの「エレクトリカルパレード」が、闇を切り裂くように現れました。


「すごいな……。万博のレーザーもすごかったけど、こっちはまるでお伽話がそのまま光り輝いて動いてるみたいだ」


健二が感嘆の声を漏らすと、最初のフロート、ブルーの騎士が乗る巨大な時計のユニットが目の前を通過しました。何十万個もの色とりどりの電球が、音楽のリズムに合わせて明滅し、二人の顔をカラフルに染め上げます。


「わあ……ッ! 健二、見て! アリスよ! チェシャ猫が消えたり出たりしてる!」


真由美は、子供のように目を輝かせて、通り過ぎるフロートに手を振ります。光の粒が尾を引いて流れていくような幻想的な光景に、彼女は健二の腕をぎゅっと掴んで離しませんでした。


「本当だ、あんなに大きなフロートが全部電気で動いてるなんて。これこそ最新の技術だよな」


健二は、感動しながらもどこか冷静に、その電飾の緻密さに圧倒されていました。蒸気機関車、白雪姫、ピーターパン……次々と通り過ぎる光の物語に、二人は言葉を忘れて見入ってしまいます。


「ねえ、健二。なんだか、私たちもあの光の中に吸い込まれちゃいそうね」


真由美が、少し上気した顔で健二を見上げます。


「ああ。さっきまでの万博が『現実の未来』なら、ここは『夢の未来』だな。でも、どっちも同じくらい眩しいよ」


パレードの最後、ひときわ巨大な「It's a Small World」のフロートが、万国旗を光で描きながらゆっくりと遠ざかっていきます。音楽が小さくなり、周辺の街灯が再び灯ると、真由美は深く息を吐きました。


「……夢を見てたみたい。健二、私、明日になっても目が覚めなかったらどうしよう」


「はは、大丈夫だよ。目が覚めても、俺が隣にいるから」


健二が少し照れくさそうに言うと、真由美は「……もう、健二ったら」と笑い、今度は自分から健二の手を握りしめました。


「ねえ、健二。さっきの光のパレード、2000年になっても、ずっと続いてるといいわね」


「そうだな。きっと形を変えても、このドキドキは変わらないはずだよ」


二人は、シンデレラ城の背後に上がる花火の音を聞きながら、魔法の余韻に包まれたパークをゆっくりと歩き出しました。1985年の夜。エレクトリカルパレードが描いた光の軌跡は、二人の行く末を祝うリボンのように、いつまでも心の中で瞬いていました。


****


エレクトリカルパレードの光の余韻が残る中、二人は巨大な白いドームが闇に浮かび上がる「スペース・マウンテン」の前に立っていました。1985年、ここはまだ東京ディズニーランドで最もスリリングな「宇宙旅行」の出発点でした。


「ねえ、健二……本当に大丈夫かしら。さっきから聞こえる悲鳴、すごいのだけど」


真由美が、近未来的なエスカレーターを上がりながら、少し不安そうに健二の腕を掴みます。


「大丈夫だよ、真由美。万博の『くるま館』や『三菱未来館』で宇宙体験は予習済みだろ? あれの本物版だよ」


健二は強気な口調で言いつつも、心臓の鼓動が早くなるのを感じていました。Qライン(待ち列)に流れる電子音と、青白い光の演出が、否応なしに緊張感を高めていきます。


ついに二人の順番が来ました。ロケット型のライドに乗り込み、安全バーを下ろします。


「健二、怖いから手、離さないでね!」

「分かってる。しっかり掴まってろよ、真由美!」


ロケットがゆっくりと発進し、光のトンネルを抜けて暗黒の宇宙空間へと上昇していきます。カチカチというチェーンの音が、静まり返ったドーム内に響き渡りました。


そして、頂点に達した瞬間――。


「キャアアアアアッ!」


急降下と共に、真由美の悲鳴が闇に吸い込まれていきました。

右へ左へと激しく揺さぶられるロケット。目の前をかすめるのは、無数に瞬く星の光と、時折現れる巨大な隕石。


「すごい……! 本当に宇宙を飛んでるみたいだ!」


健二も、風を切る音と凄まじいG(重力)に圧倒されながら叫びました。真っ暗闇だからこそ、次にどちらに曲がるか予測がつかない。そのスリルが、二人の感覚を極限まで研ぎ澄ませます。


最後の一回転(のように感じる急カーブ)を終え、ロケットが光のゴールへと滑り込んだとき、二人は髪を振り乱したまま、しばらく座席から立ち上がれませんでした。


「……すごかった。健二、私、一瞬だけ本当に星になったかと思ったわ」


真由美が、ふらつきながらホームに降り立ちます。その頬は紅潮し、瞳は興奮で潤んでいました。


「はは、すごかったな! つくばの展示もすごかったけど、やっぱりこの体感は別物だぜ」


健二がそう言って真由美を支えると、彼女は少し震える手で、乱れた髪を直しながら微笑みました。


「ねえ、健二。あんなに暗くて怖いのに、あなたと一緒にいると思うと、なんだか不思議と楽しかったの」


「……俺もだよ。あんなに叫んだのは、生まれて初めてかもな」


二人は、興奮冷めやらぬまま、ライトアップされたトゥモローランドの街並みへと戻っていきました。1985年の夜。スペース・マウンテンで駆け抜けたあの暗黒の宇宙は、二人にとって、どんな光り輝くパビリオンよりも鮮烈な「未来の体験」として刻まれました


****


エレクトリカルパレードの光と、スペース・マウンテンの興奮が冷めやらぬまま、二人はワールドバザールの賑やかな明かりの中にいました。ヴィクトリア朝様式の家並みが続くショップの通りは、閉園間際のお土産を求める人々で溢れかえっています。


「健二、見て! このミッキーの耳がついたカチューシャ、私に似合うかしら?」


真由美が、棚から手に取った黒い大きな耳を自分の頭にあてて、いたずらっぽく小首をかしげます。


「ああ、似合ってるよ。俺がかぶってた万博のサンバイザーも良かったけど、こっちはもっと『夢の国』って感じだな」


健二が照れくさそうに笑うと、真由美は「健二もつけてみて!」と、もう一つのカチューシャを彼の頭にのせようと追いかけます。「おい、よせよ、俺はいいって!」と逃げ回る健二。そんな二人のやり取りは、まるで映画のワンシーンのようでした。


二人は、棚に並ぶ色とりどりのグッズを一つずつ手に取っていきました。


「ねえ、健二。お友達にはこの缶入りのチョコレートクランチにしましょう。この缶、食べ終わった後も鉛筆立てに使えるもの」


「そうだな。じゃあ俺は、この『スペース・マウンテン』が描かれたキーホルダーにするよ。今日のあのスリルを忘れないようにな」


健二が手に取ったのは、暗闇で光る蓄光タイプのキーホルダーでした。1985年の最新アトラクションの思い出を、形にして持ち帰りたかったのです。


レジへの長い列に並びながら、二人は今日一日を振り返りました。


「つくば万博で見た『未来』と、ここで見た『夢』。なんだか、一生分の驚きを一日で使い果たしちゃったみたい」


真由美が、大切そうに抱えたお土産の袋を見つめながら呟きました。


「ああ。でも、お土産は形に残るけど、今日一緒に見た景色は、もっとちゃんと心に残ってるだろ?」


健二の言葉に、真由美は少し顔を赤らめて頷きました。


「……そうね。健二と一緒に選んだこのぬいぐるみも、きっと私の部屋で、今日のことをずっと覚えていてくれるわ」


二人は、ショップを出ると、夜のシンデレラ城を最後にもう一度見上げました。手には、ずっしりと重いお土産の袋。中には、家族へのクッキーや自分たちへの記念品、そして「1985年」という特別な年の記憶が詰まっていました。


「さあ、行こうか、真由美。現実の世界に戻る時間だ」


「ええ。でも、明日からもまた、今日みたいに楽しいことがたくさん待ってるわよね、健二」


****


二人は、Eチケットを最後の一枚まで使い切り、閉園間際の『メインストリート・シネマ』の片隅で足を止めました。


「真由美、来年も再来年も、こうして新しい場所に行こう。関ケ原も、伊吹山も、つくばも、ディズニーも……全部俺たちの『平和な世界』の記録だ」


真由美は、お土産に買ったミニーマウスのカチューシャをそっと外し、健二の手を握り締めました。

「ええ。いつか私たちが、あのおじいちゃんやおばあちゃんになっても、今日ここで見たキラキラした気持ちだけは、キーホルダーみたいに大切に持っていましょうね」


エピローグ:浦安の夜風の中で


二人は、ディズニーランドのゲートをくぐり、舞浜の駅へと向かう人の波に混じっていきました。1985年の夏。手にしたお土産よりもずっと重くて温かい「約束」を胸に、二人の夜はゆっくりと更けていきました。


帰り際、二人の手には「東京ディズニーランド」のロゴが入った大きな紙袋。中には、家族へのチョコレートクランチと、ナオちゃんに頼まれたキーホルダーが入っています。


舞浜の海風に吹かれながら、二人は振り返りました。

闇夜に浮かび上がるシンデレラ城は、昨日の「科学万博」のパビリオンとは違う、永遠の憧れのように輝いていました。


昭和60年の夏休み。

関ケ原の極彩色から始まった二人の冒険は、ついに「魔法」の域にまで達しました。このあと、二人は新幹線で名古屋へ帰り、再びあの赤いファミリアで、大垣の穏やかな日常へと戻っていきます。


しかし、その心には、つくばの未来と、ディズニーの魔法が、消えないカラーフィルムのようにしっかりと焼き付いていたのでした。

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