第十章 迷宮災害
この世界には迷宮災害とよばれる災害がある。
迷宮には二つの種類があり、一つは数百年前から古くあるもの、二つ目はここ百年近く前から現在に至るまで新たに出現されたものを指す。
最初迷宮は災害として扱われることはなかった。
何故なら数百年も前に発見された複数の迷宮には例外なく、魔物が一匹もおらず無害であったからだ。
当時その迷宮を発見し探索した者達はこう言う。
迷宮に入ったが中は簡単な迷路と大きい扉があるだけで後は何もなかった、と。
多くの者が様々な方法でその扉を開ける、もしくは破壊しようと努力したが成功しなかった。
いつしか多くの者はその扉を開かずの扉と呼び興味が薄れていた。
だが魔王が現れた事で事態は一変する。
魔王によって北の大地が魔界化し数多くの魔物や魔族が生まれ世界各地に散らばるのと同時に、東西南に一つずつあった迷宮の開かずの扉が一斉に開いたのだ。
扉の中は広く深く複雑な迷宮が広がっており、しかも魔物が数多く現れ迷宮の外へと飛び出し人々を襲ってきた。
各国は協力し合い女神達の助けも借り総力を持って北から攻めて来る魔物達と、迷宮から出てくる魔物の対処に当たる。
その結果魔物の多くは退治された。
しかし生き残った魔物たちは各地の人里離れた場所に自分の住処を作り繁殖し今もなお人を襲っている。
迷宮の方は理由は不明だが魔物が外に出ることがなくなり、迷宮の中を徘徊しては侵入してきた人間を襲っている。
そして迷宮が災害と呼ばれる決定的な出来事が起きた。
それが二つ目の迷宮である。
魔王が現れてから今に至るまで新たな迷宮が世界各地に突然現れるようになった。
幸いにも迷宮の中にいる魔物は外に出ることはないが問題はその出現の仕方である。
迷宮が現れたと同時にその場にいた者達すべてを迷宮の中へと誘うかのように巻き込み中へ閉じ込める。
記録上最も悲惨だったのは街の中から現れた迷宮が、町に住む人々全てを迷宮へと引きずり込んだことだ。
結果、事件を解決した時には生存者は三分の一も満たず人々は何時しか迷宮のことを災害の一つとして扱うようになる。
現在この災害を完全に防ぐ方法はないとされている。
◇◆
リーベルが眼が覚めるとそこは彼女の知らない場所だった。
見知らぬ石の天井に石の壁に石の床。
まるで地下通路のような場所で何故自分は眠っていたのか。
その答えを知る者は彼女の近くにいた。
「気がついたか?」
「ヴェンさん?」
声をした方は振り向くと、灯りがついた携帯用のランタンの近くに座っているヴェンデッタがいた。
そのとき彼女はようやく思い出した。
ドレイク達と行動を共にして数日後。
マジックアイテムである魔法の馬車でラタトスクに向かっていた自分達は、突然何かに引きずり込まれるかのような感覚に落ちた事を。
その後強い衝撃が全身を襲い彼女は気絶してしまった。
「一体何が?」
「彼女の話だと災害に巻き込まれたらしい」
「彼女?災害?」
「あら?眼が覚めたのね」
背後から耳慣れない若い女性の声が聞こえ振り向くと、そこには黒いローブを纏った褐色肌の赤い長髪の美しい女性がいた。
一見普通の女性かと思ったが髪から出ている尖った耳にリーベルはすぐに気がついた。
「褐色肌に尖った耳、もしかしてダークエルフですか?」
「そう言うことになるわね」
ロープの上からでもわかる豊満な胸を張りながら答える赤髪の女。
リーベルは自分の胸より少し大きい彼女の胸に謎の敗北感を感じた。
「ダークエルフのシルティラよ。改めてよろしくねリーベルちゃん」
「改めて?」
「彼女はドレイクの配下にいた老婆だ」
「マジですか!?」
「ちなみにこっちが本当の姿らしい」
俺も最初見た時驚いたとヴェンデッタは言う。
「はー、わざわざ老婆に化けるなんて不思議な方ですね〜」
「昔ほど酷くは無くなったとはいえ、ダークエルフは何かと目立つから仕方がないのよ。それに老婆の姿なら何かと親切に接してくれるしね。本当なら帝国に着くまで老婆のままいるつもりだったけど、状況が変わった」
ダークエルフのシルティラはそう言うと辺りを見回す。
「それで?ドレイク達の手掛かりは見つかったのか?」
「残念ながら何も。この迷宮の何処かにいることは確かなのですけど」
「え?迷宮ってまさか私たち迷宮災害に遭ってしまったのですか!?」
リーベルの問いにシルティラは頷く。
「リーベルも目覚めた事だ、そろそろ決めよう。このまま留まってドレイク達と合流するのを待つか。もしくは俺たちだけで迷宮を攻略するか」
リーベルより先に聞いていたヴェンデッタは冷静にこれからの事を話し合う。
「そうですね、おそらくドレイク中将達もこの迷宮に巻き込まれている筈です。そして中将なら直ぐに迷宮攻略を開始している筈。外からの助けがいつになるかわからない以上私達も迷宮攻略を開始するのが得策かと」
シルティラの言葉にリーベルは考える。
迷宮攻略。
迷宮災害に巻き込まれた場合、攻略にはいくつかの方法がある。
一つは出口を探す事。
二つ目は外からの救援を待つ事。
三つ目は迷宮の主を倒す、もしくは迷宮の心臓部を破壊する事で迷宮を消滅させ強制的に元の場所へ戻る事だ。
おそらくヴェンデッタとシルティラの言っている迷宮攻略は三つ目を指すのだろう。
シルティラの実力は知らないがあのドレイク中将の部下で、ヴェンデッタの帝国への勧誘を目的としたメンバーに選ばれる事からして弱いわけがない。
そして自分とヴェンデッタの実力も合わされば並大抵の魔物は敵ではない。
「行きましょうヴェンさん、シルティラさん。私達で迷宮攻略を開始しましょう」
リーベルはそう言いながら体に着いた埃を払い立ち上がる。
リーベルの言葉に二人は頷き、三人は迷宮攻略を開始する。
◇◆
迷宮最奥の広間にて一人の大男が立っていた。
その男の名前はランボル。
魔族ミノタウロスの一族で魔王の側近の一人である。
「予定通りヴェンデッタ達を迷宮に閉じ込めました魔王様」
『おっけー、おっけー上等だよランボル♪後のことは君に任せるから存分に暴れたまえ♪』
「了解です」
魔王との通信を終えミノタウロスのランボルは武者震いが止まらなかった。
魔王が改造した人間と帝国の英雄。
その二人と戦う機会が得られるとは。
壁にかけてあった二振りの斧を手に持ち、ランボルは迷宮探索を開始する。
目的はもちろんヴェンデッタとドレイクである。
一方、魔王城ではランボルとの通信を終えた魔王は地下牢へと向かっていた。
そこには魔王が実験用として定期的に攫っている人間達が囚われていた。
その中で最も最奥かつ厳重な牢屋に囚われているソレに会う。
「やあ、突然で悪いんだけどキミに出てもらう事になった」
「………」
魔王の言葉にソレは反応しない。
だが魔王は気にせず話を続ける。
「僕からの依頼は一つだけ。彼の殺害だ♪」
魔王はそう言って水晶を取り出しソレに見せる。
水晶には男が映っていた。
その男を見てソレは僅かに反応する。
「名前はヴェンデッタって言うんだけど、君にはこっちの名前の方が慣れているかな」
魔王は狂気の笑みを浮かべソレに言う。
「東条綾人、確か君の友達だよね幸生君?」




