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第十一章 黒い騎士

 

 ヴェンデッタたちとはぐれてしまったドレイクと部下たちは、彼らと合流もしくは迷宮攻略を開始していた。


 (う~む、やはりこの迷宮はおかしい)


 道中襲って来る魔物たちを退治しながら、ドレイクはうなっている。

 迷宮災害とは基本近くにいる者同士が離れ離れになることはない。

 特にヴェンデッタと同じ馬車に乗っていたドレイクが彼らと離れてしまったのは明らかに不自然だ。

 少なくとも今まで迷宮災害に遭った被害記録ではこのような事例はない。

 さらにこの迷宮で遭遇した魔物にスケルトン系や(ゾンビ)系が居た事だ。

 魔物の中には死体から生まれる物たちがいる。

 確かに迷宮にはそういった魔物は決して珍しくはない。

 だが早すぎる。

 迷宮災害に遭ってから一時間ぐらいしか経っていない。

 つまりこれはこの迷宮は誕生してから一時間しか経っていないのと同じなのだ。

 なのにこれまでこの迷宮でスケルトン系や屍系を12体ドレイク達は倒した。

 しかも全て人型のスケルトンや屍だ。

 ということはこの迷宮に少なくとも人間の死体だったものが12体あった事になる。

 もしかしたら自分たち以外にもこの災害に巻き込まれた者たちの死体かもしれない。

 もしくは一時間の間にこの迷宮を発見した者たちの死体かもしれない。

 だが死体が魔物化するのには例え瘴気や魔素が多い場所でも一日以上は掛かる、なのにそれが既に魔物として現れている。

 これは異常の速さだ。

 それにこの魔物たちの装備。

 冒険者が愛用している装備を着ている者もおれば、一般人の服を着ている者たち、中には兵士の死体もあった。

 それ自体は別に珍しくもないのだが問題は兵士の死体に帝国の者が混ざっていることだ。

 いや帝国だけではない、他の国の兵士の装備をしている者もいる。

 ドレイクたちは既に北の大地を抜け中央の大地、神聖国家ラタトスクの領地にいる。

 なのにラタトスクの兵以外の他の国の兵士がいるのは明らかに不自然だ。

 つまり少なくともこのスケルトンや屍の魔物はこの迷宮で生まれた魔物ではなく、別の場所から送られてきた魔物ということになる。

 そもそもこの迷宮自体があらかじめドレイク達いやヴェンデッタを嵌める罠なのかもしれない。

 では誰がこんな事をしたのか、いや誰ならこんな真似ができるのか?

 それができる存在をドレイクは一つだけ心当たりがあった。


 (……魔王か)


 だとすれば一刻も早くヴェンデッタ達と合流、もしくは迷宮を攻略しなければならない。

 ドレイクは改めて気を引き締め部下たちと共に前へ進むのだった。



 ◇◆



(……信じられない) 


 一方ヴェンデッタ達と行動を共にするシルティラは目の前の光景が信じられなかった。

 次々と襲って来る魔物たちを蹂躙するヴェンデッタ。

 それ自体はドレイクとの戦いを見ていたから不思議ではないが問題は彼の戦闘における成長速度だ。

 ヴェンデッタはスケルトンナイトから奪った剣を使って魔物を倒していく度に、その扱い方を学んでいき、今では一般兵士が太刀打ちできない程の剣術スキルを会得している。


(おそらく剣術ランクCまで上がっている。確かに訓練よりも実践、それも魔物との生死を賭けた戦いはスキルの経験値を飛躍的に上昇させるという話だけれどそれにしても異常よこれは。)


 シルティラは隣で戦うリーベルの顔を見る。どうやら彼女も信じられない様子で彼を見ているようだ。

 そんな彼女たちの様子をを気にもとめずヴェンデッタは次々襲いかかる魔物たちを殺していく。

 もちろんヴェンデッタ自身も目に見えて成長していく剣術に不思議な感覚を覚えるが、今は一秒でも早くこの迷宮を攻略することに集中していた。

 ヴェンデッタたちは先に進むと、迷宮通路の分かれ道から更にスケルトンナイト二体、屍戦士三体、屍ウルフ二体が現れる。

 

「……俺が封印されていた迷宮とは違うな。それとも迷宮というのはこんなにも魔物と出くわすのが普通なのか?」

「いえこの迷宮が異常なだけだと思いますよ~。ていうか本当何なんですかこの迷宮は、いろんな方向から私の魔物感知スキルが反応しているんですけれど!?」


 既にこの迷宮で数十体の魔物を倒してきたヴェンデッタたちは呆れた様子で魔物たちを見た。

 だが魔物たちは彼らの心情などお構いなしで襲いかかってくる。

 ヴェンデッタは突出してくる屍ウルフの一体を叩き切る。

 屍ウルフはその一撃で倒れるが同時に、ヴェンデッタが使っていた剣も限界を迎える。

 

「ちっ!」


 ヴェンデッタ舌打ちしながらもう一体襲いかかる屍ウルフを蹴り飛ばす。


「よいしょっと」


 そして強烈な音とともに壁に叩きつけられる屍ウルフにトドメをきちんと刺すリーベル。

 

「皆さん離れて!」


 シルティラの言葉に二人は魔物たちから離れるように後ろへ飛ぶ。

 それと同時にシルティラは魔法を唱えた。


〈ファイアーウォール〉


 彼女の言葉と同時に魔物たちの足元から炎の壁が出現し、魔物を焼き払う。

 

「全員仕留めましたか?」

「いいえ、後ろに居た屍兵一体逃れているわ!」


 続いて魔法を唱えようとするシルティラだが、それよりも早く彼女が出した炎の壁を突き抜けるヴェンデッタが、焼かれて死んだスケルトンナイトの片手斧を拾い力任せで屍兵の頭を叩き割る。

 

(魔力を温存していたとはいえ私のファイアーウォールをほとんど無傷で切り抜けるんなんて)


 ヴェンデッタはドレイク達に自分のスキルの一部を既に話している。

 すべてのスキルを話さないのは手の内を晒したくないのだろう。

 話した中には全属性攻撃耐性のスキルの事もある。

 ランクまでは話していないがそれでも自分のファイアーウォールをほとんど受け付けない事から高いランクだということがシルティラは理解する。


(最低でもランクC以上はあるということね)


 現状でも恐るべき力を持っているのにさらに強くなっていく彼を見て、彼を帝国へ招く今回の任務の重要性を改めて再認識する。

 そしてそれと同時にその危険性も。

 シルティラもドレイクと同様この迷宮が魔王による罠だと考えていた。その標的がヴェンデッタだということも。

 それは今後も彼と行動を共にするということは魔王の驚異が襲って来るということも。

 そんな危険のある彼を果たして本当に帝国に迎い入れていいものなのだろうか。

 シルティラは不安を抱いていた。

 だがそれと同時に希望も抱いていた。

 彼という存在がもしかしたら今の帝国を()()()()()()のかもしれないと。


「リーゼル魔物の反応はどちらのほうが大きい?」


 魔物が落とす素材を回収していたリーベルは獣耳をぴくぴく動かし魔物感知スキルを発動する。


「右ですかね~。明らかに魔物の反応が大きいですし」

「ではヴェン様もしかしたらそちらの方に心臓部があるのかもしれません。迷宮の心臓部に近ければ近いほど魔物の発生率が大きくなります」

「……なるほどな」


 シルティラの言葉を聞きヴェンデッタは右手に剣を左手に片手斧を持ち先へと進む。

 それに続いてリーベル達も進んでいく。

 それからもヴェンデッタたちは何度も魔物に遭遇するが難なく撃退していっては迷宮の奥へと進む。

 そして一同は一つの広間へと辿り着いた。

 彼らの目には迷宮の通路と同じく石で出来た広間の中央に、まるで全身黒の西洋の鎧を着た騎士らしきものが黒い西洋の剣を片手に一人立っていた。

 黒い騎士はヴェンデッタたちが広間に入ってきても反応はしない。

 先程までとは違い異様なまでの静寂が訪れていた。

 

「……リーベル、あれは魔物か?」

「……少なくとも魔物感知に反応ありません。それに先程からあれに耳を傾けていますが呼吸の音さえ聞こえないんです。霊系の魔族という可能性があるかもしれませんがどうでしょう」

「魔族には似たような格好をしているものもいますが、あそこまで生気も魔力も瘴気も感じないのは不思議です。もしかしたら高ランクの気配消失スキルを持っているのかもしれません。なんにしても今までの魔物とは比べ物にもならない程の危険性を感じます」


 リーベルとシルティラは本能で危険を察知し冷や汗をかいている。

 出来ることなら避けたい、しかし広間の奥にある扉から感じる瘴気。

 おそらく心臓部があることが確認できる。

 迷宮攻略するには心臓部を破壊しなければならない。

 もしくは迷宮の主を殺すことだが、三人には広間の中央に立つあの鎧を着ている者こそが迷宮の主なのではと思っていた。

 だとしたらここは避けて通れないということも。

 もっともヴェンデッタだけは避ける気はなかったのだが。

 何故ならあの黒い騎士から彼女たちには感じ取れないある気配を放っていたからだ。

 

「あれは俺が相手をする。二人は隙を見て奥の扉へ向かってくれ」


 ヴェンデッタは二人にそう言うと復讐者(焔)のスキルを発動する。

 ドレイクとの戦いよりも簡単に発動し、その時以上の力を感じる。

 それはつまり目の前の黒い騎士はアイツと関係しているという事だ。


「――――――――――――――ッ!!!!!!!!!」


 ヴェンデッタの力に呼応するかのように今まで静寂だった黒い騎士は、獣のような雄叫びを上げると同時にその体から溢れ出てくる魔力と瘴気が広間全体を包み込む。

 

(この魔力と瘴気はケルベロス、いいえあの魔王の分身と同じぐらいのを感じます!)

(今までドレイク中将と共にいろんな魔物や魔族と戦ってきたけれど、ここまでの魔力と瘴気を持つ敵は初めてよ!)


 圧倒的なまでの魔力の暴風に二人は体は震えが止まらなかった。

 そんな中ヴェンデッタだけは前へと進む。

 全身から溢れる青い炎を使って襲いかかる魔力の暴風全てを焼き払った。

 リーベルは自分たちを襲っていた魔力の暴風が消え安堵し、シルティラはあれほどの魔力を一瞬で焼き払ったヴェンデッタに驚いていた。

 

「お前が何なのかは知らない、だが魔王の関係者だということは気配でわかる。そして俺の邪魔をするのなら…」


 彼は黒い騎士に凄まじい殺気を放ちながら宣言する。


「誰だろうと焼き尽くす」



大変遅くなりました。申し訳ありませんm(_)m

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