8:陛下の人の名前
ルナと名付けられた日の夜中というか朝方? またまま一人でウン動会。
なるべく静かに走り回って、砂をザッザと掻き回して、スッキリ。
元人間としては水洗トイレとかにしたいけど、猫としては砂で満足な気もしているが、尻を拭きたい。
いや、考えるな、そこだけは考えるな……と自分に言い聞かせて陛下の人のベッドに戻る。
「……ん」
一瞬目を開けた陛下の人。私の頭をそっと撫でてまた寝てしまった。
黒い髪に黒い角、黒いまつ毛に黒い瞳。ついでに普段の服も寝巻きも真っ黒。
目だけ紫色にギラッと光っているし、瞳孔が爬虫類のソレ。
つまり、ちょっと怖かった。
イケメンの寝起き、無防備顔尊い! とかなるもんじゃないの!? 蛇に睨まれたカエルみたいになったよ!? 猫だけど!
『目……覚めちゃった』
なんだかんだ、夜遅くまで仕事をしている陛下の人。流石に朝早くに起こすのは申し訳ない。
一人でキャットタワーに登って、窓の外を眺める。
未だに視界はぼやぁっとしてるけど、なんとなく見えるのは…………あれ? なんか、空の上にいるくない?
地平線に終わりがあるし、その先が空と雲なんですが?
そういえば、ここは竜王国だからみたいな話を、生まれたときにお世話してくれてたおじいさんが言っていた。
つまり陛下の人のは、竜王なのか。
あ、そいや名前知らないな。陛下の人ってずっと呼んでたし、部下の人も『陛下』って呼んでるし。
まぁいいか。
それよりもここは崖っぷちにある場所なのか、空に浮かんだ島的なのか、お散歩に出て崖からすってんころりどころか空中に放り出される的な事故は嫌だな。
お散歩、したことないけど。
この部屋は充分に広いし、隣の執務室もあるし。陛下の人の仕事にヤジ飛ばすのに忙しいし。
『ふあぁぁ』
うん、眠くなってきた。ベッドに戻ろう。
トテトテ歩いてベッドによじ登って、陛下の人の枕の横にあるカゴに入ろうとしたけど、なんとなく気分じゃない。
陛下の人の胸の上に乗って、寝顔観察。
整った顔してるなぁ。
あと、まつ毛長い。
少し近付いて、唇をじっと見る。そいや、ちゅーされたな。唇薄いなぁ。
テチテチと叩くと、フッと笑われてしまった。
どうやら起きていたらしい。
「大人しく寝ろ」
『はぁい』
怒られちゃった。
仕方なくその場に丸まって寝ることにした。
喉の上に寝るなとか、なんか聞こえるけど知らない。いい感じにフィットするから、ここがいい。
『おやすみー、陛下の人』
「…………イングヴァルだ」
何か低い音が聞こえた気がするけど、眠さが勝って聞き取れなかった。




