6:なんだか淋しい
人前じゃなければいいと言われてからは、陛下の人が一人きりのときは飛びかかったり、ジャラジャラと戦ったりして遊んで、誰か来たら陛下の人の膝上で寝たり、肩に座って書類仕事の見守りをした。
『あっ! 陛下の人ー、そこの計算間違ってるよ? って言っても分からないかぁ。ってかなんで陛下の人が収支報告書のチェックまでやってんの? ここブラック企業なの?』
「……耳元でにゃーにゃー煩い。邪魔するなら寝室で遊んでこい」
寝室には先日、私のための巨大なキャットタワーが設置された。
四階建てで、爪とぎやハンモック、隠れられる四角い部屋などなど豪華仕様。
サンドバッグみたいに吊るされたネズミのぬいぐるみは、素早くちぎって陛下の人に渡した。なんでか知らないけど、本能がそうしろと囁くから。
陛下の人は目を見開いたあと、いそいそと執務机の引き出しの中に入れて鍵をかけていた。魔法で。
この世界、魔法があるの!? ってびびったよね。まぁ、猫の私には関係ないけど。
夜は陛下の人に合わせて、なるべく寝るようにしてた。
でも、朝方目が覚めてハイテンションで走り回ってからのおトイレ。猫あるある朝方のウン動会をなんでか理解した陛下の人が、部下の人に命じて二つ目のキャットタワーを設置させていた。
キャットタワーはありがたいけどさ、シラフのときに一人で遊んでも楽しくないのよね。あれはウン動会だからこその楽しさであって。いまは誰かと居たいし、遊びたい。
ちゃんとお利口さんに、陛下の人の肩の上に座ってお仕事応援してたのになぁ。
『ひとりきりって、淋しいんだもん』
「お前は――――」
「陛下! 大変です!」
陛下の人が何かを言おうとしていたら、部下の人が部屋に飛び込んできて、何かが暴走したとかなんか大変そうな話をしていた。
「分かった。直ぐに行く」
『いってらっしゃーい』
陛下の人の肩から机の上にピョンと飛び移って、お見送り。
先週もこういうことがあった。誰よりも何かの力があるらしい陛下だから、荒事があると止めに行かなきゃらしい。
見た感じはムキムキじゃないけど、なんか強いらしい。
「ん、すぐ戻る」
「はい? 誰に言ってるんですか?」
「……猫」
「あー……っていうか、名前つけてないんですか!?」
「聞きそびれた」
「陛下が付けてあげればいいじゃないですか」
陛下の人が真っ黒のマントを着けながら、元の名前があるだろうから聞き出すと言っていた。
そういえば元の名前ってなんだったけ? 陛下の人が出ていくのを見送って必死に前世を思い出そうとしたけど、自分のことをほとんど思い出せなくなっていた。
前世のことはなんとなく思い出せるのに、自分のことだけがすっぽり抜け落ちていっている感じ。
生まれたときは覚えていたはずなのに。
『え……?』
もしかして、こうやって少しずつ忘れていくのかなって思ったら、急に怖くなった。抱きしめてもらいたいけど、陛下の人は出ていったばっかり。
すぐには帰ってきてくれない。
キャットタワーに登ってみたけど、部屋の広さを余計に感じて怖いし寒いし淋しい。
ベッドにぽすんと飛び乗ってみたら、陛下の人のいい匂いがした。
お布団にくるまっていると、落ち着けた。
怖くない、あったかい、安心する────。




