5:漏らすぜ!
陛下の人と一緒に暮らすようになって二週間。
相変わらず美味しいご飯とミルク。幸せいっぱい、お腹はぽよよん。
『なんか、太ったわね。運動しようかな』
兄姉たちと取っ組み合いの遊びをしなくなった。
そのせいか、運動不足で体もウズウズしていたから、とりあえず部屋の中を走り回った。それに飽きたら、陛下の人の足からよじ登って、服に付いてるジャラジャラを殴ったり噛んだりして遊びまくった。
『ふぅ、これくらいにしてあげよう』
「……終わったか?」
『お腹減った!』
めちゃくちゃ運動したし、成長期だしいいよね?
「おい、エサを用意しろ」
「もうですか? さっき食べてましたよ!? 与え過ぎもよくないんですよ」
「そうか。なら我慢しろ」
『けちー! 部下の人のけちー! 陛下の人のけちー!』
陛下の人の体をよじよじと登って、陛下の人の耳元でワーワー鳴いて苦情申し立て。ついでになんか薄っぺらい耳たぶも噛んでおいた。
「っん!」
『うおあっ、落ちるっ!』
噛んだ瞬間に陛下がビクリと動いて肩から落ちかけたけど、ちゃんとキャッチしてもらえた。
「噛むな、馬鹿が」
ナチュラルに馬鹿って言われた。
「…………陛下、本当にどうしたんですか? 急に子猫を飼うとか言うし、陛下の体に傷を付けるとかいう暴挙も許して……。普通なら、消し炭にしてますよね?」
『消し炭!? は? え? 陛下の人、怖っ!』
消し炭を想像したら身震いが止まらなくなった。
やばいやばい。尊厳的なものがやばい。
ビビりすぎておしっこ出そう。猫の身体不便!
「おい、余計なことを言って怖がらせるな。震え出したぞ」
「ただ単に落ちかけてびっくりしただけでしょ。それより、本当になんで飼い出したんですか」
「…………なんとなく」
「またそれですか」
部下の人が呆れたようにハァァァとため息を吐いて、何かの書類を持って部屋から出ていった。
「ったく。面倒なことになった……お前のせいだからな」
陛下の手の中でプルプル震えていたら、優しく撫でてくれた。
あれ? なんだか大丈夫そう。漏らさないかも。
尊厳は守られた!
消し炭は比喩表現的なやつかな? そういえば陛下の人、ずっと優しいし、殴ってもあんまり怒らないし。やっぱり下僕なんだね?
『えーっと、なんかごめんね?』
「人前ではじゃれ付くなよ」
『はぁい』
――――人前じゃないならいいんだ?
今この部屋には誰もいないっぽいし、もうちょい遊んじゃお。
さっき耳たぶを咬んだら、なんか歯茎がウズウズしたんだよね。目の前には丁度よく節ばった陛下の人の指。
ていやっ。
「何をしてる?」
『はふひふぁふぁひゅひほ』
「咬みながら話すな」
人差し指の腹をハムハムしていたら、陛下の人が頭や背中をそっと撫でてくれた。
温かくて気持ちいい。
咬むのを止めて、掌にグリグリと頭を擦り付けていると、「もういいのか?」と聞かれた。
陛下の人は本当に下僕だなぁ。まぁ、猫の私としてはありがたいけどさ。




