4:陛下の人は下僕
◇◇◇
陛下の人に貰われたその日の夜、目覚めたら部屋が薄暗かった。猫の目だから見えるんだけどね。
『ミゲッ』
寝ぼけ眼で伸びをしようとしたら、どこか高いところから床に落ちた。
部屋の中をドタバタ移動して分かったのは、陛下の人の寝室にいるってこと。
隣の部屋を覗いたら、最初に連れてこられた執務室とかいうところっぽかった。
寝室と隣り合わせで仕事部屋とか地獄かな? でもまあ、移動は楽かぁ。
「…………おい」
『ぎえっ!』
首根っこを掴まれて持ち上げられた。
だからその持ち方、お尻がプランプランして安定しないのよ。あと、声が出しづらい。ミゲェェェェって感じの断末魔になるのよ。
『お尻支えてよぉぉぉぉぉ』
「ったく。うろちょろしてると踏むぞ。寝ろ」
ぽすんと浅めのカゴに入れられた。カゴは陛下の人の枕の横に置いてあって、どえらくふかふかなクッションが敷いてある。
『え、これ私のベッド!?』
「寝ろ」
『なになに、陛下の人って実は下僕系!?』
前世で、猫の飼い主は自らを【下僕】って呼ぶって動画で見た。きっと陛下もそういうタチなんだろうな。これはますます甘やかしてもらえそう。
「…………黙って、寝ろ」
陛下の人はそう言うと、ベッドにするりと入って目を閉じた。
カゴから少し身を乗り出して、陛下の人を観察。
とにかく黒い。黒い髪に黒い角。黒い睫毛は結構長い。前世だったらめちゃくちゃうらやましいと思えるほどに高い鼻。なんかムカつくな。
あと、なんかいい匂いがする。お花っぽい。いいシャンプー使ってんな?
「鼻息がうるさい」
『乙女に失礼なっ!』
「いい加減に寝ろ」
陛下の人が、私の顔面鷲掴みでグイグイとカゴに押し戻そうとしてくる。
折角楽しくなって来たところなのに。
『だいたいさー、子猫にそんなこと言っても、聞くわけないじゃん。そもそも薄明薄暮性だし。さっきまで寝てたし。まぁ、私は大人だから寝てあげるけどぉ?』
「…………なぁ、寝るんだよな? ずっとしゃべってるが」
陛下の人がなんでか、大丈夫かコイツみたいな顔で見てくる。猫になったせいか、そういう空気がすごく分かるようになった気がする。
なんかムカつくから、押し戻されたカゴから飛び出して、陛下の人の顔によじよじ。
おでこに座って、高い高い立派な鼻をどりゃぁと殴ったけど、実際のところはペチペチくらいだったから、陛下の人は目を見開いて無反応だった。
『つまんないなぁ。寝よ』
カゴに戻ってクルクル回って、ポスンと座ったら、フッと笑い声が聞こえた気がした。
「……おやすみ」
『はぁい、おやすみなさぁい』
とりあえず、寝よ。




