3:とりあえず、寝る
『んにゅー! よく寝たぁぁぁ!』
前足をぐいーっと前に出し、お尻は高く上げて、伸びの運動。これをやらないとスッキリしないのよね。
「起きたか」
『あれ? ここどこ?』
辺りを見回して、いつものぼんやり風景とぼんやり違うなということだけは分かった。
「今日からここがお前の家だ。頼むから泣き喚くなよ?」
『家? 陛下の人が主人になるの? お腹減った!』
なんとなく分かってたけど、たぶん陛下の人は子猫をもらいに来たんだろうな。そんでもって私を選んだと。
なかなかいい目をしているじゃない! 盛大に甘えてあげようじゃないか。でも、その前にご飯くれ! お腹減った! マジでお腹減った! ママンのじゃなくていいけど、ミルクもくれ!
「……エサか。何を食うんだ?」
『いまねぇ、お魚の気分なのよねぇ』
「魚のほぐし身や、脂身抜きの肉をミンチにしたものなどを与えるそうですよ」
「魚にしろ」
「かしこまりました」
――――お? ラッキー!
陛下の人と誰かが話してた。たぶん部下だな。役職名とか分からないけど。
部下の人がお魚のほぐし身を沢山くれた。
『あれ? ミルクは?』
「おい、ミルクも用意しろ」
「水で充分ですよ?」
『ケチ! 部下の人、ケチ! ミルクないと泣くぞ!』
「ミルクも必ず用意しろ」
「ええ? かしこまりました……」
――――ん?
今なんか陛下の人に言葉通じてなかった?
いや、流石に気のせいか。
『ふおっ、魚うっまぁぁぁ! なにこれ、超高級なの来たんですけど!?』
「食べながらウニャウニャ言ってますね。はい、ミルクです」
「美味いんだろ」
「それはようございました」
お魚をウマウマと食べていたら、横に小皿が置かれた。真っ白の液体だ。フンフンと匂いを嗅いでみる。
『あ! ミルク! 部下の人ありがと! んー、まぁ及第点ね。ママンの方が美味しい』
「静かに飲んでますね」
「なんのミルクだ?」
「山羊の乳ですよ」
「猫の乳は手に入らないのか?」
「そんな無茶言わないでくださいよ!」
陛下の人の疑問に、部下の人が苦情モリモリだった。
『あははは! 猫のお乳とか搾れないでしょ。陛下の人って変なのー!』
「…………搾れるものじゃないのか」
「当たり前です!」
「ふむ」
『ふぁぁぁ、おなかいっぱぁい! 陛下の人、おやすみー』
ママンや兄姉たちとの急なお別れは淋しいけど、飼い主になった陛下の人はなんだか甘やかしてくれるタイプっぽいので満足だ。
とりあえず、寝る!
■■■
神託が降りた。
竜王の番が産まれたと。
番は成人しないと判別できないのだが、種族が違いすぎて探し出せない場合や番の生命に危機が訪れやすい場合に、竜神が神託を降ろすことがある。
人間などの種族は番が分からないし短命だから、そういった場合に神託が降りることが多い…………が、まさかの猫。
王城の厩舎で飼われている猫の子ども。
流石にそれが他の者たちにバレると色んな意味で拙い。
ペットを飼ってみたい、ということで話を通しておいた。乳離れさせても大丈夫だと連絡があり見に行った。
様々な柄の子猫たち。その中の真っ白な一匹を見て、庇護欲が爆発的に湧き上がった。
――――これか。
番の特性なのか、子猫が何を言っているのか理解できた。まぁまぁ自由奔放でわがままなヤツだったが、どうしてか可愛いと思えるし、わがままは叶えてやりたい。
番とは難儀なものだな。
ちょこちょこ聞こえる声。なんというか猫らしくないと思った。そこまで猫のことを知っているわけではないが、思考回路がなんというかオッサンだ。メスのはずだが?
飯をたらふく食って、口の周りを山羊の乳でベチョベチョに濡らして、その場でグースカと眠りだした。
「なんというか、本能だけで生きてるな」
「動物とはそういうものでしょう? そもそも、なぜ急にペットを?」
「…………なんとなく」
言えるか。この子猫が番だったなんて。
竜王は世襲制じゃないから子孫だなんだは別にいいが、白くてか弱い子猫が番でした、というのは流石に威厳とか世間体がなんか拙い気がする。
そういったことをあまり気にしたことはなかったが、なんか拙い気がする。
とりあえず、観察を続けるか。




