17:時すでに
何だコレは。
ぷりっとした尻からは白い尻尾が生えていて、ふよふよと先っぽだけを動かしている。
耳がピルピルと動いたので、眠りは浅いようだった。
「…………っ、ルナ?」
竜王だとは思えないほど、不安気な声が自分の口から漏れ出て驚いた。
番が関わると、こんなにも頼りなくなるのか。
王の威厳というものを、先代から嫌というほど教え込まれた。
人前で弱みを見せるな。泣くな。感情を揺らすな。本音を話すな。信頼できる者だとしても信用はするな――番だろうと。
先代が言っていたことは、ある程度は納得はしている。だが、本当にそうなのだろうか? と思うこともある。
他人を信頼できないというのは、とても淋しいことだと思う。
俺は、常に孤独感に苛まれていた。ルナと出逢い、他人を受け入れることが心地よさを知った。
ただ、自分があまりにも弱くなったようにも感じていて、感情の処理が追いつかない。
そして、今目の前で起きている異常事態のせいで、完全に思考回路が止まった。
「る……な」
恐る恐る頭に手を伸ばす。
ふわふわした白髪は、ルナの被毛と同じ色。薄っぺらいピンクがかった猫耳は、白い被毛で覆われていた。
何度か撫でると、ルナと同じように鼻先を上げて手のひらに顔を擦り寄せてくる。
――――ルナだ。
「んみゅふあぁぁぁぁぁっふ……」
人型のルナが、変な鳴き声をもらしながら大きくあくびをした瞬間、身体がしゅるしゅると縮んでいき、いつもの子猫の姿に戻ってしまった。
『ふあぁぁぁ。よく寝たぁー。あ、ヴァルおはよ』
「……………………まだ、夜中だ」
『そうなの? んじゃおやすみぃ』
「……いや、起きろ」
『やー。説教は明日の朝がいー。なんかすっごくねむい』
「わか、った……」
いや、分かりたくないし、叩き起こして色々と聞きたいし確認したいが、番が嫌と言ったことで俺の脳は「じゃあ仕方ない」と思っている。
あまりにも不便すぎる。
「……ん、よく寝ろ」
よく寝て、早く大きくなれ。大きくなったら、異種間での婚姻の際の契約魔法で人型にする――――と、思っていたが?
なぜこうなった?
何が起きている?
神託は猫だと言っていた。ルナの母は純粋な猫だ。いや、妙に魔力は纏っているが、特段珍しいことではない。
その子どもが獣人になることは万に一つもないはずなのだが、なぜ…………。
脳内でぐるぐると思考を巡らせながら寝息を立てるルナの頭を撫でていたら、緩く噛まれた。どうやらしつこかったらしい。
「っ、すまん」
『んにゅー』
早く大きくなれよと言ったが、キャンセルは可能だろうか? …………普通の速度で頼みたいが、時すでに遅しなのだろうか?




