11:ハルさんの番(ツガイ)
ねーねー! と話しかけるも、陛下の人は完全無視。
『もぉぉぉ! 返事してよ!』
「兄さん、よく番の言葉を無視できるね……」
どういうこっちゃ? 陛下の人、たぶん今までもずっと私の言葉無視しで過ごしてたよ? 思い返せば、だけど。
『ハルさんハルさん、なんで番なら無視しないみたいな言い方なの?』
「えっと、さっきも言ったように、番って魂に刻まれた最愛の相手だから、どんなお願いも聞いてあげたくなるし、怒らせてしまったらと思うと恐怖で震える――と言われているからだよ」
『何その洗脳された人みたいな設定』
軽くドン引きしていたら、陛下の人が一瞬だけどフッと笑った。
『陛下の人、何が面白かったの?』
「……」
『また無視か! 泣くぞ!』
「厩舎に着いたぞ」
「っ――――!」
ハルさんが息を呑んで、ぷるぷると震える手を伸ばし、厩舎のドアに手をかけていた。
『どしたの?』
「イェールハルドの番がここにいる」
『ほぉん……ん? もしやママン!?』
「違う。たぶん、お前の姉のどれかだろう」
ああ、そういうことか! ママン、彼氏いっぱいいるから、どうなることかと思ったけど、セーフ。ガチのキャットファイト見る羽目になるのかと焦ったよね。
キャットファイトの意味違うけど。
『ってか、ハルさん、早くドア開けてよぉ』
兄姉たちに会いたいし、遊びたいのに、ハルさんはずっとドアに手をかけたまま動かない。
「兄さん、凄く酩酊してるんだけど、なにこれ」
「番のフェロモンだ。しばらくすれば慣れるが……イェールハルド、落ち着け。封印とお前の力が相反して身体に負担がかかっている」
陛下の人がハルさんの肩をガシッと掴んでハルさんを振り向かせると、ハルさんの瞳孔が爬虫類のそれだった。猫よりも細く縦長の瞳孔になったり、丸くなったりを繰り返していた。
「アイフラッシングしている。深呼吸しろ」
「っ、うん……」
何度か深呼吸して意を決したようにドアを開いたハルさんを横目に、私は陛下の人の肩から勢いよく飛び降りて、固まってプスプス寝ていた兄姉たちにダイブ。
『たっだいまぁぁぁぁぁ!』
『『うぎゃっ』』
『んぅーん、なぁにぃ? もぉ』
『……末娘、噛み殺すわよ?』
おっふ、ママン超怖ぇ。
『ママン、久しぶりぃ……ごめんなさいっ!』
『大きくなったわね。楽しく過ごしてる?』
『うん! めちゃめちゃ美味しいご飯くれるの!』
大きく頷いてそう返事をすると、兄姉たちからいいなぁと羨ましがられた。
ドヤァ! と胸を張っていると兄姉たちからグルーミングの嵐。
右から左、前から後ろ、ベロンベロンである。
『もぉ! 転けるからっ』
ニャーッ! と叫んで怒ると、皆が一斉に笑う。それが楽しくて私も一緒に笑った。
ママンは少し離れたところに座り直して、柔らかな表情で私たちを眺めていた。
――――あぁ、楽しい!
「っ……凄く、不細工…………可愛いっ」
揉みくちゃになって騒いでいた私たちを、上から覗き込んできたハルさん。
泣きそうな顔で手を伸ばして来たかと思うと、兄姉の一人を抱き上げて、ムチューッとキスをした。
――――それ、兄ですけど?




