第46話 繋がらない魔法陣
聖女様の説明と違うと思いながらも、グレースは黙って見ていた。本来なら指摘した方が良いのだろうが、姉に釘を刺された事からこの上なく不機嫌だったからだ。
だが、表情には出していない。
アベルが取りに行く前と同様に口元には、薄らと笑みを浮かべている。
目は笑って居ないが、視線を魔法陣に向けているのでアベルからは見えていない。
赤く光る魔法陣をしばらく見守る3人。
「これで終わりなのか?」
「話が出来るってリリィは言ってましたが……何も聞こえませんね。寝る前に使えと言っていたので、毎日使えば話せるようになるのかな?」
「訓練用の魔法陣なのか? しかし、話せるようになると言っても、私達は話をしているのだがな」
多分、そうじゃない。
グレースは、そう思いながらもケイティとアベルを見守るだけに留める。
「まぁ、また明日もやってみます」
そう言うと、アベルは魔法陣を自分のベッドの脇に仕舞った。
同じ頃、リリィの部屋でも赤い光が魔法陣から発せられていた。
「向こうから呼びかけがあったら、青の送信用を起動すればいいよね」
そう。赤色の魔法陣は受信専用であり、アベルとリリィ……共に受信用の魔法陣しか起動していなかったのだ。
アベルが何時頃に寝るのかはわからないし、リリィ自身も聖女や学生として、する事は意外と多く、部屋でひとりきりになれるのは夜がかなり深まってからだ。
隣の部屋にはセリーヌがいるが、リリィの部屋の扉の前には教会から派遣された神殿騎士と、公爵家から派遣された騎士が、それぞれ護衛に立っている。
バルコニーの下では子爵家の者が護衛の為の巡回をしているはずだ。
「今日はかかって来るかな? まだ仕事なのかな?」
そう言いながら左手を魔法陣に置きながら、右手で何やら資料を書いている。
それは数日後に公爵家で開催される会議用の資料だ。
何故かその会議にはリリィも呼ばれていた。
いや、この場合理由は明確であったかも知れない。
公爵領の周囲に領地を持つ貴族達がリリィに懇願したのが事の始まりだからだ。
直接的には口にせず、公都の繁栄と、それをもたらした様々な施策を褒めるが、それによって……公都周辺の領地では問題が起きていた。
問題自体は大きく言ってしまえばひとつなのだが、解決策には政治的判断が必要になる。
一名、二名であれば聞きながしても良いが、かなりの数の貴族が相談と言う名の抗議に来ている為に放置する訳にもいかず、公爵令嬢であるカーテローゼ経由で公爵家当主に伝えてもらったのだ。
一通りの資料を書き上げても、魔法陣からアベルの声は聞こえなかった。
「騎士……見習いは夜も仕事があるのかな? 仕方がないか」
憧れだった、寝る前のおやすみコールは、どうやら今日は無いらしいと少し残念そうな気分のまま、机の上を片付けて就寝するリリィであった。




