第34話 リリィの魔力・グレース
「魔力とは何か?」
そのリリィの言葉に、教室に居る人々がお互いを見る。
リリィが奇跡とも呼ぶべき魔法を使ったのは周知の事実だ。
闘技場での一件以外にも、週末には教会で治療に参加している。
その治療魔法は他の者を寄せ付けない程のレベルにある。
そのリリィが、今更、魔力とは?等と口にするとは誰も想像していなかった。
おずおずとセリーヌが口を開く。
「り、リリィ様……魔法をお使いになる時に使っている力の事ですよ」
「……特に何も使ってないよ?」
そう言うと、リリィは手のひらの上に火の玉を作り出す。
「は、発動が早い!!」
「無詠唱だ…」
「ま、魔法の名前もいってなかったよ…」
なんの前触れも無く魔法を発動させた事に周囲が驚く。
「お、お見事ですな……流石は聖女様。それで今、身体から火の玉に流れていく力は感じられませんか」
学園長が聞いてくる。
魔法を使っている以上、魔力を消費している筈だった。
彼の常識の中では。
「流れる……って言われても、特に何も感じないのですが、皆さんは違うのですか?」
首を傾げて、何のことかわからない風のリリィ。
イメージを作り、それをナノマシンに伝え、事象の発現を行わせる。
その工程に何かの力……周りが言う魔力とやらが必要だとは思えなかった。
「な、なんと言えば良いのか……あくまで私の感覚ですが、こうお腹の下の方にある塊があって、魔法を使うとそこから力が抜けていき、身体がだるくなっていくような」
周囲を見ると皆一様に頷いている。
どうも、学園長だけの勘違いではなく共通認識らしい。
リリィは、空いている左手で下腹を押さえる。
「この辺りですか?」
遺伝子情報は元々の人類と変わらない。
となると、下腹部には腸や生殖器があるだけで、魔力等と言う器官は有り得る筈がない。
(多分、脳がそう言う風に感じられるだけなのかな? 精神力とか胆力とかみたいな感じなのだろうか?)
「リリィ様も最初は魔力が少なくて苦労したと思うのですが、その時も感じられなかったのでしょうか?」
セリーヌの問い掛けに首を傾げるリリィ。
最初から苦労をしていないからだ。
どうも他の人とは感覚が全く違うらしい。
「う〜ん、アベルのお母さんに属性を見て貰う事があって……」
「それで、適性が見つかったのですね」
「うん。全属性って出ちゃって、おばさん大慌てだったよ」
リリィは笑い話のように話すが、周りはとんでもない物を見たように固まっていた。
「ぜ、全属性……ですか?」
全属性の希少性を気にしないリリィの態度にセリーヌが呆れる。
「そうそう、王都の魔術学園に行くべきだって言い出しちゃって、なんだかおばさんが大騒ぎだったよ」
「私ではとても教える事は無理そうです。それに全属性となると王都の方がいいかもしれません」
学園長が落胆した表情で述べる。
「王都の魔術学園はどんな所なのですか?」
リリィが思っていたのと違うこの学園を踏まえて聞いてみる。
言いにくそうに学園長が
「王都の魔術学園は……こことは違って、宮廷魔導師や国を守る魔導騎士団を育成する場所ですから……ただ、既に実用レベルでの魔法が使える者しか入れないのです」
「それより……」
学園長がリリィの手のひらに出された火の玉を見る。
会話をしている最中も消すタイミングが無く、そのまま発動させたままだったのだ。
「ずっと魔法を発動させたままですが……魔力は枯渇しないのでしょうか?」
そう聞かれて他の人にとっては、魔力と言うものを使う以上、使い続けると言うのは難しい事になるのかと考える。
「残念……なのか、魔力が足りないみたいなのは今まで感じた事が無いんですよ」
「う〜ん……話にすら聞いたこともないのですが、産まれながらに遥かに多い魔力を身に付けていらっしゃる……としか考えられませんね」
と学園長が結論づけた。
修行もせず存在すら感じない程の量を最初から持っているなど考えにくいが、リリィが嘘を言っているとも思えなかった。
(結局、魔力……ってのはよく分からないけど、きっと別の理由っぽそうね)
恐らく自分が使う魔法の発現方法が、他の人とは根本的に違うのだろうと予想するリリィ。
「流石はリリィ様です。お産まれになった時から神に愛されているのですね。そんなリリィ様にお仕え出来て、この上ない幸せです」
魔力に思いを馳せるリリィとは裏腹に、セリーヌは恍惚とした表情を浮かべていた。
◇
アベルがケイティと暮らし始めてから数ヶ月。
朝の稽古でも一方的にやられっぱなしでは無くなっていた。
ケイティが振り下ろした木刀をアベルが受け止める。
かつては身体ごと動いて避けるしか無かったが、剣の型が身につくにつれ、地面に描かれた円から出なくてもケイティと打ちあえるまでになっていた。
「だいぶ良くなってきたな」
身体能力任せだった剣さばきが、僅か数ヶ月で自分と遜色無い水準になった事に内心焦りながらも、それを表には出さずアベルの成長を褒めるケイティ。
「ありがとうございます」
私生活こそ、だらしなさを見せるケイティだが、職務では出来る上司だ。
その上司からの言葉にアベルは喜びを見せる。
「そろそろ街の外の任務にも同行してもいいかもな」
ケイティは木刀をアベルに投げながら言った。
木刀を兵器庫に片付けるのはアベルの役割だった。
◇
それから数日後、アベルは任務に同行する為に集合場所に来ていた。
年齢的にアベルの任務は街の中で済むものに限定されていた。
初めての街の外での任務に、何処か1人前に認められた気がして少し心が浮かれる。
「任務の内容は聞いているな?」
今回の任務における隊長の男がアベルに問い掛け、その問いに返礼を返す。
「公都の北にある鉱山の視察と聞いております」
「そうだ。鉱山周辺で行方不明が度々発生しており、その原因調査が目的だ」
「調査に行くのは、俺が率いる小隊と……あとは経験を積ませる為に連れてく見習い二名だ」
「二名?」
隊長の言葉に反応を示すと、その答えとばかりに隊長の視線が1人の少女に向けられる。
その視線につられるようにアベルの視線も動く。
その視線の先にはアベルより少し年上……と思われる茶色いショートカットの少女が居た。
だがアベルの目を引いたのは、その容姿よりも、彼女が背負っている身長と変わらないのではと思えるような大きなタワーシールドだった。
(それ……大き過ぎない? 重くないのかな?)
かつての自分が、大き過ぎる父親の剣を振り回していたのを思い出していた。
(俺も昔はこんな風に思われてたのかな)
客観的に見ると、体格に合わせた武器を持てばと思ってしまうのだ。
彼女は特に大柄でも無く、どちらかと言えば騎士見習いとは思えない華奢な身体付きだから尚更だった。
そんな事が気になりアベルがその少女を見てると、不機嫌そうな表情をした少女と目が合った。
「挨拶もせずに、ずっと人の身体ばかり見てるなんて……やっぱりそう言う人なんですね! そうやって姉様もジロジロ見てるんでしょ!!」
アベルから身体を隠すように横を向いて少女が睨んで来る。
「ち、違うって!盾重そうだなってみてただけだって!」
「目線が盾に行ってなかったわよ!」
「いや、だから、そんな装備をその身体で持てるのかなって……」
「やっぱり、身体見てたんじゃない!スケベ!姉様から聞いていた通りだわ、いつもチラチラ胸ばかり見てるって、言ってらしたもの!」
胸ばかり見ているとは、また心外な噂をばら撒いている人がいるらしい。
「だから違うって……って、姉様?」
「ククク、そうだ。このグレースは、ケイティ副団長の妹さんだ。妹さんにまで手を出すなよ?」
どこか楽しそうに隊長が話に乗ってくる。
「姉様に何をしたの!」
予想通り……グレースは冗談を真に受けて詰問を始めた。
「な、なにもしてない!隊長、何言い出すんですか!」
「あははは。鉱山までは時間もあるから、じゃれ合いは道中やってくれ……行くぞ」
「「じゃれ合ってません!」」
アベルとグレースのツッコミが揃った。




