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第32話 巡回任務・魔術学園

 早朝、アベルとケイティの二人は修練場で向かい合っていた。


「次、行くぞ!」


 カン、カカン、カカカカン


 静かな修練場に木刀の音が鳴り響く。


「身体ごと剣を振るうな!」


 ガッ

 ケイティの木刀がアベルの脇腹を捉える。


「ふぅ……お前の剣は変則すぎる。基本の動きだけにしたら、この有様か」


 自分の背丈ほどの大人の剣を使っていた為、アベルの剣には変な癖が付いていた。


「今の変則的な剣でもかなりの強さだが……基本の動きを身に付けずにやっても頭打ちになるぞ?」


「……はい」


 頭ではわかっているのだが、染み付いた癖はなかなか取れるものでは無かった。


 高い反射神経で剣で受けるより先に身体ごと避けようとしてしまう度にケイティに止められ、思った様に動けないのであった。


「目も反応も私よりお前の方が既に上だろう……だが、身体ごと飛び退いたり目だけに頼ったりだけでは、自分より速い相手と対峙したら確実に追い込まれるぞ?」


 ケイティは何度か打ち合うと、アベルが身体能力に頼りきった剣しか振るえないのを見抜き、足元に描かれた円の中だけの足さばきに制限して、剣の軌跡から先んじて動くのをフェイントを織り交ぜて潰していた。


 (偉そうに言ったものの……こんな制限はすぐに効かなくなりそうだな。とんでもない才能だな)


 ケイティは内心冷や汗を流しながら、どうやって剣さばきを教えるか悩んでいた。


「次行くぞ」


 (私が泣き言を言っても仕方がないか)


「もうこんな時間か、では私は執務室に行くぞ」


 ◇


 アベルが施設の門に駆けてくる。


「来たな少年。では巡回任務に出るぞ」


 顎鬚の小隊長が周りに告げる。


「「「はっ!」」」


 小隊は隊長を含めて4人。

 それにアベルが見習いとして同行するので、5人での巡回であった。


 巡回任務は、所謂街の見回りである。

 小隊が歩いていると、憧れの目で見る子供たち、会釈をするものなど、街の人々から慕われて居るのにアベルは気が付く。

 周囲をキョロキョロする小隊長以外の隊員達。


「ずいぶんと……その、人気があるんですね」


「ん?まぁ、そりゃ、街を守る騎士団だからな」


 アベルのすぐ前を歩いていた騎士が満更でもない顔で答えた。


「誤解が無いように言っておくが、別に声援に応えてキョロキョロしている訳じゃないからな」


 髭の隊長が声を掛ける。


「そ、そうですよね」


「お前、俺たちが人気者といい気になってたと思ってただろ?」


「い、いえ、そんな事はありません」


「俺たちは、物陰や、俺たちを見て目を伏せたり、急に道を戻ったりするヤツが居ないか見てたんだよ」


 先程の騎士がアベルに言った。


「やましい事を考えてるやつは、俺たちから逃げようとするからな」


 隣の騎士も話に加わる。


 ちなみに全員歩みは止めず、周囲の警戒は行っている。


「ついでに教えておくが、俺らの巡回ルートは隊長達が集まって決めたものだ」


「今朝ですか?」


 アベルが聞いた。


「あぁ。毎日、団長がその日の巡回任務の担当を決めて、どう回るかは選ばれた隊長が決めるんだ」


「毎回変えるって、なんだか大変そうですけど」


「そう思うだろ?俺たちも思ってた。だけど巡回ルートや時間が決まっていると犯罪組織に情報が漏れる事も有り得るからって訳だ」


「それって……」


 漏れる事を前提にすると言うのは、裏を返せば組織の中に情報を漏らしている者が居ると認めているに等しい。


「言いたい事はわかるけどな。最初は反発もあったが実際に効果が出てるから、今では文句を言う奴も居なくなったけどな」


「なるほど。確かに毎回変わるんじゃ避けたい方は大変ですね。団長って凄い方なんですね」


 ニヤリと笑いながら隊長が振り向いてアベルを見る。


「ちなみに、この案の出処は闘技場で愛する男を救った聖女様らしいぞ」


「り、リリィが……」


「あははは、相手が聖女様ってのもお前も大変だなぁ」


 笑う隊員達。

 騎士団の副団長が出場するとあって、アベルとケイティの試合は多くの騎士が目にしていたのだ。


 当然、その後のリリィが行った治療魔法……そして、その後に聖女として名を広めた事も含めて、騎士団では知らないものは居なかった。


 意外な所でもリリィが有名になっているのを聞かされて、困った表情を浮かべるアベルであった。


 ◇


 そんなアベル達の騎士小隊を、リリィが見掛けた。


「あ、アベルだ!本当に騎士団に入ったんだぁ」


「あれが例の……」


 リリィの後ろには、いつものようにセリーヌが付き従う。


「うん。なんだか、制服に着られてるって感じで……可愛い。あっ」


 リリィが振り返りセリーヌを見る。


「ご安心下さい。リリィ様がご心配するような真似は、あの者に致しません」


 言いたい事を察して、頭を下げながらセリーヌが答える。


「それで……リリィ様は、お声をおかけにならなくても宜しいのですか?」


「う〜ん。あ、怒られてるのかな? お仕事の邪魔しちゃ悪いから、行きましょ。私は旦那の仕事を理解できるお嫁さんになるの!」


「……」


 先を進むリリィを、何か言いたげなセリーヌが後に続く。


 ◇


 ちなみにアベル達はリリィには気が付かず、こんな会話をしていた。


「ところで……お前ケイティ副団長と住んでるんだよな」


 アベルの右側を歩く騎士が言う。


「は、はい」


「副団長と同じ家か。毎朝稽古もつけてもらえるんだろ? 羨ましいな」


「家では、からかわれてばかりですよ」


 アベルは苦笑した。


「あの人を相手に言い返せるだけでも大したもんだ」


「お前、副団長に気に入られてるんじゃないか?」


 好き勝手に言う騎士達に、アベルは慌てて首を振った。


「そ、そういう話じゃありません!」


 施設に戻った後も、話を聞いた他の小隊の騎士にまでからかわれるアベルであった。


 ◇


「ここがロタール東魔術……学園?」


 セリーヌの案内でついた建物を見て、リリィが発した言葉がそれであった。


 その建物は学園と呼ばれているが学校には見えなかったのだ。

 出入りしているのは大人ばかりで、役所と言う雰囲気であった。


「セリーヌ……ここでいいの?」


「はい、こちらが魔術学園ですが……本当にこちらに通われるのですか?」


 幼年学校を卒業したあと、公爵からは公爵領の為に力を貸して欲しいと言われ、枢機卿には聖職者として教会で暮らして欲しいと言われたが、まだ学びたい事があるのでと断ると、せめて貴族院にと言われたのだが、それすら断わり、魔術学園を選んでいた。


 魔術学園に行きたいと言うのではなく、これ以上特定の権力者との繋がりを避けたかったのが理由だ。


 (いつ何があるかわからないから……もう少し使える魔法の種類増やしておきたいしね)


 リリィの使う魔法は、イメージが他者より明確な為、効果は比較にならないほど強いのだが、それでも初級魔法の範囲内である事に変わりはない。



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