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第11話 平民の母親・理不尽な現実

 地面に座り込んだアベルに抱き着いているリリィ。

 2人とも血塗れの状態になっている。


「し、死んじゃうかと思ったんだから!」

「悪い……リリィが切られそうだと思って、慌てて飛び出したら、斬られたみたいだ」


  アベルは戸惑いながらも、泣きじゃくるリリィの頭を撫でる。

 周囲は目の前で起きた奇跡のような魔法に驚く者と、幼い2人を微笑ましい表情で見守る者が混ざっていた。


 リリィの母親は前者、ミーシャは後者という感じである。

 だが、別の戸惑いの反応を見せる者が現れ始める。


「これはなんの騒ぎだ」


 騎兵を引き連れた豪華な馬車が近づいてくる。

 それに合わせて周囲の人の輪の一部が馬車に道を譲る。

 いや、譲ると言うよりは避けるといった様子だった。


 その中から一騎の騎兵が、アベルとリリィそして横でへたりこんでいたミーシャの3人に近づき、馬上から見下ろした形で問い質す。

 他の者は巻き込まれるのを避けたいのか距離をとっている為、3人だけが人の輪の中でポッカリと囲まれている形になっている。


「わ、わかりません……外が騒がしいと思い出て見たら、息子が血塗れで倒れていたのです」


 ミーシャはアベルとリリィを庇うように騎兵の男の前に立つと、頭を下げつつ問いに答えた。


「誰か状況が分かるものは居ないのか」


 騎兵の男が周囲に声を掛けると、1人の青年が人の輪のなかから1歩前に出て来た。


「私は門番をしていた者です。門を駆け抜けようとした馬車を不審に思い、止めようとしたのですが……突然、馬車が横転したかと思うと、馬車の男がそこの子供に斬りかかりました」


 門番をしていた青年の言葉に、少し離れた所で横倒しになっている馬車に騎兵の男が目を向ける。

 馬車の床の部分から突き出た氷の槍がまだ何本か残っているのが見えた。


 人集りが出来ていると思い状況を聞いたはいいものの、血塗れの子供に、不審な馬車、そしてそこから突き出ている、魔法で産み出されたであろう氷の槍。


 説明を聞いたはいいものの、全く状況が解らない事に苛立ちの表情を浮かべて、更に問い質すべく騎兵の男の言葉を別の声が遮った。


「おや、そちらのお嬢さんは……雑貨屋の娘さんですか?」


 馬車から降りて来たローデリックがリリィの姿を見かけ声を掛けたのだ。

 ローデリックの姿を見た騎兵の男は、慌てて馬から降りる。


「ここは危険です。馬車にお戻りください」


「いえいえ。あなた方を信頼していますから」

 ローデリックは、警告の言葉を発する騎兵の男の言葉を、片手を上げることで遮りながら、リリィ達の側まで近付く。


 そのすぐ後ろには護衛と思われる2人の男達がついていた。


「それで、切りかかった男と言うのは?」

 ローデリックが門番と名乗った青年に尋ねた。


「今追っております」


「そうですか。それはともかく……怪我が大した事が無くて何よりです」


 血塗れのアベルとリリィの様子に違和感を覚えながら、ローデリックが言った。


 これだけの出血が伴う傷を負ったのであれば、余程の重傷だと思われるのだが、身体を起こして話が出来ている様子から、命に関わるような傷ではなさそうと思ったのだ。


 その反面、ふたつの事実のギャップに違和感を感じてもいたのだ。


「それが……瀕死の重傷かと思ったのですが、そこの女の子の魔法であっという間に」


 門番の言葉に目を少し細めてリリィを見るローデリック。


「魔法で……ですか。魔法をその歳で使えるだけでも、随分と珍しいと思いますが、瀕死の重傷を回復させたのですか」


 そこに開けたままだった馬車の扉から、ローデリックより更に裕福そうな服装の男が降りて来た。

 その男は、この町の領主ハインツ子爵であった。


 ローデリックは、リリィを紹介するように手で示しつつ、領主に話し掛ける。

「ハインツ子爵。この子がお話した娘です」


「ほぉ……この町に頭脳だけでなく、魔法の才能まで持つ者が居たとは。

 憲兵。関係者から話を聞き報告せよ。それと、その子供らの両親は、子供と共に明日館に来るように。直接話を聞きたい」


 それだけ言うと領主は、ローデリックと共に馬車に戻り、その場を立ち去ってしまった。


(よりによって、面倒な場面を見られたわね……)


 貴族や領主に目をつけられた事で、最初の尾行されている段階で男達に対処しておいた方が良かったと後悔するが、今更、強硬策は使えない。


 リリィ1人だけならともかく、アベルはまだ幼い子供なのだ。貴族と敵対するのは得策ではない。


「り、リリィ! あんた何をしでかしたんだい! 貴族様だけじゃなく、領主様にまで目を付けられるなんて!」


 馬車が走り去ると、今まで周囲の人混みに紛れていたリリィの母親が飛び出して来たかと思うと、半ば錯乱状態で怒鳴る。


 自分の心配もせず、責め立てる母親の態度にリリィは呆れる。だが、リリィが反論するより前に反応した者がいた。


「リリィは何も悪く無いじゃないか!」


 思わず、リリィの母親に反論するアベル。


「お使いを頼んだだけの筈なのに……いきなり馬車がひっくり返って何かと思ったら、こんな騒ぎを起こして。

 この町で領主様に目をつけられて、どうやって生きてけっていうんだい?!」


 リリィの母親は、全てリリィが悪いと言わんばかりの態度だった。


「いきなり切り掛るさっきの男達が怪しいじゃないか!リリィが騒ぎを起こした訳じゃない!」


 アベルは声を荒らげて言い返す。


 だが、言い争いを始めそうな二人を窘める者がいた。


「そこまでだ。話はこちらでそれぞれから聞かせてもらう」


 馬車に従って現れその場に留まっていた騎兵の男が止めたのであった。




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