68 父からの電話
ダニエルがルーカスを無理やり連れ去ったその瞬間、エマは心の中で少なからず動揺していた。
彼女はこの行動が、遅かれ早かれ本家に知られることになることを知っていた。
ただ、「深淵」からのこの電話が、これほど早くかかってくるとは予想していなかった。
深夜、窓の外では海風がささやき、波のリズムはまるで天然の子守唄のようだった。
エマはチャールズの温かく力強い腕の中に身を寄せ、彼の尾は最も柔らかな毛布のように、優しく彼女を包み込んでいた。彼女は普段よりも深く眠りについていた。
その時、静寂な夜にひときわ目立ち、絶え間なく点滅する光が、エマの安らかな眠りを乱した。
「うーん……」
エマは不機嫌そうに眉をひそめ、ぼんやりとした意識の中で身もだえながら、反射的に足を上げて、隣にある温かい体を軽く蹴った。
「チャールズ……寝る前に通信クリスタルを寝室に置かないでって言ったでしょ? まぶしいわ……」
彼女を抱きしめていた腕がさらにきつく締められ、チャールズはぼんやりと「うっ……」と声を漏らし、寝ぼけた様子だった。
彼は片方の腕を離し、ベッドの脇を手探りで探って通信クリスタルをエマの手の中に押し込み、かすれた声でつぶやいた。
「エマさん……あなたの通信クリスタルが鳴っています……」
え? 私の?
残っていた眠気は一瞬で吹き飛んだ。エマは気まずさを隠すように軽く咳払いをして、通信クリスタルに出た。
「もしもし?」
相手からは長い沈黙が続き、通信クリスタルからは微かな電気のジリジリという音だけが聞こえてきた。
「もしもし? どちら様ですか?」
彼女は少し声を張り上げ、心の奥底で漠然とした不安が湧き上がってきた。深夜の無言の通信は、それ自体が不気味な雰囲気を漂わせていた。
エマが何度か呼びかけても返事はない。忍耐の限界に達し、切ろうとしたその時。
「……エマ」
低く、聞き覚えのある声がようやく聞こえてきた。
エリアス伯爵、彼女の父だ。
エマは通信クリスタルを握る指をわずかに震わせた。
すると、温かく大きな手がそっとエマの手の甲を包み込んだ。
続いて、温もりのある胸が彼女の背中に寄り添い、力強い腕が再び彼女を抱きしめた。
チャールズは何も言わなかった。
ただ、その穏やかな息遣いで、自分の存在を伝えていた。
エマは深く息を吸い込み、平静を取り戻すと、どこか距離を置いたような声で言った。
「お父さん、こんな遅い時間に連絡を……何かご用ですか?」
通信クリスタルの向こうから、重いため息が漏れた。
「エマ……」
父の声には、以前よりずっと老いたような疲れが滲んでいた。
「お前の母さんは……もう……あまり時間が残されていない。 魔力が急速に失われていく……
魔薬師によると、あと二、三日のことだそうだ……」
父の声には、真実か偽りか分からない微かな嗚咽が混じっていた。
「彼女は最後に君に会いたいと言っている。 エマ、帰ってきてくれ、せめて……彼女に一度だけでも会ってやってくれ……」
最後に会いたい?
冷たい皮肉が、エマの中に湧き上がっていた場違いな微かなときめきを瞬時に吹き飛ばした。
エミリーの結婚式で「来なくていいわ、見ているだけで不快だから」と言った継母が、死の床とはいえ、かつてあそこまで嫌っていた継娘に会いたいと願っているというのか?
エマは彼女を許すことはできなかった。
過去の傷と和解することを選んだのは、自分を許すためであって、傷つけた相手を許すためではなかった。
断る言葉が唇まで込み上げてきたその時、通信クリスタルが突然二度目の光を放った。
新しいメッセージ、継母からのものだった。
呼び名も、挨拶もない。ただ一行の文字だけ:
「実のお母さんのこと、知りたくない?」
エマは指をぎゅっと握りしめ、通信クリスタルの縁が手のひらに食い込んだ。
「帰るわ」
エマはそう答えると、父の返事を待たずに通話を切り、静かにベッドに倒れ込んだ。
窓の外から、青白く冷たい月明かりが差し込み、床に冷たい光の輪を落としている。
背後からサササッという物音がした。
チャールズの顎がエマの頭頂にそっと触れ、温かい息が耳元を撫でた。
「チャールズ」
「うん」
「……一緒に帰ろう」
「はい」
チャールズの答えには、微塵の躊躇もなかった。
ついに、エマはチャールズを連れて帰路についた。
久しく離れていた、一度も温もりを与えてくれなかったあの街へと。
列車が発車するとチャールズは車窓越しに眉をひそめ、遠くの海の上空を一瞥した。
何もなかった。
しかし、さっきは確かに暗紫色の魔力に包まれた黒いカラスを見たはずだった。
「チャールズ、どうしたの?」
「大丈夫です。ただ、今日の天気はちょっと良くないと思ってるだけです」
チャールズはエマには言わなかった。
ただ、テーブルの下で、エマの手をぎゅっと握りしめただけだった。




