65 ルーカスとエミリー
ルーカスはエリアス邸へ向かった。
彼はエミリーの洗練された応接室の前に立ち、期待に胸を躍らせていた。
ついにエマとの契約から解放され、心の中で真の「光」が輝く場所へとたどり着いたのだ。
そう信じて少しも疑わなかった。
彼はエミリーの驚きと喜びに満ちた笑顔や、優しい言葉を想像していた。
しかし、ドアの向こうから聞こえてきた声が、彼の足を先に凍りつかせた。
「――不器用ね!お茶のカップすらまともに持てないの?」
それはエミリーの声だったが、見知らぬほど鋭い声だった。
「この香り、全然違うわ!こんな粗悪品で私をごまかそうっての?」
「すみません、エミリーさん。すぐに取り替えます」
ダニエルの無感情な声が響いた。
ふん、お茶すらまともに淹れられないなんて、ダニエルは本当に役立たずだ。エミリーさんはきっと俺のことをもっと気に入ってくれるに違いない!
ルーカスは興奮して空想にふけった。
「いいわ! あなたを見るだけでイライラする!」
エミリーの苛立った声が再び聞こえてきた。
「出て行きなさい。今夜は二度と私の前に現れないで。まったく……最も基本的な奉仕さえできないなんて」
ドアが開き、ダニエルは黙って退出し、ドアの外にいたルーカスとすれ違った。
ルーカスはダニエルの顔に幾筋かの細かい引っかき傷があるのをはっきりと見た。
ダニエルはルーカスに一瞥もくれず、廊下の奥へと姿を消した。
ルーカスは心の中で疑問を抱きつつも、それでも確固とした足取りでリビングへと入っていった。
エミリーは彼に背を向けて、苛立ち気味にスカートの裾を整えていた。足音を聞いて振り返ると、彼女の顔には一瞬にして、ルーカスにはお馴染みの明るく、少し驚いたような表情が浮かんだ。
「あら、ルーカスね」
エミリーの笑顔は甘美だった。
「珍しいわね。 どうしたの? 私のお姉さんが、ようやくあなたから離れてくれたの?」
ルーカスの喉は少し渇いていた。
「エミリーさん、俺は……あなたのそばにいたいんです……」
「えっ?! ハハハ! 面白い、本当に面白いわ!」
エミリーは大声で笑った。
彼女はルーカスの周りを一周し、その視線には嘲笑が込められていた。やがて彼の前に立ち止まると、あの甘ったるい声で、ルーカスの美しい幻想を完全に打ち砕く言葉を口にした。
「そういえば、本当に感動的ね。 私の姉はあなたに一途な想いを寄せているんだから」
彼女は首を傾け、その笑顔は無邪気でありながら残酷だった。
「でもね、ルーカス…何か勘違いしてるんじゃない?」
彼女は指先でルーカスの胸元を軽くつつき、その瞳には興奮が宿っていた。
「エマが嫌がって捨てたものを……私、エミリー・エリアスが拾うとでも思った?? あなた、私が『ゴミ』を受け入れるような人間に見える?」
「ゴミ」……
その言葉は鋭い短剣のように、ルーカスの心臓を深く突き刺した。
彼は勢いよく顔を上げ、目の前にある相変わらず美しく魅力的な顔を見つめたが、足の裏から頭のてっぺんまで冷たい戦慄が走り抜けるのを感じた。
ルーカスは、エミリーの爆笑の中、みっともなくエリアス邸から逃げ出した。
***
「エマ、俺が間違ってた! 完全に間違ってた!」
「エミリーさんは、俺が想像していたほど優しくて善良な人じゃなかった!あんなに美しい目をしているのに、心は優しくない。彼女は俺を嘲笑った。俺は……もう彼女のことが好きじゃない……」
「エマ……俺がずっと好きだったのは君だけだ。ただ……失って初めて気づいたんだ! 信じてくれ、俺は本当に君が好きなんだ!」
この遅すぎる、他人を貶めるような「告白」は、エマの心を動かすどころか、かえって彼女にさらなる滑稽さを感じさせた。
エマは悔しくて歪んだルーカスの顔を見つめ、心に湧き上がったのは憐れみと冷笑だけだった。
エマは彼がぎゅっと掴んだ手首を力いっぱい振りほどき、一歩後退して安全な距離を保った。
「ルーカス、あなたは十年間も私を嫌っていたくせに、エミリーに振られたからって急に私を好きになったの?」
「いや、エミリーさんに振られたからじゃない……」
「ただ、行き場がなくなっただけでしょう」
ルーカスは雷に打たれたかのように固まった!
全身が硬直し、青い瞳孔が激しく収縮した。
「エミリーが嫌いだって言っていたくせに、それでも彼女を『エミリーさん』と呼んでいる。それなのに私に対しては、以前は名前すら呼ぶのを嫌がっていたし、今でも『お前』とか呼んで下に見ているでしょう」
ルーカスは茫然とエマを見つめた。
長年にわたる疎遠や拒絶、エマが抱えてきたすべての苦しみ、それらは彼にとって、すべて当然のことだったのだ!
「……もうそんなことはない! 二度と君を拒んだりしない! エマ……エマさん! 気をつけるよ」
そう言うと彼は切実な、いや、媚びを込めたような口調で、かつては絶対に彼女に触れさせなかった、華やかでふさふさとした狼の尻尾をエマの目の前に差し出し、震える声で懇願した。
「俺の尻尾、好きでしょ? ほら……触っていいよ……」
エマは夕陽の下でもなお銀色に輝く尾を見つめ、きっぱりと一歩後退した。
「もう手遅れよ、ルーカス。私にはもう、触れる別の尾があるの。
それに、彼は嫉妬深いから、私が他の人の尾を触ったと知ったら怒っちゃうわ」
エマは再び目の前の銀色のオオカミの尾を見つめた。うーん、やっぱりオレンジ色の方がきれいだな。
ルーカスはさらに焦りを募らせた。
「償うよ! エマ! 残りの人生をかけて償う!
俺は狼獣だ、あいつより強いんだ!」
エマはゆっくりと首を横に振った。ルーカスはまだ分かっていない。
エマの視線はルーカスを通り越し、遠くで真っ赤なバラの束を抱えて静かに待っている人影へと向かった。チャールズはいつの間にか来ていたのだ。
その時、彼はエマの周りに揺れ回っている銀色の尻尾を、陰鬱な表情で見つめていた。




