54 いわゆる正義
数年ぶりに、エマは再びトーマスと共に、指導室のような場所に立っていた。
ただ、今回は場所が学校の管理棟にある、重々しい雰囲気のセレナ室に変わっていた。
今回、エマは少しも怖がっていなかった。
今回、エマの背後には誰もいないわけではなかった。
そこには、エマの手をしっかりと握りしめている女子学生、怒りの色がいまだ消えない生徒会代表、知らせを聞いて駆けつけたエマの研究グループの仲間たち、そして、警備員に「連れ出されよう」とされながらも、尚も頑なにエマに最も近い位置に立ち続けているチャールズがいた。
セレナ副校長は、厳格な表情の女性だった。
彼女は黙って、面談エリアの監視カメラの映像を呼び出した。
高画質の映像には、トーマスの挑発や罵倒の全過程、そしてチャールズが我慢の限界を超えて手を出した瞬間が鮮明に映し出されていた。
監視カメラの音声がクリアに再生され、室内の空気は水滴が落ちそうなほど張り詰めていた。
トーマスが「彼女の母親でさえ『不気味だ』と言っている」「召喚獣ですら彼女を嫌っている」と悪意に満ちた言葉を口にしたのを耳にすると、セレナの眉間に深いしわが寄った。
映像の再生が終わった。
セレナは黙って立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。窓を開けたが、すぐには何も言わなかった。
彼女はポケットからタバコの箱を取り出し、一本取り出して火をつけ、深く吸い込んだ。立ち上る煙が、彼女の冷たい視線をぼやけさせた。
副校長室の空気はますます静まり返った。
数秒後、セレナはひと吸いしただけのタバコを消した。
皆の驚愕の視線の中、彼女は大股で、警備員に押さえつけられ、顔に血痕と憤りの表情を浮かべたトーマスの前に歩み寄った!
「……以上で間違いないな?あなたは発言を撤回する気はあるか?」
「私は事実を言っただけ——」
「バン!」
またしても、鋭く力強いストレートパンチが、トーマスの頬骨に容赦なく叩き込まれた!
「ああ――!」
トーマスは再び悲鳴を上げ、よろめいて壁に激突した。
「今のは副学長としてではない。 一人の教育者としてだ」
セレナは、まるでほこりを払うかのように手を振った。
そして、隣で取材ブースの審査を担当し、今や顔面蒼白になっているスタッフの方を向いた。その声には、疑いようのない威厳が込められていた。
「仕事ができないなら、代わりの人間を呼べ!
このような品行下劣で、聖なる学府で公然と人格侮辱やキャンパスハラスメントを行う社会のゴミを、一体誰が本学への取材を許可したのだ?!」
審査担当者は汗を滝のように流し、さらに深く腰をかがめた。
「直ちに、彼および彼に関連するすべての関係者の取材資格を剥奪せよ!
本学の名義で提携しているすべての機関、同窓生企業に通知し、彼の会社とのいかなる形態の提携も永久に禁止せよ!
今すぐ彼を私の目の前から追い出せ!」
トーマスは急速に腫れ上がった頬を押さえ、痛みに顔をしかめた。判決のようなこの決定を聞き、彼の顔には驚愕の色が浮かんだ。
「何様のつもりだ?! 私は記者だ!」
「だから? 本学には関係ない。 連れて行け」
「資格を剥奪する資格がどこにある?! 人を殴るなんて?! 訴えてやる! 学校も訴える! 暴力行為だ!」
「ふん」
セレナはそれを聞くと、わずかに首を傾け、まるで虫を見るような目でトーマスを一瞥し、口元に嘲笑の笑みを浮かべた。
「何の権利だって?」
彼女はゆっくりと繰り返した。
「私が今回の学園祭の総責任者であり、この学校の副校長だからよ」
彼女は少し間を置き、怒りと痛みに歪んだトーマスの顔を見つめながら、研究者特有の自信に満ちた口調で言った。
「それに、運悪くも私のディヴァーン大学法学部は、聖国の法学部ランキングでちょうど1位なの。
聖国の司法・法執行機関において、上級執行官や検察官の7割以上が、本学の卒業生よ。
うちの学校を訴えるつもり?」
「プッ!」
ある学生が笑いをこらえきれず、声を上げてしまった。
「さすが、我らが優秀なディヴァーン大学だ」
周囲の学生たちも思わず笑いをこぼした。
セレナに睨まれると、すぐに大人しく口を閉ざした。
セレナは一歩前に踏み出し、その圧倒的なオーラにトーマスは息が詰まりそうになった。
「訴えるなら結構!
待ってるわ!
思いっきりかかってきなさい!」
そう言うと、セレナは青ざめて崩れ落ちたトーマスにはもう目を向けず、まっすぐエマのもとへ歩み寄った。
ついさっきまで刃のように冷たかったその眼差しが、一瞬にして和らいだ。
彼女は手を伸ばし、温かく力強くエマの肩をポンと叩いた。
「エマ先生、今回の件は学校側の不手際で、あなたに不愉快な思いをさせてしまいました。学校は、いかなる形のハラスメントや侮辱も決して容認しません。
ゆっくり休んでください。この件については、学校が最後まで責任を持って対応します」
エマは、セレナの瞳に隠すことのない擁護の意を見出し、肩に伝わる力強さを感じながら、ずっと目頭に溜まっていた涙が、ついに音もなくこぼれ落ちた。
しかし、今回の涙はもはや屈辱や絶望の結晶ではなかった。
「それから、あなたたちも!」
セレナは突然声を張り上げ、先ほどのパンチで呆然としていた学生たちを厳しい眼差しで見渡した。
緊張した鼓動の音が、まるで職員室の中に響き渡っているかのようだった。
セレナはふっと笑った。
「よくやった! さすがはディヴァーン大学の学生だ」
「あああ! セレナ様、超カッコいい!」
「ディヴァーン大学万歳!」
「僕も将来、聖国の法学部に入りたい~正義のために! 先輩たちみたいにカッコよく!」
「いやいや、君じゃダメだよ。 正義のために! 俺がやる」
「そんなこと言わないでよ、一緒に採用されようよ。 今はクラスメートだけど、将来は同僚になるんだから!」
「いいアイデアだ!いいぜ~将来の同僚な!」
「ハハハ」
場の空気が一瞬で和やかになった!オフィスには歓声が響き渡った。
「ハハハ~」
エマは笑いながら手を上げ、頬の涙を力強く拭き取った。
エマは深く息を吸い込んだ。
潮風が運ぶ塩気のある空気が胸の奥まで流れ込んだ。
エマはこれ以上何も言う必要はなかった。
正義とは本来、正しい人の側に立つべきものであり、容姿も、地位も、生い立ちも関係ない……
今、エマの周囲に広がる確かな善意の中で、エマはようやく生き返った。
彼女は赤くなった目でチャールズを見つめた。チャールズは相変わらず優しく彼女を見つめていた。
トーマスは警備員に連れ去られる直前、怨念に満ちた目でエマを鋭く睨みつけた。
その目には、敗北も後悔もなかった。
ただ、骨の髄まで染み渡るような憎しみだけがあった。
そして、狂気じみた、一か八かの決意が。




