51 最悪の再会
ヴェルニスに春が訪れ、空は高く雲は薄く、海風にはほのかな涼しさが感じられた。
花壇には春の花々が咲き誇り、空気には草木が新緑を纏う香りが漂っていた。
年に一度の学園祭は、まさに最高潮を迎えていた。
ディヴァーン大学は、聖国でトップ3に入る名門大学である。そのため、毎年の学園祭は大変重視されており、多くの大手メディアが取材に訪れている。
キャンパス内は人で溢れかえり、大いに賑わっていた。
エマはチャールズと一緒にキャンパスを散歩していた。
通りには色とりどりの屋台が並び、焼き菓子の甘い香りや香辛料の刺激的な匂いが風に乗って漂ってくる。
あちこちから笑い声や呼び込みの声が響き、学生たちの活気が学園全体を包み込んでいた。
「あれ、美味しそうですね」
チャールズは少し先に見えた屋台を見つめ、小さく目を輝かせる。
「たこ焼き、でしたか。外はカリッとして、中はとろりとしている料理だと聞いたことがあります」
「あれ? チャールズ、食べたことないの?」
「ええ。一度食べてみたいと思っていました」
「行こう!」
エマはチャールズの手首を軽く引き、迷わず屋台へ駆け寄った。
エマとチャールズがたこ焼きの出来上がりを待っていると、周囲では小さなどよめきが広がっていく。
「ねえ、あの召喚獣……」
「すごく格好いい……」
学生たちは思わず足を止め、その堂々とした立ち姿に目を奪われていた。
当のチャールズ本人は、そんな視線など全く気にせず、屋台のたこ焼きについて真剣に語り続けている。
「ソースだけでなく、塩味という食べ方もあるそうですよ」
「全部買って食べ比べしようよ。早く言えばいいのに~私はたこ焼き作れるよ」
「……本当ですか?」
「チャールズ!」
「じゃあ、次一緒に作ってみましょう」
「結局信頼されてないじゃん」
「ふふっ」
たこ焼きを受け取って、二人が取材エリアを通り抜け、実験棟へ曲がろうとしたその時、楽しげな喧騒を裂くように聞き覚えのある声が響く。
その声音には、隠す気のない悪意が満ちていた。
「おや! これはこれは私の元同窓生、エマ・エリアス様じゃないか?!」
エマは突然足を止めた。
チャールズもすぐに足を止め、不思議そうに声の主の方を見た。
目立たない片隅に「デイリー・エンターテインメント」の看板が立てられており、サイズが合わないスーツを着て、髪を油でツヤツヤに整えた男が、通りかかる学生たちに学校の裏話を聞き出そうと、口角泡を飛ばして話しかけていた。
学生の返事など最後まで聞かず、興味がなさそうだと分かればすぐ次の相手へ向かう。
口元には笑みを貼り付けているのに、その目だけは獲物を探すように忙しなく動いていた。
彼はエマとチャールズに気づき、獲物を見つけたように目を細め、その口元がゆっくりと歪んだ。
トーマス。
エマは拳を固く握りしめた。
トーマスは取材相手を途中で放り出し、そのまま一直線に歩いてきた。数歩で二人の前に立ち塞がった。
「久しぶりだね、エマ。おやまあ、どうして仮面をつけてるんだい?
でも仮面をつけていても君だと分かるよ。 だって、その手の三角形の傷跡は、俺が『うっかり』残したものだからね」
トーマスの細い瞳には、不快なほど鋭い知性と、獲物を見つけた興奮がきらめいていた。
粘つくような視線が、まずチャールズを頭の先から足元まで舐め回し、値踏みする。
そして視線がエマに向くと、その眼差しは一瞬にして軽蔑へと変わった。
「ちっ、ちっ、ちっ、まさに『三日会わざれば刮目して見よ』ってやつだな!」
彼は皮肉たっぷりに声を引き伸ばし、その声の大きさに周囲の多くの人々が振り返った。
「どうした? 新しい召喚獣に変えたのか?
お前の愛しい白狼ルーカスが、ついに我慢できなくなってお前を振ったんじゃないか? なあ? ハハハハ!」
「黙れ!」
激しい羞恥と怒りでエマの顔色は青ざめ、指先は冷たくなっていた。
エマは彼と口論したくなかった。
こんな相手と一言でも多く話すことは、自分への侮辱に他ならない。
エマは込み上げる感情を必死に抑え、隣で同じく険しい表情を浮かべているチャールズの腕を軽く叩いた。
「チャールズ、あいつのことは気にしないで。行こう」
エマはこの吐き気を催すような存在から逃げたかった。
この場から逃げ出したかった。
しかし、チャールズはエマの手を力強く握り返し、動こうとしなかった。
トーマスはまだしつこく迫っていた。
彼はまた一歩踏み出し、チャールズの前に立ち塞がり、偽りの「同情」の笑みを浮かべて、チャールズに言った。
「おやまあ、こんなに可愛い小狐が、本当に残念だな……」
彼は頭を左右に振り、舌打ちをした。
「エマについていくのは、辛いだろう? この女はつまらないし、陰気だし、見た目も……
もっと将来性のある主人を探してみないか? 俺なら何人か知っているが……」
エマは顔色を青ざめさせ、チャールズと固く握り合っていた手をゆっくりと離した。




