42 「戦略的撤退」の戦術(2)
エマがバリア防御の使い方を完全に習得してから、チャールズはようやくエマに攻撃の指導を始めた。
「空間魔法には攻撃性がないため、魔法ダメージの跳ね返しが唯一の攻撃手段となります」
そして、チャールズは空間の裂け目を素早く形成する方法、「折り畳み点」を正確に特定する方法、移動中に魔力の安定した出力を維持する方法などの知識をしっかり教えた。
「エマさん、すごいですね!」
チャールズは、彼女が息つく間もなく3つの空間の裂け目を連続して開くのを見て、心から感嘆した。
「あなたが、僕が今まで出会ったどの空間魔法士よりも才能があります!」
エマはチャールズを見つめ、不思議に思った。
エマはすでに2年近く空間魔法を研究してきたが、チャールズの理論知識は彼女よりもはるかに豊富だったのだ。
「どうしてそんなに詳しいの? 空間魔法に関する記録なんてほとんどないはずよ。 学校にも関連する記録も少ないわ」
「……うん、そうですね。 僕を売った前の主人は、実は空間魔法士だったんです……」
え? 空間魔法士はこの世界でかなり上位の存在のはず、どうして自分の召喚獣を売ってしまったのだろう?
お金がないはずがないだろう。
しかしチャールズがこれ以上話したがらない様子を見て、エマは首を横に振って、それ以上は尋ねなかった。
「じゃあ」
彼女は手を叩いた。
「続ける?」
チャールズはうなずくと、突然身をかがめ、彼女に向かって猛スピードで突進してきた。
エマは無意識に後ずさりし、同時に自分の目の前に跳ね返しバリアを展開した。
チャールズは足を止め、狐の尾が地面をかすめた。
「反応は良いね、タイミングも完璧だ。だが、エマさん――」
彼は体を横にずらして、バリアの脇の隙間をすり抜けてきた。
「――バリアが狭すぎる。もう少し広くしてください」
「……広すぎると魔力を無駄にするし、跳ね返る位置も定まらないから、誤って自分の仲間を傷つける恐れがありますよ」
「もちろん、エマさんから与えられる痛みなら、チャールズが喜んで受け入れるんですけど」
「チャールズ、ちゃんと訓練しなさい!」
「はい」
チャールズは再び突進してきた。
今度は、エマが展開したバリアは先ほどよりも倍の幅があり、空間の裂け目も併用されていた。
チャールズは急ブレーキをかけざるを得なかった。
「……危なかった」
彼は息を整えつつ、目を輝かせた。
「エマさん、この距離がちょうどいいです。 そして空間の裂け目との連携も悪くないですね」
「本当?」
「うん!」と彼は笑って言った。
「でも、もしうっかり人が裂け目に飲み込まれたらどうなるのですか?」
死にますか?」
チャールズは、エマが人を殺すという心理的な重荷に耐えられるとは思わない。
「はは、飲み込まれることなんてないよ。 ただ脅かしただけ。 この裂け目は表面の歪みに過ぎないから、せいぜいぶつかる程度だね」
……チャールズは顎を撫でた。
「脅かすのも悪くないですな。でも、人をそのまま飲み込めたらもっと良いんだけどな」
「……チャールズ、怖い!」
「ははは!」
エマは拳を握りしめ、指先に再び銀白色の光が灯った。
中庭には心地よい日差しが差し込み、遠くから海風が吹いてきた。
「もう一回!」
「はい!」
訓練が終わり、エマはタオルで汗を拭った。
チャールズはエマの赤い瞳を見つめ、何かを思い出したのか、突然尋ねた。
「そういえば、エマさん、その……『読み手』の能力……」
彼は少し躊躇してから、
「本当に他人の欲望が見えるんですか?」
エマの笑顔が少し薄れた。
「正直なところ……分からないよ。
小さい頃から『赤い瞳の読み手』と呼ばれてきたけど、実際に他人の心を『読み取った』ことは一度もない。
たまに……感情が特に強くなった時だけ、ぼんやりとした映像を感じることがあるくらいかな」
「どんな状況ですか?」
チャールズが追及した。
エマは少し考えた。
「例えば……」
彼女は言葉を切り、チャールズをまっすぐ見つめた。
「……???エマさん?」
チャールズは目が丸くした。
「チャールズ」
エマが突然口を開いた。
「はい?」
「今、何を考えているの?」
チャールズの顔が「シュッ」と赤くなった。
「な、何でもないです!」
彼の尻尾が急に硬直し、耳がピンと立った。
「本当に何でもないです!
ただ、エマさんがすごく――いや、今日の天気のことで――違う、僕は――」
エマは彼の慌てふためく様子を見て、思わず笑いをこぼした。
「もういいわ、聞かないから」
彼女は背を向けて部屋の中へ歩き出し、声には隠しきれない笑みがにじんでいた。
「エマさん、本当に見えるんですか――」
チャールズは彼女の背後で焦ったように尋ねた。もし本当に見えるなら、自分のあの考えは……
「嘘よ、バカ。ただの赤い瞳だから何も見えないわ! 誰が私に『赤瞳の読み手』なんて中二病っぽいあだ名をつけたのかしら!」
「……」
チャールズは深く息を吐いた。
「よし、私が料理をするわ。 あなたは庭を片付けて」
「えっ? エマさんが料理?」
チャールズは慌てた。
「だめだ! 僕にやらせて! 庭は後で片付けますよ。 エマさん、この前塩と砂糖を間違えて――」
「黙って! あれは事故よ! 昔は料理してたの、ただ長い間やってなかったから忘れてただけ」
「あの時も『事故』って言ってたし、この前も『事故』って言ってたし、その前も――」
「チャールズ!」
「はい!」
塀の上で、カモメが首を傾げてしばらく眺めていたが、笑い声に驚いてバタバタと飛び去っていった。




