20 海辺での再会
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突然の声にエマは呆気にとられ、足を止めて振り返った。
数歩先にエミリーが立っていた。金色の巻き髪は海風に吹かれて少し乱れていた。
ダニエルは静かにエミリーの傍らに控えていて、無言でエマを一瞥した。
「……久しぶりね」
とエミリーが言った。
「……うん」
沈黙が流れた。
頭上をカモメが飛び去り、甲高い鳴き声を上げた。
「お父様が病気なの」
エミリーが突然口を開いた。
エマは彼女を見つめたが、反応しなかった。
「お父様はあなたに会いたいって。 ルーカスも……あなたに会いたがってるわ」
エマは依然として口をきかず、ただまっすぐエミリーを見つめていた。
エミリーは脇に組んだ手をわずかに縮め、視線をそらした。
「お父様は、あなたがもう長い間家に帰っていないと言ってた。
お父様はすごく……」
「エミリー」
エマはようやく口を開いた。
「あなたは子供の頃から嘘をつくのが苦手だったわ。 嘘をつくたびに、相手の目を見られなくなっていたもの」
エミリーのまつげがちょっと震えた。
「父の伝言なんて必要ないわ。 私は帰らない」
「……どうして父が帰ってきてほしいのか知りたく――」
「知りたくない」
エマはきっぱりと遮った。
「あなたと争うつもりは一度もなかった。 子供の頃も、今も。
あなたが求めているもの、
父や継母に認められることでも、伯爵令嬢としての地位でも、『完璧な令嬢』と呼ばれることでも、
私は何も欲しくない」
エミリーは一瞬呆気にとられ、口を開きかけたが、何か言おうとしたものの、結局は小さな声で尋ねるだけだった。
「じゃあ、あなたは何が欲しいの?」
エマは答えずに、ただ海の方へ顔を向けた。
夕日が海面へと沈みつつあり、オレンジ色の光が海面に降り注ぎ、砕けた金のように輝いていた。
「エミリー、あなたにもあなたの生きる道がある」
エマはエミリーを見つめ、優しい眼差しで言った。
「だから、もう私のことは気にしなくていいの。 帰って」
彼女は背を向けて立ち去り、砂浜には足跡が残されたが、すぐに押し寄せる潮に消されていった。
エミリーはその場に立ち尽くし、白い仮面をかぶったその後ろ姿が遠ざかっていくのを見つめていた。
エミリーは出発前、書斎で父が怒鳴り散らしていたことを思い出した。
「あの子を戻せ!」
怒りで歪んだその顔は、何年も前にエマを平手打ちした時のものと全く同じだった。
しかしエミリーは分かっていた。
父の態度はすでに変わっていた。
エリアス家は徐々に没落しつつあった。だからこそ、一族にはエマの力が必要だった。
ただ、父はそれを認めようとしなかった。
かつて自分の手で平手打ちしたあの「役立たず」が、今やエリアス一族唯一の頼みの綱になっている。
口では「戻ってこい」と言いながら、心の中では「頼むから帰ってきてくれ」と願っていたのだ。
なんて滑稽なのだろう。
そして母は。
母は父の前で笑みを浮かべて言った。
「そうね、エマは確かに家に帰るべきよ。女の子が一人で外にいるのは危ないもの」
しかし、彼女が家の外へ一歩踏み出そうとしたその瞬間、母は彼女の手を掴んだ。
指の関節が固く締まり、爪が彼女の皮膚に食い込みそうだった。
「エマを家へ戻してはいけない、あの子が戻れば面倒なことになる」
母の声は低く抑えられていた。
「あの子はあなたのすべてを奪い取るわ。
一度戻ってしまえば、伯爵家も地位も伯爵令嬢の座も、徐々に彼女のものになってしまうのよ」
「エミリー、お母さんだけがあなたを一番愛しているの。言うことを聞きなさい」
彼女は聞いた。もちろん聞いた。 だって、母の言うことはいつも正しかったから。
けれどエマは戻ってこようとしない。
エマは家に帰りたくない!伯爵令嬢になりたくない!
「……あの人、本当にバカね!」
エミリーは突然、そばにいたダニエルに言った。
理解できなかった。 どうして何も欲しがらないのか。
彼女が必死に掴み続けてきたものは、エマにとっては最初から必要のないものだった。
「帰れば全部手に入るのに」
ダニエルは一瞬沈黙し、低い声で言った。
「エリアス伯爵は、彼女を連れ帰るようにと――」
「うるさい」
ダニエルは黙った。
「私だって分かってるわよ
でもあの人は帰りたくないって言ってるじゃない!
聞こえなかったの?
私のせいって言いたいの!?
それとも、あなたも彼女に帰ってきてほしいの?」
エミリーは勢いよく顔を向け、手を上げた。
バシッ!
ダニエルの頬に平手打ちが炸裂した。
「ダニエル、あなたは私の召喚獣よ! 誰に従うべきか忘れないで!」
「もちろん、エミリー様です」
ダニエルは顔をそらしたが、避けもせず、言い訳もしなかった。ただ背筋を伸ばし、静かに彼女にそう言った。
エミリーの呼吸は数秒間荒かったが、やがてゆっくりと落ち着いていった。
「行きましょう、ダニエル」
彼女は振り返り、背筋をピンと伸ばし、顎を高く上げた。彼女は相変わらず、あの気高い伯爵令嬢そのものだった。
***
エマは家に帰り、生徒たちからもらった小さなケーキとチョコレートをテーブルに置いた。
彼女は窓辺に座り、海面に映る月明かりを眺めた。
エミリーの到来は、彼女が心の奥底でずっと慎重に守り続けてきた平穏を打ち砕いた。
もう忘れ去ったと思っていた記憶が、ひび割れから溢れ出し始めた。
「……あのことを考えるのは久しぶりだ」
彼女は呟いた。
窓の外の海は沈黙し、答えは返ってこなかった。
召喚魔法小学校……学校祭……
それは一年で最も賑やかな日だった。生徒たちは召喚獣の相棒を連れて、飾り立てられた校内を駆け回っていた。
色とりどりの魔法のランタン、甘いお菓子のかおり、陽気な喧騒……
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