18 仮面のまま、前へ
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魔海での戦いの後、エマは病院で三日間寝たきりだった。
目を覚ました時、最初に目に入ったのは真っ白な天井だ。天井には、魔法で映し出された雲がゆっくり流れていた。
あ、いい天気だね、彼女はぼんやり思った。
次に目に入ったのは、ベッドサイドに置かれた美しい花束だった。
淡い色の花がいくつも重なり合い、柔らかな香りを漂わせている。
誰が置いていったのかは分からない。
エマはゆっくり身体を起こした。
全身が重かった。
だが、痛みは少しだけ和らいでいる。
彼女はそっと花へ顔を寄せ、小さく息を吸った。
……いい匂いだ。
窓の外では、朝の海風が白いカーテンを揺らしていた。
エマはゆっくりと指を動かしてみる。
指先に、かすかな魔力の流れが戻ってきていた。
生きている。
その実感が、少しずつ身体へ染み込んでいく。
エマは静かに目を閉じた。
***
卒業の日。
ディヴァイン大学召喚契約学科の卒業式が講堂で行われた。
エマは学士服を身にまとい、新しい白い仮面を着用していた。古い仮面は魔海で割れてしまったのだ。
彼女は卒業生席の隅に座り、副学長が優秀な卒業生の名前を読み上げるのを静かに聞いていた。
「エマ・エリアス」
彼女の名前が呼ばれると、講堂に拍手が響いた。
それは彼女が単に成績が最も優秀だったからだけではない。
魔海の戦いにおいて、彼女の活躍が救助隊の報告書に記されていたからだ。
「指示がない状況下で、自ら進んで下級生の避難を援護し、閉じ込められた召喚獣を多数救出した。試験を超えた勇気と責任感を示した」
セレナ副校長が表彰の辞を読み終えると、彼女の前に歩み寄り、肩をポンと叩いた。
「エマさん、学校に残ってくれませんか?」
「……え?」
「つまり、講師としてね」
セレナ副校長は微笑んだ。
「もちろん、空間魔法研究室の教授たちも、あなたを迎えたがっていますよ。
あなたほど空間魔法に適性のある学生、久しぶりだもの。彼らはとても興味を持っています」
エマは言葉を失った。
学校に残る?
講師になる?
しかも空間魔法研究室にも入れる?
そんな未来、一度も考えたことがなかった。
五年前、学園祭の入り口に立ち、学生たちを羨ましそうに見つめていた自分。
あの夜、下宿の部屋で一人、合格通知を抱きしめて泣いた自分。
そんな自分が今、「ここに残ってほしい」と言われている。
「私で……いいんですか?」
セレナ先生は「もちろんいいですよ。 あなたさえよければ、ですけど」と答えた。
エマは首を横に振って言った。
「やりたいです。 ここにいたいです。」
卒業式の後、エマは祝賀会には行かなかった。
彼女は一人で海辺へと歩いた。
夕日が海面を金色に染め上げ、波が何度も砂浜を洗っていた。
人のいない海辺で、彼女は手を上げ、指を仮面の縁にかけた。
一瞬ためらった後、彼女は仮面を外した。
海風が彼女の頬を撫で、髪を静かに揺らしていた。
彼女は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。再び目を開けると、その真っ赤な瞳には、夕日と海が映し出されていた。
彼女は海に向かって、微笑んだ。
「私は残るわ」
彼女はそっと呟いた。
「この大学の一部になるの」
この陽光が降り注ぐ場所で、彼女はおそらくずっと、ずっと留まるだろう。
それでも彼女は、まだ人前では仮面を外せなかった。
けれど以前とは違う。
もう彼女は、自分の赤い瞳だけに囚われて生きてはいなかった。
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