16 負けるんじゃねぇぞ!
誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。
学生たちは一瞬ためらった。
混乱の中、一人の男子学生が歯を食いしばって叫ぶ。
「お前ら、先に下がれ!」
彼は傷ついた召喚獣を安全地帯へ運び終えると、振り返って仲間たちへ怒鳴った。
「俺は残る! 小物ぐらいならまだ相手できる!」
「俺も!」
「私の召喚獣もまだ戦える!」
次々と声が上がった。
わずか数秒で、七、八人の学生たちが防衛線を作る。
「君たちは彼らを助けて、そして救助隊を呼んでくれ!」
「じゃあ、頼んだぞ!」
そして、ある者は負傷者を支え、ある者は重傷を負った召喚獣を引きずりながら、必死に安全な場所へと退避し始めた。
残る学生たちも動く。
召喚陣が次々と輝き、召喚獣たちが現れた。
虎獣。
鳥獣。
大型の甲殻獣。
彼らはエマの左右へ展開し、裂け目から這い出る低級魔物を迎え撃つ。
小型魔物は数が多い。
放置すれば、エマの動きを確実に妨害していただろう。
だが今、その群れは学生たちによって押し返されていた。
「こっちは俺たちが抑える!!」
男子学生が叫ぶ。
「お前はあのデカブツに集中しろ!! 負けるんじゃねぇぞ!」
エマは振り返らなかった。
それでも、ちゃんと聞こえていた。
目頭が熱くなったが、すぐに海風に乾かされた。
彼女の目の前には、怒り狂った変異人魚が立っていたが。
彼女の背後には、クラスメートたちの召喚獣が咆哮し、戦っていた。
もう、彼女は一人ではなかった。
エマの空間魔法はまだ不安定だった。
高位の収縮や結界については、理論上は導き出していたものの、実戦で一度も完全に発動させたことはなかった。
彼女は全精神力を指先に集中させると、銀白色の空間の糸が掌から絶え間なく溢れ出した。
細く、鋭く、淡く光る糸は網を張るように人魚の周囲に絡みついていった。
空間が軋む。
裂け目が少しずつ閉じ始める。
そのたびに、エマの魔力は激しく削られていった。
人魚が激怒する。
「ギィィアアアアッ――!!」
巨大な爪が振り下ろされた。
次の瞬間、風刃が轟音と共に海面を切り裂く。
エマは歯を食いしばった。
片手では空間線を維持し続ける。
糸を止めれば、裂け目が再び広がってしまう。
だから止められない。
そしてもう片方の手で、彼女は強引に空間バリアを展開した。
ドォン――!!
透明な障壁が激しく震える。
衝撃波が爆発したように広がり、エマの身体は後方へ吹き飛ばされた。
そのまま岩礁へ叩きつけられる。
「っ……!!」
喉の奥に熱い血が込み上げた。
「大丈夫か?!」
遠くから誰かが叫んだ。
「大丈夫!」
エマは咳き込みながら立ち上がった。口元から流れる血を、乱暴に袖で拭う。
人魚の第二の攻撃がすぐさま襲いかかった。
彼女は再び片手でバリアを張った。今回はバリアがかなり持ちこたえてから砕けたので、なんとか耐えることができた。
そして三回目、四回目は……
障壁は耐え切った後、砕け散る。
エマの魔力が急速に失われていくが、しかし彼女は倒れるわけにはいかない。
彼女の背後にはクラスメートたちがいる。岩礁に閉じ込められた召喚獣たちがいるのだ。
どれほど時間が経ったのか、エマには分からなかった。
海風、悲鳴、轟音。
すべてが混ざり合い、遠くなっていく。
その時――
ザクッ。
鋭い音が響いた。
人魚の爪が、彼女の仮面をかすめたのだ。
白い仮面に亀裂が走る。
半分が砕け、横へずれ落ちた。
エマの呼吸が乱れる。
魔力はもうほとんど残っていない。
腕も足も、岩に擦り切れて血だらけだった。
赤い血が腕を伝い、ぽたり、ぽたりと岩場へ落ちていく。
エマは片膝をついた。
両手をざらついた岩肌へ押し当て、荒い呼吸を繰り返す。
視界がぼやける。
何度も、目の前が暗くなった。
一方で変異人魚の片腕は、空間収縮によって無理やり歪められていた。
骨がねじ曲がり、不自然な方向へ垂れ下がっている。
だが残ったもう片方の腕が、ゆっくりと持ち上がった。
魔力が掌に凝縮して幽緑色の光を放ち、まるで今にも落ちそうな小さな太陽のようだった。
終わりの一撃になるか?
エマは息を切らしながら、それを見上げる。
最後のバリア。
けれどもう、腕を上げる力すら残っていなかった。
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