15 変異人魚
誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。
変異人魚は大きく、大人3人分ほどの体だった。
全身を墨緑色の鱗が覆っており、一枚一枚が手のひらほどの大きさで、夕暮れの光の中で不吉な金属光沢を放っていた。
その鋭い爪は鉤のようで、顔の半分には増殖した骨棘がびっしりと生え、緋色の瞳には狂気の殺意しか宿っていなかった。
変異人魚が片手を振りかざすと、高位の風属性魔法が轟音を立てて放たれ、最も近くにあった試験用の小型魔導船を真っ二つに切り裂いた。
木屑と海水が爆発のように飛び散った。
「きゃあああっ!!」
数人の学生が海へ投げ出され、必死にもがく。
さらに視線を向けた先では、すでに数匹の召喚獣が血溜まりの中に倒れていた。
また岩場の隙間に挟まり、凄まじい悲鳴をあげている召喚獣もいる。
召喚士たちは遠くで泣き叫んでいるが、誰かに引き止められて駆け寄ることができない。
「もうやめろ! 敵わない! こいつは絶対に中級じゃない!」
誰かが大声で叫んだ。
「早く逃げろ!」
「でも……! 私の召喚獣がまだ中にいるの!!」
「……もう手遅れだ! 行ったらお前も死ぬぞ!!」
混乱が広がっていく。
エマは岩陰に立ち、足が震えていた。
彼女の脳内では叫び声が響いていた。
逃げろ。
敵わない。
まともな召喚獣すらいない。
行くべきじゃない。
しかし、足は動かなかった。
彼女の視線は、岩の隙間に閉じ込められた数匹の召喚獣へと向かった。
その中に一匹の猫獣がいた。
灰青色の毛並みで、耳には何かが挟まっているようだったが、血で覆われていてよく見えなかった。
その足は岩に挟まり、必死にもがいており、目には恐怖が満ちていた。
――助けて。
そう叫んでいるように見えた。
なぜか?
本当に、なぜなのか?
エマ自身にも分からなかった。
恐怖は消えていなくて、今でも体は震えている。
それでも、彼女の身体はもう動き出していた。
エマは岩陰から飛び出し、一直線に駆け出した。
***
観測船の内部には、緊張した空気が張り詰めていた。
「学生が突撃したぞ」
一人の観測員が声を上げた。
モノクルの男が水晶スクリーンの画面に顔を近づけた。
画面には白い仮面を被った小柄な少女が、側面から変異した人魚へと急速に接近している様子が映っていた。
「あの学生……召喚獣は?」
「確認できません。 彼女からは一人分の魔力波動しか感じられない」
「正気じゃない」
別の観測員が首を横に振った。
「すぐに救援隊に待機を伝えろ」
だがモノクルの男は手を上げて制止した。
「……いや、もう少し待て」
「何を待つんだ? あれは少なくともA級の――」
「彼女の魔力を見てくれ」
モノクルの男は目を細めた。
「あれは普通の攻撃魔法じゃない」
スクリーンの中で、エマの指先に銀白色の光が灯った。
「……空間魔法? これほど純粋な空間魔法が?」
誰かが息を呑んだ。
***
「おい! 仮面のやつ!!」
背後から誰かが彼女を呼んだが、エマは振り返らなかった。彼女の意識はすべて、変異人魚へ集中している。
夕暮れの海風が髪を揺らす。
人魚が別の学生へ狙いを向けた、その瞬間エマは魔力を一気に解放した。
銀白色の光が指先で炸裂し、細い空間の糸が無数に広がった。まるで透明な蜘蛛の巣のように。
その糸は裂け目の周囲へ絡みつき、歪んだ空間そのものを強引に圧縮していく。
空間収縮魔法。
裂け目に半身を挟まれていた人魚の身体が、凄まじい圧力に押し潰される。
墨緑色の血液が噴き出した。
血は海面へ落ちた瞬間、ジュウッと腐食音を立てる。
「ギィイイイイイイイッ――!!」
人魚の絶叫が海域全体を震わせた。
近くにいる数人の学生と召喚獣たちは苦しげに地面に倒れ込んだ。
変異人魚は猛然と振り返り、緋色の瞳が真っ直ぐエマを捉えた。
エマの背筋を冷たいものが走る。
怖い!
本能が警告していた。
逃げろ、と。
だが、それでも彼女の頭にあったのは、ただ一つだけだった。
――せめて、みんなだけでも逃がさないと。
「逃げて!!」
エマは振り返らずに叫んだ。
「早く!」
「で、でも――」
「早く! 私もどこまで持つかわからない!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
評価や感想、ブックマークなどいただけると、とても励みになります!
明日も更新予定ですので、また読みに来ていただけると嬉しいです!




