【2章 聖女降臨】◇1
短編として公開していた本作ですが、このたび連載版として再始動いたしました。
最終話まで執筆済みですので、完結まで定期的にお届けします。
第1章(王宮の追放):短編版と同一の内容です。
第2章(聖女降臨):ここからが連載版独自の続編展開となります。
引き続き、物語をお楽しみいただければ幸いです。
※5/7から1日3話更新、5/17完結予定です(6時、12時、18時)。
短編: https://ncode.syosetu.com/n7883md/
◇1
翌朝、わたしが朝日の光で目覚めると、ベッドの隣には、昨日からお世話をしてくれている、赤毛で顔にうっすらそばかすのあるシスターがいた。
年齢は二十二歳ぐらいに見えるけど、落ち着いた所作からは、もしかするとずっと歳上なのかも知れない。
(怖くて、あまり寝れなかった……もう大丈夫のはずって、頭の片隅では分かっていたけど、また誰か来たらどうしようって思ってしまって寝れなかった……)
「おはようございます。ごめんなさい。あなたのお名前は? ご家族はどうされているの? ずっと教会に?」
「私の名前はエリーゼと言います。孤児の頃に教会に拾っていただいて、ここが家族のようなものです。昨晩はあまり眠れなかったようですね」
「ご、ごめんなさい。疑ってるわけじゃないんです。ただ、突然、襲われたことがあまりに怖くて……まだ心が落ち着かなくて……」
「大丈夫ですよ。昨夜は不快な思いをされたかもしれませんが、それを言葉で取り繕うなんて本来できないことです。ただ、今は1つだけ、王宮に着くまでは、古代語で『異世界人の聖女』ということにしてください。これは、あなたの身を保護するためです。」
「そ、そんな。何が何だか……どうして異世界人の聖女と呼ぶの。エリーゼさん」
「も、申し訳ありません、私が聖女降臨の儀のことを説明するのは禁じられております。今はただ、そうしておくことが一番、安全なのです。それから、どうか私のことは単にエリーゼ、と呼び捨てにしてください」
「分かったわエリーゼ、でもわたしには名前があるんです、カリナと言います」
「――っ! お名前のことは私は聞かなかったことにいたします。騎士様に会われたら、今はまだ、ご理解が及ばないと思いますが、『異世界人の聖女だから何も分からない』とおっしゃってください」
わたしは、自分が着ていた服が、部屋の隅に畳んでおいてあるのを見た。シスター・エリーゼは、涙ぐみながら、わたしの手をそっと両手を重ねた。
「まだ心の傷が癒えてなくてお辛いと思います。本当に申し訳ありません……きっと全ては良くなりますから」
「えっ! わ、分かったわ。そんな泣かないで、大丈夫よ、エリーゼ。わたしは小心者なの。だから、泣かれてしまうと、どうしたらいいわ分からなくて、心が苦しくなるわ」
「ありがとうございます。それは高潔な精神と言うのです。あなたはお優しい方なのですね。『異世界の聖女様』」
エリーゼも本気で異世界人ではないと理解してるみたいだけど、どうして私が異世界の聖女様なのだろう?
「ねえ、エリーゼ。あの黒い服はどうしたら――」
「ああ、お話の途中で申し訳ありません、カリナ様。これから王宮に向かって凱旋のお時間です。決して民衆の呼びかけにみだりに反応しないでください。これは、シスターである私エリーゼとして身を案じての、お願いです」
「ありがとうございます。分かりました」
エリーゼはそういってわたしに、そっと白いローブを着せて、それからローブについているフードをわたしに被せた。部屋に置いてある立ち鏡で、自分の姿をみると、フードによって素顔は隠され、口元しか見えない白い女性の姿がそこにはあった。
(きっとこのフードはエリーゼの心遣いね。わたしがまだ他の人が怖いという気持ちを察して着けてくれたのね。ありがとう……)
エリーゼに手を引かれて外へ出る。
外は冬にしては暖かい天気の良い晴れの日だった。
王都中にある教会の鐘が鳴っている音がする。
「さあ、あの白い馬車に乗ってください。馬車にはガヤルド大司祭も乗っておられます。お二人で、王都内をこれから凱旋です。大丈夫ですよ、騎士様もおられますし、フードを被っていれば誰にも顔は見えませんから聖女様」
わたしはうなずいて、馬車に向かうと、馬車の前には、白銀の騎士様が膝をついて騎士の敬礼で挨拶をしてくださった。
わたしは騎士の手を取り、騎士に呼びかける。
「こんにちは氷の騎士様、ええっと、『わたしは異世界人の聖女だから、難しいことは分からない』」
「――っ!、聖女様、お会いできて光栄です。『君を見捨てはしない』」
(ふふっ、フードなんてかけていても古代語でわたしのことが分かるのね。やっぱりこの声はウラカン閣下だわ)
わたしの沈んでいた心はふっと明るくなった。
また会えた、ウラカン閣下に。
どうしてこうなったかは分からないけど、何だかとっても嬉しい。
(もしかしたら、わたしは、この世界で一人ぼっちじゃないのかも知れない)
騎士様に手を引かれて馬車に乗り込んだ。馬車の中には大司祭の方がおられた。
きっと、この方がガヤルド大司祭なのだろう。
馬車の中では、ガヤルド大司祭と向かい合うようにして、騎士様の隣にわたしは座った。
馬車はゆっくり進みはじめた。教会の鐘の音と共に。
人々が路上に出て手を振っている。
どうしたらいいのか分からないし、緊張したわたしはただ横目で窓の外を見る。
「聖女様ーーー万歳ーーー!」
「異世界の聖女様、この国をお救いください!」
「辺境の地バレンシアの復興を!」
窓の外から様々な声が聞こえる、わたしはそんな、本当の聖女じゃないのに、こんなことを言われてどうしようと、身がすくむ思いがする。怖い。
わたしが手を震わせていると、そっと優しく騎士様が震える手に大きくてがっしりとした手を重ねてくれて、頼もしく感じられる。
「ごめんなさい。人混みの声を聞くと、まだ足がすくんでしまって……」
「もう大丈夫だ。今は『異世界の聖女様』なんだろう?」
悪戯っぽく微笑むウラカン閣下の横顔に、わたしは思わずフードの端を握った。
「やっぱり、覚えていてくださったのですね。わたしの名前」
「忘れるわけがないさ。あんなに派手にグラスを割って、女王になりきっていた君を。……あの銀髪も、透き通った声も、可愛いウソも、最初から俺の目に焼き付いている」
ウラカン閣下は楽しそうに、夜会の騒動を「あの時は大物女優だったね」とおどけて見せた。
(そっか……わたしの緊張を解こうとしてくださっているのね)
彼の余裕たっぷりの笑顔に触れていると、体中を刺すように襲いかかっていた恐怖心が、少しずつ穏やかな安心感に変わっていくのが分かる。
「それにしても、この『異世界人の聖女』という嘘……エリーゼさんは、なぜあんなことを」
「ああ、すまない。それは俺が頼んだウソなんだ。君の身の安全を最優先にするために、教会には少しばかり無理を言わせてもらったよ」
「ええ……閣下はウソが嫌いな方聞かされたことがあるんですよ。だから、婚約破棄をお伝えする時だって、わたし、とっても緊張したのに……」
「ははは、そうだね。嫌いな奴にウソをつかれるのは大嫌いだよ。でも誰かを傷つけたくない優しいウソは仕方がないだろう? 俺は合理的なことが好きなんだ」
「どうして……。わたしのために、そこまで――」
お読みいただきありがとうございます。
もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマークや評価、いいね等で応援いただけますと、執筆の大きな励みになります。
特に、皆様からのポイントが、物語を完結まで届ける原動力です。
どうぞよろしくお願いいたします。




