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令嬢ではない侍女ですが婚約破棄相手に溺愛されました(連載版)  作者: 灰月 琥珀
【2章 聖女降臨】

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8/21

【2章 聖女降臨】◇1

短編として公開していた本作ですが、このたび連載版として再始動いたしました。

最終話まで執筆済みですので、完結まで定期的にお届けします。

第1章(王宮の追放):短編版と同一の内容です。

第2章(聖女降臨):ここからが連載版独自の続編展開となります。

引き続き、物語をお楽しみいただければ幸いです。

※5/7から1日3話更新、5/17完結予定です(6時、12時、18時)。

短編: https://ncode.syosetu.com/n7883md/

    ◇1


 翌朝(よくあさ)、わたしが朝日の光で目覚めると、ベッドの(となり)には、昨日からお世話をしてくれている、赤毛で顔にうっすらそばかすのあるシスターがいた。

 年齢(ねんれい)は二十二(さい)ぐらいに見えるけど、落ち着いた所作からは、もしかするとずっと歳上(としうえ)なのかも知れない。


(怖くて、あまり寝れなかった……もう大丈夫のはずって、頭の片隅(かたすみ)では分かっていたけど、また(だれ)か来たらどうしようって思ってしまって寝れなかった……)


「おはようございます。ごめんなさい。あなたのお名前は? ご家族はどうされているの? ずっと教会に?」

「私の名前はエリーゼと言います。孤児(こじ)の頃に教会に拾っていただいて、ここが家族のようなものです。昨晩はあまり眠れなかったようですね」

「ご、ごめんなさい。疑ってるわけじゃないんです。ただ、突然(とつぜん)、襲われたことがあまりに怖くて……まだ心が落ち着かなくて……」

「大丈夫ですよ。昨夜は不快(ふかい)な思いをされたかもしれませんが、それを言葉で取り(つくろ)うなんて本来できないことです。ただ、今は1つだけ、王宮に着くまでは、古代語で『異世界人の聖女』ということにしてください。これは、あなたの身を保護(ほご)するためです。」

「そ、そんな。何が何だか……どうして異世界人の聖女と呼ぶの。エリーゼさん」

「も、申し訳ありません、私が聖女降臨(こうりん)()のことを説明するのは禁じられております。今はただ、そうしておくことが一番、安全なのです。それから、どうか私のことは単にエリーゼ、と呼び捨てにしてください」

「分かったわエリーゼ、でもわたしには名前があるんです、カリナと言います」

「――っ! お名前のことは私は聞かなかったことにいたします。騎士(きし)様に会われたら、今はまだ、ご理解が(およ)ばないと思いますが、『異世界人の聖女だから何も分からない』とおっしゃってください」


 わたしは、自分が着ていた服が、部屋の(すみ)(たた)んでおいてあるのを見た。シスター・エリーゼは、涙ぐみながら、わたしの手をそっと両手を重ねた。


「まだ心の傷が()えてなくてお辛いと思います。本当に申し訳ありません……きっと全ては良くなりますから」

「えっ! わ、分かったわ。そんな泣かないで、大丈夫よ、エリーゼ。わたしは小心者なの。だから、泣かれてしまうと、どうしたらいいわ分からなくて、心が苦しくなるわ」

「ありがとうございます。それは高潔(こうけつ)な精神と言うのです。あなたはお優しい方なのですね。『異世界の聖女様』」


 エリーゼも本気で異世界人ではないと理解してるみたいだけど、どうして私が異世界の聖女様なのだろう?


「ねえ、エリーゼ。あの黒い服はどうしたら――」

「ああ、お話の途中(とちゅう)で申し訳ありません、カリナ様。これから王宮に向かって凱旋(がいせん)のお時間です。決して民衆の呼びかけにみだりに反応(はんのう)しないでください。これは、シスターである私エリーゼとして身を案じての、お願いです」

「ありがとうございます。分かりました」


 エリーゼはそういってわたしに、そっと白いローブを着せて、それからローブについているフードをわたしに(かぶ)せた。部屋に置いてある立ち鏡で、自分の姿をみると、フードによって素顔(すがお)は隠され、口元しか見えない白い女性の姿がそこにはあった。


(きっとこのフードはエリーゼの心遣(こころづか)いね。わたしがまだ他の人が怖いという気持ちを察して着けてくれたのね。ありがとう……)


 エリーゼに手を引かれて外へ出る。

 外は冬にしては暖かい天気の良い晴れの日だった。

 王都中にある教会の(かね)が鳴っている音がする。


「さあ、あの白い馬車に乗ってください。馬車にはガヤルド大司祭も乗っておられます。お二人で、王都内をこれから凱旋(がいせん)です。大丈夫ですよ、騎士(きし)様もおられますし、フードを(かぶ)っていれば(だれ)にも顔は見えませんから聖女様」


 わたしはうなずいて、馬車に向かうと、馬車の前には、白銀の騎士(きし)様が(ひざ)をついて騎士(きし)の敬礼で挨拶(あいさつ)をしてくださった。


 わたしは騎士(きし)の手を取り、騎士(きし)に呼びかける。


「こんにちは氷の騎士(きし)様、ええっと、『わたしは異世界人の聖女だから、難しいことは分からない』」

「――っ!、聖女様、お会いできて光栄です。『君を見捨てはしない』」


(ふふっ、フードなんてかけていても古代語でわたしのことが分かるのね。やっぱりこの声はウラカン閣下(かっか)だわ)


 わたしの(しず)んでいた心はふっと明るくなった。

 また会えた、ウラカン閣下(かっか)に。

 どうしてこうなったかは分からないけど、何だかとっても(うれ)しい。


(もしかしたら、わたしは、この世界で一人ぼっちじゃないのかも知れない)


 騎士(きし)様に手を引かれて馬車に乗り込んだ。馬車の中には大司祭の方がおられた。

 きっと、この方がガヤルド大司祭なのだろう。

 馬車の中では、ガヤルド大司祭と向かい合うようにして、騎士(きし)様の(となり)にわたしは座った。


 馬車はゆっくり進みはじめた。教会の(かね)の音と共に。

 人々が路上に出て手を()っている。

 どうしたらいいのか分からないし、緊張(きんちょう)したわたしはただ横目で窓の外を見る。


「聖女様ーーー万歳(ばんざい)ーーー!」

「異世界の聖女様、この国をお(すく)いください!」

辺境(へんきょう)の地バレンシアの復興(ふっこう)を!」


 窓の外から様々な声が聞こえる、わたしはそんな、本当の聖女じゃないのに、こんなことを言われてどうしようと、身がすくむ思いがする。怖い。

 わたしが手を(ふる)わせていると、そっと優しく騎士(きし)様が(ふる)える手に大きくてがっしりとした手を重ねてくれて、(たの)もしく感じられる。


「ごめんなさい。人混(ひとごみ)みの声を聞くと、まだ足がすくんでしまって……」

「もう大丈夫だ。今は『異世界の聖女様』なんだろう?」

 悪戯(いたずら)っぽく微笑むウラカン閣下(かっか)の横顔に、わたしは思わずフードの(はし)(にぎ)った。

「やっぱり、覚えていてくださったのですね。わたしの名前」

「忘れるわけがないさ。あんなに派手にグラスを割って、女王になりきっていた君を。……あの銀髪も、()き通った声も、可愛(かわい)いウソも、最初から俺の目に焼き付いている」


 ウラカン閣下(かっか)は楽しそうに、夜会の騒動を「あの時は大物女優だったね」とおどけて見せた。


(そっか……わたしの緊張(きんちょう)()こうとしてくださっているのね)


 彼の余裕(よゆう)たっぷりの笑顔に触れていると、体中を()すように襲いかかっていた恐怖心が、少しずつ(おだ)やかな安心感に変わっていくのが分かる。


「それにしても、この『異世界人の聖女』という(うそ)……エリーゼさんは、なぜあんなことを」

「ああ、すまない。それは俺が(たの)んだウソなんだ。君の身の安全を最優先にするために、教会には少しばかり無理を言わせてもらったよ」

「ええ……閣下(かっか)はウソが(きら)いな方聞かされたことがあるんですよ。だから、婚約破棄(はき)をお伝えする時だって、わたし、とっても緊張(きんちょう)したのに……」

「ははは、そうだね。(きら)いな奴にウソをつかれるのは大(きら)いだよ。でも(だれ)かを傷つけたくない優しいウソは仕方がないだろう? 俺は合理的なことが好きなんだ」

「どうして……。わたしのために、そこまで――」

お読みいただきありがとうございます。

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特に、皆様からのポイントが、物語を完結まで届ける原動力です。

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