【1章 王宮追放】◇7
◇7
わたしが目を覚ますと、魔方陣の中に横たわっていた。
(えっ、何? ここはどこ? 神殿?)
突然のことで訳がわからない。
わたしは川の橋のたもとで暴漢に襲われてそこから光に包まれて――
どうして、こんなところに?
「国庫……粉飾……隠蔽……どうしてこうなった。やはり、強引な召喚の詠唱を行い続けたことが原因なのか?」
「どうしましょう。もうこの魔方陣での召喚魔法は使えません、ガヤルド大司祭。聖女降臨の儀が、今さら失敗しましたと申し開きを」
「不可能だ、今さら、失敗など言えない」
大司祭様と教会員の方たちが言い争いをしている。
「ここは……」
わたしが、恐怖で震えていた。
何が起きているのか分からない。
起き上がろうとすると、司祭様のような男性の方が駆け寄ってくる。
「あぁ、目覚めてしまった」
「来ないでください、いやっ、わたしに触らないで――」
何が何だか分からない。
「落ち着いてください。ここはマラネロ教会の大聖堂の地下にある大神殿です」
「教会? どういうこと? わたしはどうなっているの?」
「混乱されるのも、無理はない。それに酷い傷だ。安心してください、私たち教会はあなたを保護します。まずは温かい湯浴みと、治癒魔法で怪我を治しましょう」
「なぜわたしを助けてくださるのですか……?」
「いえ、助けていただくのは我々のほうです。今は混乱されてらっしゃるでしょうから、ゆっくり落ち着いてお休みください」
それから、わたしは湯浴みをさせられ、殴打され腫れていた頬も、割れた爪も、治癒魔法で治してもらい、純白の綺麗なワンピースを着せてもらって、わけも分からないまま、ふかふかのソファーと大きなベッドのついた客間へと案内された。
わたしは隣にいる赤毛のシスターに気になることを質問した。
「あの……おいしい夕食をありがとうございました。パンに温かいスープ……まだ男の人が怖くてあまり食べられなくてごめんなさい。」
「大変な思いをされましたね、無理して食べられなくて大丈夫ですよ」
「ごめんなさい、まだ恐怖で食事が喉を通らなくて。それに、どうして、わたしは神殿にいたのでしょうか」
「そのことを詳しく私から説明することは禁じられているのです。申し訳ありません。聖女さま」
「聖女……え、わたしが?」
「あまり気になさらずに……おやすみなさいませ、明日になれば大丈夫です。明日になれば、氷の騎士様がお見えになりますから」
(氷の騎士……ウラカン閣下が来られるの?)
「今夜は転移魔法や暴漢のことでお疲れだったでしょう。治癒魔法で怪我は治せても、心の安寧を得るには時間がかかるものです。それでは、また明日……」
「ええ、ありがとう。また明日……おやすみなさい」
1日の間でたくさんのことがあった。
たくさんのことがありすぎて、まだ心の整理が追いつかない。
まだ目を閉じると、また誰かに襲われるのじゃないかと怖くなる。
もうきっと、わたしには失うものもないのだから、これ以上のどん底なんてないのに、どうして怖いのだろう。
(これ以上、失うものなんてないのに、わたし、何に怯えているんだろう)
ふっと、ウラカン閣下の言葉を思い出した。あの夜に聞いた言葉。
(確か……大丈夫だよ、カリナ。『君を見捨てはしない』。さあ、もう、うつむくのはやめて顔をあげてごらん。せっかくの顔が台無しだよ、だったかなあ)
あの日の夜を思い浮かべると、少しだけ、ふふっと、口元に笑みが浮かぶ。
わたしは、きっと明日は良い日になる。
そう信じて寝ることにした。
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