【1章 王宮追放】◇6
◇6
善良そうで貴族らしい身なりの整った役人らしい方が近づいてくる。
「行く当てがなくて……」
「ほう、では宿に案内しましょう。ついてきなさい」
「ありがとうございます」
「靴はないのですか、裸足とは? いったいどうしたのです?」
「い、いろいろありまして……」
「ほう……」
一瞬、男性が不穏な笑みを浮かべた気がして、びくっとわたしは体を強張らせた。これは、見たことのある顔だ。
(優しいふりをしてわたしを虐めてきた上級侍女の人たちと同じような嫌な顔をしている。この人は危ない予感がする……!)
わたしはついていくのをやめて、立ち止まって首を振った。
「あの、わたしは一人で教会に向かうところですから、どうぞお構いなく」
「教会? 宿においでなさい。宿で一晩お休みすればきっといいことありますよ」
「いや、やめ――」
私は男の人に突然に口を塞がれ、押し倒されそうになる。
男の顔つきが変わった。
「静かに、人が気づいてしまうといけない。騒ぐなよ。シーッ」
腕を掴まれそうになり、慌てて近くの川と反対側の方へと逃げようとする。
それでも、悪びれた様子もなく歩いて追いかけてくる。
わたしは走ろうとしたけど、怖くて足すくんで、そのまま足がもつれて転んでしまった
すると、笑いながら男は近づいて駆け寄ってきて、そして、わたしの肩を乱暴に掴むと、そのまま草むらへ連れて行って押し倒そうとする。
「おい女、逃げるなよ。今から可愛がってやるよ。」
「やっ、やだー!」
わたしが声をあげても誰も周りに人はいない。
きっとこのまま誰も気付いてくれない。
何が起こるかと考えると……わたしは背筋が凍る思いがした。
わたしの力じゃ抵抗しても逃げられない、痛い、怖い。
わたしは瞳いっぱいに涙をためながらも、せいいっぱい声を上げた。
「やだっ、お願い、もうやめてっ」
こんな姿を見られたら、通行人に自分は淫乱だと、淫らな女だと思われるのだろうか。そんなの悔しいし、とても悲しい。
今のわたしは裸足で、服だって破れている。
もしかして、商売でこんなことをしているのだと思われるのだろうか。
(こんなの嫌だ、触れられる手が、とにかく気持ち悪い。今すぐ逃げたい)
怖くて悔しくて、思わず涙がこぼれそう。
手首を太い手で強引に押さえられて、恐怖心のあまり仕方なく震えた声で泣きそうになりがら叫んだ。
涙がこぼれて顔がぐしゃぐしゃになりながら、どうすればいいのかと、答えのない答えを探して思考をぐるぐるさせた。
頭の中でウラカン閣下のことが頭に浮かんだ。
『カリナ。本当の君が知りたい、どうしたら君に会えるかな?』
あの夜、ウラカン閣下と話した時の言葉が思い出される。
(ウラカン閣下、もしおられたら、助けてください。わたしを見捨てないで……)
そのとき、わたしの体全体が白く光り輝きはじめた。
(えっ、これは何なの? 何かの魔法なの……?)
「あっ! 加護の魔法か何か仕込んでやがったのか!? ちっ……」
わたしに覆い被さろうとしていた男はそのまま慌てて立ち上がり、背を向けて、転びそうになりながら走って逃げていく。
(良かった、何が起きたか分からないけど、助かった……本当に良かった……)
雑草と土まみれになった背中の痛みをこらえながら体を起こし、わたしは高鳴る心臓をおさえ、涙ぐみながら呼吸を整えようとしゃがみ込んでいると、視界がだんだん暗くなり、そのまま意識が薄れていった……。
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