【2章 聖女降臨】◇8
◇8
あっという間に夕食の時間になり、侍女頭のナターシャさんが部屋にやってきた。
「カリナ様、素敵なナイトドレスをお披露目する時間でございます。きっと旦那様もお喜びになるでしょう。本日は古城の最上階のテラスで、と旦那様がおっしゃっています」
「この新館ではなくて、あの大切なお城の最上階……?」
「見晴らしが素晴らしいのですよ。さあ、こちらです」
ナターシャさんに先導されてたどり着いた古城の最上階は、まさに絶景だった。
「まあ、なんて素敵なの……すごい、夢の世界みたい……」
「ここは深い青色のクロード海を眼下に、白亜の港町の街明かりが海面にゆれる、当家自慢の場所でございます。どうぞご堪能ください」
ナターシャさんが静かに頭を下げて去っていく。
わたしはテラスの手すりに掴まりながら、思わず息を呑むような絶景に見入ってしまった。
そこへ、規則正しい靴の音が近づいてくる。視線を向けると――
「カリナ、とても綺麗だ。そのドレスは最高だし、イヤリングも似合ってるよ」
そこには、二本のグラスを手にしたウラカン様が立っていた。
吹き上がってくる潮風を受けて、ふわりと膨らむ白いシャツ。その生地は彼の鍛え上げられたしなやかな体つきを、露骨すぎず、けれど確かに魅力的に引き立てている。
日の沈みかけた光の中で、白く輝くその姿はあまりに眩しくて、見つめているだけでこちらの目が灼けてしまいそうだ。
(やばいやばい、格好良すぎでしょ、ウラカン様……!)
わたしの視線の先には、クロード海の深い青を背景に、手すりに軽く肘を置いて微笑むウラカン様。
自分の顔がかあぁっと熱くなるのを感じて、丁寧に結い上げられたばかりの髪の毛先を指先でいじりながら、もじもじと視線を泳がせてしまう。
(もー! こんな絶景を独り占めして、さらに最高の美形に褒められちゃうなんて、一体どうしたらいいの!?)
「ウラカン様、素敵な場所での夕食、わたし……とても、うれしいです」
(あー、普通のことしか言えない! わたしの語彙力~!)
自分の語彙力のなさに消えてしまいたくなるほど恥ずかしくなって、つい、いつものクセで、下へうつむきそうになると、温かくて優しいウラカン様の手がわたしの頬にそっと触れてくる。
(きゃー! ごめんなさい、わたし、こんな時に何て言えばいいか分からないんです……!)
「これで、俺の願いは少し叶ったかな。『本当の君に会いたい』。ようやく、君らしい姿を目にできた気がするよ」
「そんな、わたしなんて、こんな姿、初めてです……『あなたと出会えて本当にうれしいです』」
「うん、相変わらず流ちょうな古代語だね。……さあ、過去のことなんて忘れようぜ。今日が日常の当たり前になる、そんな新しい生活を楽しめばいいじゃないか」
「ウラカン様……」
そのあと、頬にキスをされそうになって、心臓がどうにかなりそうなぐらい死んじゃうかと思ったので、「まだ無理です! 死んじゃいます!」と壊滅的な語彙力で泣きついて許してもらった。
ウラカン様! こんなの、わたし死んじゃいます!
わたしのアワアワした姿を見て、悪戯っぽくウラカン様は笑いながら「また今度にしようね」と言ってくださった。助かった……。
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