【2章 聖女降臨】◇7
◇7
わたしの肩の力が抜けたのを見計らったように、「失礼します」と部屋のドアが開いてウラカン様の屋敷にいる侍女の方々がぞろぞろとやってきて、わたしの採寸をはじめる。
「カリナ様、湯浴みの準備ができております。さあ、こちらへ」
侍女の一人がわたしをバスルームへ案内してくれる。
部屋の一室と思ったら巨大な別邸がまるごと巨大なバスルームになっていて、わたしはウラカン様の財力と圧倒的な豪華スケールの違いを、ひしひしと感じながら、中に入ると、そこには四名の湯浴み専門の侍女たちが待っていた。
「さあカリナ様、これは世界でも一年に限られた王侯貴族しか手にすることのできない天然の岩塩です。これで、疲れが癒やされるとともに血行もよくなって、肌のツヤが出ますよ」
「この香油はシオネラ山脈にだけ生える高山植物から抽出した希少な薬液が入っています。王族でもこれを手にすることは珍しいんですよ」
「この石鹸は別名、天女の羽衣という名前がついており、遠い砂漠をこえたアクレシア帝国からウラカン様だけに特別に献納されている特別なものです。泡立ちがよくて美白効果もばっちりです」
湯浴み専門の侍女達が次々と聞いたことも見たこともない高級なバスルーム品を手に、効果効能を述べてくれるが、正直なにが凄いのかさえもう理解できないわたし。
「こ、こんなに良くしてもらっていいんですか?」
「いーえ、カリナ様。今日は緊急のご来客ということで、間に合わせの品々なんです。本当はもっと最高の逸品をご提供したかったのですが、取り寄せるのに船舶では時間が足りなくて……」
湯浴み専門の侍女の一人が申し訳なさそうにおっしゃるけど、想像を超えていて、もうわたしは、口をポカンと開けることしかできない。
人って、理解と想像の限界を超えると、言葉を失うって、本当なんだ……。
そこからわたしは、湯浴みを終えて、聞いたことがない高級すぎる絹の生地や、見たことのない世界中から集められた品々の貴金属を見せられ、「どれがお好きですか?」と聞かれるも、「分かりません」という田舎娘の返事しかできなくて、皆さんを困らせてしまった。
「カリナ様の心を射止める逸品をご用意できなくて、申し訳ありません」
侍女頭ナターシャさんが代表してわたしに謝罪にくる。
(待って、違う。違うのよ! そうじゃないわ。わたしが理解したのは、ウラカン様にとっての日常は、世界にとっての一生に一度に匹敵する奇跡が、起こり続けてどうすればいいか分からないということよ!!!)
結局、ウラカン様のアイスブルーの瞳にあやかって、水色の宝石や洋服を選ぶと、「白銀の髪と琥珀の瞳に合わせられて最高の色彩センスをお持ちですね。流石でございます」と頭を下げられて、どうしたらいいか分からず、わたしはただ、半笑いで頭を下げることしかできなかった。
「貴族達が目の色を変えて欲しがる世俗の宝物の品々に平然としている……さすが、高潔な精神をお持ちですね、聖女カリナ様。フフフ……」
わたしの容姿を半目で見ていたエリーゼは、目が真っ白になっているわたしを悪戯っぽい笑顔でにやにやしながら、そうささやいた。
(あ、エリーゼのちょっと意地悪なところ、ウラカン様と本当の姉弟みたいで、なんだか、そっくりだわ。あははっ)
また緊張で張り詰めそうになったわたしは、エリーゼのおかげで開き直って笑顔で豪華な洋服と、真っ白で綺麗にしてもらった素肌を素直に堪能して、喜ぶ気持ちになれた。
ありがとう、エリーゼ。そして、ウラカン様。
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