表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令嬢ではない侍女ですが婚約破棄相手に溺愛されました(連載版)  作者: 灰月 琥珀
【2章 聖女降臨】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/41

【2章 聖女降臨】◇6

    ◇6


 え? 涙でぐしゃぐしゃになっている視界で地面をみつめていたわたしに(なつ)かしい声がしたので、見上げると上級シスター・エリーゼが側に立っていた。


「ウラカン様、ダメですよ、カリナ様がびっくりされています。さあ、大丈夫ですよ、カリナ様。ウラカン様はあなたをオモチャにしたりするような心の冷たい方ではありません。あの方は、単にちょっと心が鈍感(どんかん)なだけです」

「ど、鈍感(どんかん)とはなんだ、エリーゼ! 俺はちゃんとエリーゼのことを思っている。そのことで思い上がったりはしていない!」


 ウラカン様がエリーゼの毒舌(どくぜつ)に反論する。

 わたしは二人のやり取りにおろおろしながら、涙でぐしゃぐしゃな顔をハンカチで()きながら、しゃくり上げるような嗚咽(おえつ)をどうにかしようとしていた。


「エリーゼ、ウラカン様、そんな喧嘩(けんか)しないで……ひっく、ひっく」


 わたしは泣き虫なのだ。すぐに泣いてしまう。ああ、情けない、自分をウラカン様と比較(ひかく)して(おび)えてしまって出たこの恥ずかしい涙と嗚咽(おえつ)が止まらない。


「カリナ様、ご安心ください。ウラカン様は孤児院(こじいん)の出身である私を差別したり見下したことは一度もありません。きっとあなたとも対等な関係を望む方です。少し強引な時がありますが」

「そ、そうなんですね……ひっく」


 わたしは少し心が落ち着いてきた。エリーゼがいると心がほっとする。


「強引だなんて……いや、エリーゼ、仮にも俺はカリナの護衛騎士(ごえいきし)となった辺境伯(へんきょうはく)だぜ? これぐらいのペースでも悪くないだろう?」


 ウラカン様は(ほお)を不満そうに(ふく)らませている。あ、可愛(かわい)い。

 エリーゼは半目で、ウラカン様の足を、ぎゅっとふんだ。


「あ! いっ――」

 

 ウラカン様が大きく目を見開く。


(ええ! 足()まれちゃった、大丈夫ですか、ウラカン様!)


 泣くのを忘れてわたしはウラカン様をどうにかしようとオロオロしてしまう。


「これは、カリナ様を泣かせたお仕置きです。どうせ口で言っても屁理屈(へりくつ)をこねて威張(いば)るだけなんですから。ウラカン様は(おどろ)かせてカリナ様を泣かせてしまったりするようでは、護衛騎士失格(ごえいきししっかく)です。先に屋敷(やしき)に入りましょう、カリナ様」

「え? え? でも、ウラカン様を置いては……」

「いえいえ。足を()まれたぐらいで騎士(きし)が死んだりしませんよ、これで、乙女の涙の重みを少しは考えればいいんです。それよりカリナ様は、お召しものを()えましょう。ウラカン様がちょっと怖かったですよね? もう大丈夫ですよ~」


 苦笑しているウラカン様をすっと通り()ぎて、エリーゼは私の手を引いてそのまま屋敷(やしき)に向かう。わたしは「ごめんなさい!」とウラカン様に謝罪(しゃざい)しながら、そのままエリーゼに手を引かれて屋敷(やしき)に入った。


(うわ、豪華(ごうか)なシャンデリア……なにこれ……)


 天井を見上げて、わたしは唖然(あぜん)としてしまう。

 こんな豪華(ごうか)なシャンデリア、王宮でも見たことがない。


「いいですか、カリナ様。ウラカン様は雲の上にいるような神様ではありません」

「え、そんなウラカン様は、だって……」


 手を引かれながら階段を上がっていく。

 エリーゼはこの屋敷(やしき)の作りをどうやら熟知しているみたい。


「さあ、ここが、今日のお部屋です、さあどうぞ」

「え、でもウラカン様が……」

「女性の部屋を男性が(のぞ)き見るような真似(まね)できる訳ないじゃないですか。ここにも侍女やメイドもいますけど、カリナ様が緊張(きんちょう)するでしょうから、人払いを私がすませておきました。大丈夫です、その方が落ち着くでしょう?」

「も、申し訳ありません。小心者で……助かります……」

「そんなに小さく縮こまらなくても大丈夫ですよ。そのへんの(つぼ)を一つや二つ割ったって、ウィンターガルド家の財政(ざいせい)()らぎません、試しに――」


 そういって、まるで、女王陛下(へいか)にわたしが身代わりの魔法でなりすました時に、グラスを割っていた時のような仕草で、部屋の(すみ)にある(つぼ)(ざつ)に落とそうとエリーゼが触れる。ぐらっと、(つぼ)()れる。


「え? わ、わーーーー!!!!ダメです!エリーゼ、やめて!」

「冗談です。この(つぼ)を割ったら教会が一つ消し飛びます」

「笑えないわよ……エリーゼ、あなた、そんな人だったの」

「一緒にメソメソ、ウジウジしてあげるほうが好きですか?」


 (つぼ)をもとの位置にそっと戻しながら、無表情で淡々(たんたん)とエリーゼが返す。

 その言葉は重くわたしの胸にグサッと深く()()さる。


(ああ、ごめんなさい、荒療治してくださっているんですね、わたしが泣き虫ですぐにオロオロ、メソメソ、ウジウジするから……)


「まあ、女王陛下(へいか)みたいに傲慢(ごうまん)なのを淑女(しゅくじょ)と言うのなら、カリナ様は本当の聖女かも知れませんね。とりあえず、もう聖女ごっこも不要ですから、身なりを本気で整えましょう。この屋敷(やしき)内なら、私とカリナ様に(あだ)なす者はウラカン様ぐらいしかないので、もう大丈夫ですよ」

「もう、エリーゼ。あなたって人は……あははっ」


 エリーゼの止まらない毒舌(どくぜつ)に思わずわたしは吹き出してしまった。


(そっか……わたし、なにをずっとビクビクしていたんだろう。エリーゼみたいに図太くはなれないけど、もう少し顔をあげなくちゃ、ダメよね)


「ふふっ、ありがとう、エリーゼ。あなたわざと悪女になったのね」

「カリナ様のウジウジ虫っぷりは重傷ですからねー。ウラカンみたいな教会でも雑草(ざっそう)を食べて成り上がってきた大胆(だいたん)さは、見習ってもいいかも知れません」

「え、ええ!? ウラカン様が雑草(ざっそう)を食べてた時代があるの?」

「……ウソですよ。教会がそんなことするわけないじゃないですか」

「も、もー!! エリーゼ!! ふふっ」

「フフフ、ようやく笑顔になってきましたね、カリナ様」

「……あっ」


 急にシスターらしい毅然(きぜん)とした姿勢(しせい)で優しく微笑みかけてくるエリーゼに、わたしは、思わずハッとさせられた。


(ありがとう。わたしのために、エリーゼ。なんて優しい人なんだろう。でもウラカン様にはもう少し優しくしてあげてね?)


 


 


本作を面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価、いいねなどで応援いただけると嬉しいです。

今後の活動の励みにさせていただきます。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ