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19.合流。不穏

「さて……まずいな」

 ホタルから発せられた言葉は、あまりプラスな方向の言葉ではなかった。アニマとの一悶着を経て、鬼神の禁域へと着き、無事ホタルを仲間にした。シオリの胸の傷を指摘され、色々話したり、傷治したりして今に至る。

「聖教団に絡まれちまったか……ただまぁ仕方がないな。確かにお前とあの魔女は瓜二つな見た目だからな」

 深い溜息をホタルは吐く。この反応を見るに、相当めんどくさいのだろう。

 というか、ゼロも魔女なはずなのに、ゼロには見向きもしないなんて。シオリにだけフォーカスを当てられると少し疲れる。これも、悪運って奴なのか?

 シオリはちょっと難しい顔をしながら、視線を落とした。

「アイツらは自分が死ぬまで捕まえに来るぞ。対処法は殺す以外にない」

「……まぁ、あの感じを見るにそれ以外無さそうだよね」

「ったく……あの魔女に会えるってだけでここまで本気になるなんてな……気色悪いにも程がある」

 ホタルは吐き捨てるように言い、視線を外した。

「第一聖徒って言ってたくらいだし……もっといるんだよね」

 ピリカが視線を落としながら呟く。確かに、アニマは第・一・聖・徒・と言っていた。それに、聖教“団”なら複数人居るも考えるのも変では無い。

「あぁ。少なくとも7人はいる。俺の知ってる限りはな」

「それは……どれくらい前の話? 聖教団はいつ頃から出来てた?」

 シオリはホタルに質問を投げかける。ホタルのその情報がいつのものなのか知れれば、現在のおおよその人数を確認できるからだ。

「確か……数十年前の話だったかな」

 記憶を探るように、ホタルは答える。

「アイツらは信仰の力かなんかは知らんが老いてねぇ。昔と今の顔がずっと同じだ」

 その言葉にシオリは顔を顰めた。数十年前に7人、それでかつ昔の連中が今でもいるのなら既に30、いや、100は超えているのかもしれない。アニマあんなやつが100人もいると考えると頭が痛くなる。

「こっちは4人で、相手は十数人は最低でもいる。流石に多勢に無勢だ」

 その時、シオリは思い出す。そう言えば、ヴィザールが居た。アイツは今どこで何をしているのだろう。死んだのか? それともまだ生きていてそこら辺で空を見続けているのか。

「そういえば、結局ヴィザール探しに行ってないなぁ」

 シオリが独り言のような言い草で周りに語り掛ける。

「あ、そういえばそうじゃん」

 完全に頭から離れていた事がわかる素っ頓狂な声が聞こえる。

「まぁ、別に良いでしょ。ヴィザールだし」

「確かに」

 良くないです、とヴィザールが言っていた気がするが気のせいだろう。

「そう言えば、そんなことも言ってたか」とゼロ。「そういや、んなことも言ってたな……」ゼロに次いでホタル。みんな扱いが雑すぎる。

「とりあえず……行こうか」

 シオリの言葉に各々が立ち上がる。目的地は、名も知らぬあの国。


 ◇◇◇


 鬼神の禁域からあの国に最短ルートで行く為には途中にあるアホでかい森をくぐり抜けなければならない。人間たちの間で広く伝わっている名称は「賛美歌の心臓」とのこと。意味はよくわからない

「鬱蒼としたなんの面白みもない森だ。無駄に暗いから迷子にはなるなよ」

 先頭のホタルが後続に忠告した。確かに、木々の密集度が高い。それに、もう昼時にも関わらず、光はほんの気持ち程度しか差し込んでこない。全員がホタルの忠告にそれなりの反応を示した。静寂。話すこともない。きっと、みんな何かしら考えているのだろう。シオリは、お腹空いたなぁ。と考えていた


 ◇◇◇


 どれほどつまらない道を歩いただろうか。未だ終点は見えてこない。こんなに離れてたっけなぁとも考えた。ただ、純粋にシオリの体感時間が狂ってるだけなのだろうと結論づけた。


 ぐうぅぅ〜〜〜……


 静寂に包まれた森の中に、緊張感のかけらもない腹の鳴る音がした。音の主は言うまでもなく、シオリだ。

「お腹空いた」

「聞きゃ分かる。緊張感すらないこの阿呆」

「いや、しょうがないじゃん。私、最近色々あったし。お腹も空くよ」

 リンゴでも食べたいなぁ……

「さっきまで俺の家で食っちゃ寝してたやつが何言ってんだ」

 言葉を口に出そうと開いた時、シオリの頭に何かが落ちた。痛い。

 重力によってシオリにぶつかったそれは地面に勢いなく落ちた。シオリは、それを拾った。

「リンゴ……?」

 思わず声が出た。赤くて、下の方が若干青い絵に描いたようなリンゴだ。なんかすごい甘い匂いがする。心の内を見られている感じがして気味が悪かった。というか、この世界にあっちの世界の果物があったとは。まぁ、リンゴ食べたかったし、ありがたく頂こう。

「ん? なんだかシオリちゃんの方から甘い匂い〜」

 シオリの独り言を聞いていたのか、ピリカがシオリの方に顔を向ける。そのピリカの一言でゼロもホタルも振り向いた。

「? なんだ? それは」

 ゼロが難しそうな顔をしてシオリに問う。

「何ってリンゴだけど……」

「おい」

 ホタルの声が一段低くなる。

「それ、どこで手に入れた」

「え、上から落ちてきたんだけど……」

「この森でか?」

「うん」

 短い沈黙。次の瞬間、ホタルがシオリの手を強引に掴んだ。

「食うな」

 低く、断定的な声だった。

「え、なんで──」

「この世界にリンゴなんていう果実はねぇ」

「……は?」

「お前の元いた世界にはあったんだろうが、この世界にはんなもんねぇ」

「じゃ、じゃあこれ……」

 ピリカが果実に顔を近付ける。

「罠、ってこと?」

「十中八九な」

 シオリは上を見上げた。確かに、リンゴの木と思しき木は生えていない。

「この木も魔物の一種だろうな。ったく……あの魔女、随分と面倒な奴らを残していったもんだ」

 ホタルが腰に携えている刀を引き抜く。

「ちょっと離れろ。この木を始末する」

 その時──

 ピシャリ。と、微かな水音。シオリは振り向いた。ただ、シオリが振り向いた時にはホタルが動いていた。

 シオリが情報を認識した頃には、既に銀閃が走っていた。何を斬ろうとしていたのかはよくわからない。ただ、何か黒い液体が飛び散っていたのだけは視認できた。

 続いてホタルは懐から苦無を取り出し、液体が再融合した時に塊に刺そうとする。ただ、その液体のようなスライムのような何かは軽やかに躱していった。

「全く……野蛮にもほどがありますよ」

 少し攻撃の手が緩んだところで、どこかで聞いたことのある声がした。それは、黒い液体から発せられているみたいだ。その黒い液体はぬちゃぬちゃと音を立てながら形を変化させていく。どこかで見たことがある。

「お前は……」と、攻撃の手を止めたホタルが呟く。

「こんにちは。皆さん。全く……せっかくみなさんを見つけて挨拶しようと思ったら襲われるなんてねぇ……」

 若干呆れ気味に、そう言った。

「ヴィザール……?」と、ゼロ。声色的にも驚愕しているのだろう。

「えぇ、ワタクシ正真正銘ヴィザールですよ。罠でもなんでもありません」

「生きてたんだ」

「失礼ですね。あの英雄気取りに敗北はしたものの、ワタクシは核さえ生きていれば実質不死身ですよ」

 ヒビキの事か。と、シオリは一瞬で理解した。彼は英雄気取りなのだろうか? まぁオーラだけみればまさに英雄だ。ただ、彼はまだまだ未熟だ。きっと成人すらしていないだろう。まだ成人すらしていないのに、あれほどの大役を国から、世界から任せられているのは少々可哀想だなと、若干同情した。

 まぁ、そんな大役を任せられたのも、元を辿れば私のせいか。シオリはヒビキのことについて考えるのをやめた。

「ワタクシはしばらくこの森を彷徨っていましたが……面倒臭い人たちが多かったですねぇ……」

「……というと?」

 ヴィザールが顔? を顰めながら何か考えてそうな顔をする。

「そうですねぇ……何処かの国の騎士団だったり、教会のシスターだったり──」

「待て」ゼロが口を挟む。

「そのシスターっていうのは……どんなイメージだ?」

「ええっと……そうですねぇ……」

 次に口から放たれたヴィザールの言葉に、全員が肝を冷やすのであった

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