エピローグ(5)
「やってみようか、――って。昔の私なら答えただろうけど」
「え」
顎を摘んだままくるりとユーリの顔の方向を変えさせて、顔を真っ赤にしてあわあわしているリリアの方へと差し向けた。
「一応パートナーがいる身だから。私の代わりにリリアはどう?」
「え?
「前作主人公を攻略するなんて、前代未聞じゃない?」
ユーリがぱちくりと目を瞬いた。
その視線の先の前作主人公ことリリアも、あんぐりと口を開け放して私のことを凝視している。
「『前作主人公の攻略』は、リリアには絶対できないことだ。だって、『前作』がないんだから」
当たり前のことを言いながら、ユーリの顔を解放する。
私が手を離してもなお、彼女の視線はリリアに固定されていた。
「つまり『リリアには出来ないこと』の際たるものだろ。『リリア以上』を目指すにはうってつけじゃないか?」
私の言葉に、ユーリは答えなかった。
ただしばらく驚愕に硬直しているリリアをじっと眺め、そしてふいと視線をそらした。
ふんと鼻を鳴らして、肩を竦める。
「アタシ、女にキョーミないし」
「私にだって興味ないんだから、リスペクトがある分リリアのがマシじゃない?」
「それは……」
ユーリがまた沈黙する。
今度はリリアではなく足元の床をじっと眺めていて、そして今度はぶつぶつと独り言を呟き始めた。
どうやら計算モードに入ったらしい。
おそらく彼女はそこに山があれば登るタイプだし、その山が高ければ高いほど燃えるタイプだと踏んで仕掛けてみたのだが……これはいけるかもしれない。
さて何をどう計算しているのかと耳を傾けようとしたところで、横合いから伸びてきたリリアの手が私の腕をガッとつかんだ。
「え、エリ様!!他人事だと思って何勝手なこと言ってるんですか!!」
「他人事だし」
「鬼! 悪魔!! 人でなし!!!!」
騒ぎ立てるリリアの文句を右から左へ受け流す。
そもそも今回だってリリアがユーリの態度に苦言を呈したことが発端なのだ。リリアのことを攻略するくらいの気持ちで接するならば邪険にされることはなくなるだろうし、何故怒られるやらさっぱり分からない。
「それに、君にもたいして関係ないだろ」
「え?」
「私のこと、諦めないんだろ? 少なくとも、あと5年」
リリアがきょとんと目を見開いていた。
やれやれ、自分が言い出したんだろうと苦笑いしながら、リリアの瞳を覗き込む。
「じゃあその間、外野が何しようが関係ないよね」
「そ、う、です、ね?」
「え〜?? 現主人公を外野扱いですか??」
リリアが顔を赤くして声を絞り出したところに、ユーリが割り込んできた。
面白くなさそうな顔をして頬杖をつくと、私とリリアの表情を見比べる。
「なーんか、二人の世界って感じ」
その言葉に、リリアの頬がさらに一段赤くなる。
私は肯定も否定もせずに椅子の背もたれに体を預けた。
勝手に勘違いをして盛り上がってくれるなら、それも悪くない。
とにかく私はこのゲームから降りられればそれでよいのだ。
どうせ放っておいてもリリアが私を諦めないのなら、ユーリに引っ掻きまわしてもらった方がいい。
そこで何かイレギュラーが起きてユーリが逆ハーレムエンドの向こう側に行こうが構わないし……リリアが私に引っかかったままでいるよりも幸せな未来を見つけてくれても一向に構わない。
「ちょっと、燃えちゃいましたぁ」
「あ、あああ、あの、ちょっと、ち、近いんですけど」
「この世界がアタシの世界だって、分からせてあげますね、お姉様♡」
「エリ様ぁ!!!」
じりじりと椅子ごとリリアに近づいて、至近距離でその顔を覗き込むユーリ。
助けを求めるように私の名前を呼んだリリアに、にこりと微笑みを浮かべて……反対側の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。
「頑張ってね、私の主人公」
「完全に面白がってる〜〜!!!!」
「だって面白いから」
「正直に言えば許されるわけじゃないんですよ!?」
机にごりごりと額を擦り付けながらうめいていたリリアが、ばっと勢いよく顔を上げた。
こちらを見て、思ったよりも距離が近かったからだろうか、一度ヒュッと息を呑む音が聞こえた。
そこで折れるかと思いきや、顔を赤くしながらもキッと眉を吊り上げてこちらを見ると、両手の拳を握りながら詰め寄ってくる。
「い、いいんですね!? ほんとに頑張っちゃいますからね!? わたしの魅力にめろめろになっても知りませんからね!?」
「そう簡単に靡くつもりはないけど」
軽く肩を竦めて、リリアの言葉を受け流す。
まるでこれまで頑張っていなかったかのような言い様だが、それでいいのか。
「これでも一途な方なんだ。知ってるだろ?」
パチンとウインクを添えてやると、リリアがキュッとナキウサギのような音を出した。
そして口元を両手で覆うと、ふるふると震えながら言う。
「つまり……わたしにぞっこんLOVEって……コト……!?」
「超解釈すぎる」
「アンタ、やっぱ邪魔かも」
「まぁ、これでも悪役令嬢だからね」
じとりとこちらを睨むユーリに笑顔で応じると、リリアが突然机を叩きながら立ち上がった。
私もユーリも至近距離にいたので、身体を反らせて彼女の顔を見上げる。
リリアは両手をぶんと振り上げながら、高らかに宣言した。
「エリ様はわたしの攻略対象! です! 誰が何と言おうと!!」
オマケのオマケ、シークレットトラック、これにて完結です!
当初お伝えしていた通り、いつもみたいにわちゃわちゃドタバタする感じのお話になったかと思いますが、いかがでしたでしょうか?
正味天下一武道会編以降はずっと番外編というかオマケというか、劇場版とかアニメのBD特典の13話みたいな気持ちで書いてきましたが、今回のシークレットトラックはもはやロスタイム、みたいな。
大乱闘オールスターな感じをお楽しみいただけていたら幸いです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
それではまた、いつかどこかでお会いしましょう!





