24.表紙が黒いノートに書いたポエム
おそらく私の肩に載っている怨念の5割くらいはうちの聖女が根源だと思われるので、原因から引き取ってもらえるなら非常に助かる。
「私も出来たら、あの子の側にいたい。兄さんたちは放っておいても大丈夫だけど……やっぱりサーシャはちょっと『引き寄せ』すぎるのよ」
姫巫女様の言葉を、黙ってやり過ごした。
先ほどから「障り」だの「祓う力」だの「引き寄せ」だの、それらしい言葉がつらつら並べ立てられるたびに何となく、そわそわと落ち着かない心地がする。
そわそわというか、むずむずというか。
例えば、中学二年生の時に表紙が黒いノートに書いたポエムとか、ルーズリーフに描かれた未完の漫画とか。
そういったあれが脳裏をよぎるのである。
いや、商業的に大成功している漫画でも単行本の総扉にポエムが書いてあったりするが、あれはスタイリッシュだから許されているだけであって、そして漫画だから許されているのであって……現実世界で人間が発することは想定されていないというか。
私自身がそういう道を通ったかと言うとその記憶はないが、いわゆるそういった道を通った人間の事例はいくつも知っている。
有り体に言えば、共感性羞恥を煽られるのである。
姫巫女様、私より年上のはず。
もしかしてまだ、卒業していないのか。
いや、卒業と言う概念がないのか。きっと王族は学校など通わないのが普通だろうから――我が国の乙女ゲームナイズされた学園が異常なのである――、厨二なわけではない。
姫巫女様はいたって真面目だ。真剣である。
だがどうしても、いやむしろ真剣であればあるほど、聞いている私はムズムズする。会話文の中に『』が頻発するだけでだいぶムズムズしてしまう。
そもそも世界観が違う。第十三師団の師団長と言い、濃い目の少年漫画を持ってこようとするのはやめていただきたい。
ここは乙女ゲームだ。聖女と約束の桜くらいで勘弁してほしい。おそらくこの国には桜はないが。
そのうち『聖乙女』とか言い出したらどうしよう。
リリアと出会ったばかりの頃を思い出す。あの頃もオタク丸出しの言動に心臓がギュッとしたものだ。
この世界の聖女は他人に共感性羞恥を植え付けないといけないという決まりでもあるのだろうか。
遠い目をしている私を無視して、姫巫女様がこちらを覗き込んだ。
「というわけだから、私にも誰かいい人、紹介してほしいんだけど」
現実逃避しかけた思考を引き戻す。
いい人。いい人、か。
相手が男性であれば、とりあえずリリアを勧めておけば間違いない。魅了もあるし、見た目はとにかく可愛らしい。そして身分は聖女というワイルドカード。
しかも主人公、結ばれれば幸せになるというハッピーエンド確約までついてくる。
では女性に対して、誰を紹介すべきか。
考えた結果、うーんと首を捻った。
「今日、一番ちょうどいいのが来てないんだよな」
「ちょうどいいの?」
「この国の第二王子」
ロベルトの顔を思い浮かべる。
攻略対象だけあって見目はいいし、背が高くて足が長い。
腕も立つし、身分も他国の王族の嫁ぎ先として申し分ないだろう。中身を気にしなければ優良物件だ。内面にさえ目を瞑れば。
そして姫巫女様の好みをおいておけば、ロベルトには年上の、引っ張ってくれそうな女性の方が合っている気がする。
王太子殿下がマリーとくっついて、ロベルトが姫巫女様とくっつく。
国益的にはこれが最大公約数だろう。
だが、いないものは仕方がない。今日見かけたメンバーに思考を移す。
アイザックのところはまだ爵位としては伯爵だ。王族の嫁ぎ先としては少し見劣りする。
となると……
「侯爵家の次男はどう? さっきの王太子殿下の護衛で、今日も来てるはず」
「……さっきいたかしら?」
「見た目が素朴な奴だから」
影が薄い、地味を持てる限りのオブラートで包んで伝えると、姫巫女様は「ふぅん」と呟いた。
弟のサーシャ王子を可愛いかわいい目に入れても痛くないと言っているのを見るに、美的センスはこの国の人間と変わらないだろう。マーティンのことを気に入るかは……薄味好きかどうかにかかっている。
ターニャ王女はもちろん掛け値なしに美しい。王女側さえよければ、マーティンには断る選択肢はないはずだ。
姫巫女さまの目を見てから、そのまますーっと視線を下に落とした。
「彼は君を気に入ると思うよ」
「何で今、胸見たの?」





