23.それなりに心当たりがある。
「ね。リリアさん、婚約者はいないのよね? サーシャにどうかしら」
「え?」
姫巫女様の言葉に、彼女の瞳を見つめ返す。
彼女は顎に手を当てて考え込むような仕草をしながら、うーんと唸った。
「可愛いし、いい子そうだし」
「可愛いしいい子だよ」
速攻で肯定した。
リリアを攻略対象の誰かがもらっていってくれないものかと常々思っていたが、もちろんサーシャ王子でも構わない。
顔よし、身長よし、身分よし。見た目はどちらかというと優男系だし、本人も王族とは思えないくらい穏やかな性格をしている。
しかも聖なる力の持ち主だ。結婚すればハイブリッドな次世代聖女が生まれるかも知れない。
その辺りを瞬時に計算しての回答だった。
リリアの見た目が可愛らしいことは純然たる事実であるし、善か悪かで言えばまぁ性質は善だろう。嘘は言っていない。
主人公だし、聖女だし。
「サーシャ、ふわふわしてそうに見えて意外としっかりしてるから。リリアさんはちょっと浮世離れしてるし、相性もいいんじゃないかしら」
あの短時間でリリアが少々変わった子であることを見抜いたらしい姫巫女様が、私に言うのと自分に言い聞かせるのと中間くらいの声音で言った。
なんと。こんなにあっさりリリアに貰い手が現れるとは。渡りに船とはこのことか。
あっさり吹っ切ったマリーを見習ってそろそろ新しい恋を見つけてくれないかと思っていたところに、まさかの優良物件の方からのお申し込みである。
もし私が不動産屋なら今すぐリリアの耳元で「こんな物件なかなかお目にかかれませんよ」と囁くところだろう。
サーシャ王子もリリアの魅了にかかればイチコロだろうし、リリアさえうんと言えばかなり「アリ」だ。
少なくともヤキモチを妬くくせして一向に進展していない王太子殿下より見込みがある。
もしくはライバルの登場で、殿下を含めた他の面々が本腰を入れて動き出すパターンも考えられる。どちらに転んでも私にとってはメリットしかない。
「聖女なら、この国が離さないでしょ?」
姫巫女様がわずかに瞳を伏せた。
マッチ棒が載りそうなほどの長さと密度のまつ毛が、なだらかな頬に影を落とした。
「あの子、神子の力があるでしょう。今回は怨霊だったけど……昔から『障り』の影響を受けやすかった。熱を出したり、寝込んだり……彼方の者に呼ばれてしまったり」
姫巫女様に聞いた話を思い出す。
彼女の双子の弟であるサーシャ王子は、小さい頃からいわゆる霊感が強く、そのせいで苦労して来たのだとか。
他国を巻き込むような事態になっていないだけで……今回に限らず、内部では問題が常に起きていたのだ。
「私は『祓う力』が強いからバランスを取れてるけど、あの子はそうじゃない。飢饉とか内乱が多いと、どうしても悪い気が溜まりやすくなる。ただでさえ寒くて厳しい土地だしね」
姫巫女様の言葉に頷く。
寒いとそれだけで、生死の境を彷徨うこともある。飢えだって同じだ。
雪も暑さも大したことのないこの国と比べて、ヘイト管理が難しい土地柄であることは間違い無いだろう。
「今回もそういう悪い気が集まって、渦巻いて……その集合体みたいなものに、取り込まれた。そう言ってたわ」
「集合体、ね」
「……あの子は多分、あの国を離れた方がいい。だから、チャンスなのよ」
姫巫女様が、白魚のような指でドレスを握りしめた。
本当に、弟思いだ。
普段はサーシャがいろいろと世話を焼いているように見えて、実際のところ……一本通った筋は、姫巫女様が握っている。
「あ。そういえばサーシャが、エリザベスの肩にも怨霊みたいなのが乗ってるって言ってたわ。恨みつらみ嫉妬執着その他諸々、いろんなものがべっとりだって」
言われて苦笑した。
それなりに心当たりがある。





