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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第8章 偽物編

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22.別に反論したいわけでもないが。

「わぁ、実物は一層可愛いのね」

「び、美女の余裕……」


 姫巫女様とリリアを引き合わせたところ、リリアが速攻で気圧されていた。


 リリアが浮気だ何だと騒ぐのではないかと少々気が重かったが、姫巫女様のコミュ強っぷりは想像を遥かに超えていたらしい。

 あっという間にリリアとの距離を詰めたかと思うと、ニコニコ微笑んで握手に持ち込んでいる。

 リリアは蛇に睨まれた蛙――もとい、陽キャに絡まれた陰キャ状態になっていた。


「美女って性格もいいところがほんとチートですよね」

「こんなに可愛い子でも靡かないんだ」

「そうなんですよぅ!! どう思います!?」

「ノーコメント」


 適当に近くのテーブルの軽食をつまみながら話を流す。


 ちなみにこのクリームチーズと混ぜてある胡桃は私が割った。

 テーブルも運んだし、公爵家ホストの一員としてきちんと手伝っている。今も主賓の一人をもてなしているわけだし、結構な労働に駆り出されていると言っても過言ではない。


 こういうの、招く側は意外と気を遣うものである。数日前から侍女長も料理長も、庭師もみなぴりぴりしていた。

 料理や会場の準備はもちろんのこと、他にも誰を呼ぶかなど、通常のパーティーでも検討しなければならないことだって発生する。自宅でやるからと言って何一つ仕事は減らないのである。

 家で開催するなら気楽かと思いきや、どこか別の専用の施設を借りた方が結果的に楽なんじゃないか。


 葬儀だってそうだ。

 一から十まで自宅で執り行うよりも、葬儀会場を借りて仕出し弁当か適当な和食店で精進落としを済ませてしまう方がずっと簡単だろう。


 それでもホームパーティーというものはこういう中世ヨーロッパ的な時代から現代までなくならずに脈々と続いているのだから、不思議なものだ。

 どこかしらには需要があるのだろうが――私にはついぞ縁がなかったので、その需要がどこにあるやら皆目見当もつかない。


「ねぇ、エリザベス」


 姫巫女様に声を掛けられた。軽く袖を引かれたので、ついていく。

 我が家の中庭から、エントランスにまで引っ張って来られた。

 皆中庭に集まっているので、エントランスは時折使用人が行き来するだけで、ほとんど人気はない。

 

 周囲をちらりと窺ってから、姫巫女様が言う。


「私、こう見えて結構可愛いところあるのよ」

「君はどう見ても可愛いよ」

「第二夫人でも第三夫でもいいわ」

「この国、王族以外は一夫一妻制なんだ」

「それでも、ダメ?」


 姫巫女様が私を見上げる。

 まるでラムネ瓶のような色の瞳と、ぱちりと目が合った。


 逃がさないとでも言うような眼差しに、ため息をつく。やれやれ、これは煙に巻かれてくれそうにないな。


「ターニャ王女。貴方もサーシャ王子も魅力的だとは思うけど……私には身に余るよ」

「そう」


 はっきりと答えれば、姫巫女様は存外あっさりと引き下がった。

 そして目を伏せて、自分の指を組みながら、小さく呟く。


「正直ね、断られるんじゃないかって思ってた」


 姫巫女様の言葉に目を見開く。

 一応「心に決めた相手がいる」と話してはいたわけだが――疑われているからこそわざわざやってきたのではないかと、そう思っていたからだ。


 姫巫女様は小さな声ながらも、はっきりと言う。


「それでもあの子と2人でここに来たのは、他の目的もあるからなの」


 別の目的。

 そう言われて思考を開始する。


 姫巫女様も、その双子の弟のサーシャ王子も。もちろんのこと王族だ。

 つまるところ、ここで言う「他の目的」というのは、個人的なものではなく――国の思惑によるもの、なのだろう。


「北の国は長いこと、他国との正式な国交が途絶えてた。内乱を収めるのに精いっぱいで、天候不良も続いて飢饉もあって、――それがやっと、ひと段落した。そうなったら、隣国との交流を復活させるために、私たちが何をすべきか。分かるでしょ?」


 姫巫女様が私をまっすぐに見つめる。

 王族は客寄せパンダだ。国王や次期国王たる王太子、それに第二王子くらいまでは、国を存続させるための旗印となることが最も大きな役割だろう。


 では、それ以外は。王女や、第三王子以下の王子に求められる役割は。

 最も分かりやすいのは――国益となる相手との関係強化のための手札だ。


「褒賞は半分言い訳。ここに来られたのはチャンスなの」


 姫巫女様はそう言っただけで、詳しくは説明しなかった。

 それこそが、私の――いや、多くの貴族が一番に思い浮かべるであろう役割を、肯定したという証左だろう。

 にこりと笑って、私に歩み寄る。


「と、いうわけで。友達、紹介して?」


 なるほど。

 姫巫女様の言葉に得心する。

 「紹介」というのはつまり、そういう意味か。


「だけど、皆、君が私に会いに来たと思ってるよ。節操なしだと思われたら印象が悪いんじゃないか?」

「エリザベスはプレイボーイすぎて王族的にNGだったってことにするわ」


 きっぱり言い切られた。

 なるほど、これまで長年軟派系として浮名を流しているのは紛れもない事実であるので、それは反論の余地がない。

 別に反論したいわけでもないが。



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