21.大したことないのね、男の子って
「殿下」
簡単に礼を返して、王太子殿下の顔と薔薇の花束を見比べる。
よくよく見ても薔薇がお似合いだ。だが彼のイメージカラ―的には赤よりも、白か紫の方が似合いそうな気がする。
曲がりなりにも攻略対象なのだから、もう少しメンカラに対する配慮が欲しいところだ。
それはさておき、何故彼が薔薇の花束を持っているのか、について想像を巡らせる。
リリアに持ってきたならもちろん彼女に渡すだろう。
リリアは友の会のご令嬢と話しているだけなので、いくらでも声をかけられる。まだ後生大事に持っている理由がない。
では他の誰かに贈るものだ、と考えるのが自然だ。
このパーティーは我が家の、ひいてはお兄様の主催である。
よそ様のおうちに招かれた時には、手土産を持っていくのが社会人のマナーだ。その辺りを考え合わせると、おのずと答えが導き出される。
「お兄様に渡すのに、真っ赤な薔薇はどうかと……」
「フレデリックに渡すわけがないでしょう」
貼り付けた笑顔のままで呆れた声を出された。
だが普段のお兄様とこの御方とのべったり具合を思い浮かべると、ないとは言い切れないのではないかと思う。
隣国にまで王太子御自ら助けに行くほどの間柄である。ディーではなくとも「ひとかたならぬご関係」と言われても仕方ないのでは。
そのご尊顔を見慣れてしまうと並大抵のご令嬢が見劣りしてしまう。
お兄様に悪影響を及ぼすのをやめてほしい。
殿下が僅かに視線を伏せて、胸に抱いた薔薇の花束を見下ろす。
「でもよかった。赤い薔薇の意味くらいは知っていたみたいで」
「どういう意味でしょう」
「きみに」
ばさり、と花束が差し出された。
ふわりと薔薇の香りが、鼻孔をくすぐる。
「きみに渡すために、持ってきたんだ」
殿下はにこやかに笑いながら、私に向かって花束を差し出していた。
再び花束に視線を向ける。
殿下の細腕では抱えきれないのではないかというボリュームで、10本や20本ではきかない。
下手をすると100本超えとかありそうだ。しかもすべて赤い薔薇。
あまりの大きさと密度にぎょっとするほどだ。
確か薔薇の花には、本数で意味があった気がする。
その中にNGとされている薔薇のイメージからは遠い意味もあったはずだが……これは、どっちだ?
私の戸惑いをよそに、殿下はにっこりと微笑むばかりだ。
病気は治ったはずだが、今度は事態をややこしくしないと死ぬ病気にかかっているのだろうか。
修理から1年以内の不調ということで西の国で再修理してくれないだろうかと思ったが、残念ながらすでに保証期間は過ぎていそうだ。
「失礼」
私と殿下の間に、先ほどまで大人しく後ろをついてくるばかりだったリチャードが割って入る。
殿下を見据えて、彼もまた呆れたような顔をしていた。
「婚約者の目の前でそれはさすがに、ちょっと」
「おや」
リチャードの言葉に、殿下が意外そうな声を出す。
偽物のリチャードが「それらしく」振舞ったことが意外だったのだろうか。
わざとらしく目を見開いた後で、またニコリと王太子スマイルを貼り付けた。
「それは申し訳ないことをした。ふたりきりのときにするよ」
「エドワード殿下」
「わぁ、修羅場」
対峙する2人の顔を見比べて、姫巫女様がポンと手を打った。
何で楽しそうなんだろうか、この人。
「ねぇ、修羅場は後にして、先にエリザベスのお友達、紹介してよ」
前にも後にもしたくない。
「夢で会ってた子と話してみたいわ、あの可愛い子」
姫巫女様が私の手を引いて、二人から離れる。
これ幸いと、私は彼女について修羅場(?)を後にすることを決めた。
数歩離れたところで、姫巫女様がくるりとこちらを振り向く。
「ふふ、簡単に連れ出せちゃった」
「え?」
「大したことないのね、男の子って」
私を通り越して、その背後の男性陣に向かってにーっと悪戯っぽく笑うと、これ見よがしに私の腕にしがみついた。そのまま、ぴっとり身を寄せて踵を返す。
ぽかんとした顔で私たちを見送るリチャードと王太子殿下の隣で、サーシャ王子だけが「姉さん……」と頭を抱えていた。
こちらの弟はこちらの弟で、奔放な姉に苦労しているらしい。





