20.年上風を吹かせているくせに初心で困る
「それなら私たちの方が、」
「だから別居婚でもいいって言ってくれてるんだ」
「は?」
リチャードをまねてアドリブに興じてみた。
目を見開くリチャードを横目に、用意しておいた台詞を披露する。
「北の国にいる間、君にもいろいろ話したよね? 私も家族と離れるなんて考えられないから、彼の気持ちはよく分かる。だから普段はそれぞれ今まで通り、故郷の国で暮らして……長い休みに、どちらかの国に行って一緒に過ごす。そういう形を了承してくれたんだ」
「おい、アンタまた勝手に」
文句を言おうとするリチャードに、ぱちんとウインクを飛ばす。
リチャードがぐっと口を噤んだ。
彼の肩をいっそう引き寄せながら、彼に意味ありげな視線を送る。
「離れていても、お互いを想い合っていれば大丈夫。そうだろ、リチャード」
「ソウダナ」
「それだと子どもはどうするのよ」
「こど、」
王女様らしからぬ――いや、ある意味では「らしい」のか。王族とお世継ぎ問題は切っても切れない――ことを聞いた姫巫女様に、リチャードの顔がみるみるうちに赤くなっていった。
やれやれ、年上風を吹かせているくせに初心で困る。何だかんだ言いながらもお育ちが良いらしい。
肩を竦めて、彼の代わりに応じる。
「私たち長男長女じゃないから。特に求められてない」
「…………エリザベス」
私の返答に、姫巫女様がやけに重々しく言った。
何だろう。見事な三白眼を形作ったラムネ瓶のような色の瞳が、梅雨の間にいつの間にか生えてきた怪しいキノコでも見るかのような――得体のしれないものを見るような色を宿している。
「そういうことじゃないと思うわ」
「僕もそう思う」
「オレもそう思う」
サーシャ王子ばかりかリチャードにまで頷かれてしまった。
お前は一度くらい私の味方ができないのか。
「まぁ、いいわ」
ふぅと小さく息をついて、姫巫女様が私の空いている方の手を取った。
「とりあえず、エリザベスのお友達と会わせてよ。挨拶したいわ」
「エリザベスさんと仲良くしている人なら安心だよね」
姫巫女様に手を引かれるままに歩いていくと、ふわふわ微笑みながらサーシャ王子もついてきた。
安心というのはどういう意味だ。おそらく嫌味ではない、と思うが。
友達、と言われて庭園を見回す。
リリアはあちらで友の会のご令嬢たちと話しているし、アイザックは向こうで私の両親と談笑している。
隣に宰相様もいた。アイザックを渋くして苦み走らせたビジュアルをしている。もちろん眼鏡も装備している。この世界においては眼鏡は遺伝するようだ。
外国人俳優のようなダンディっぷりで、これで亡くなった妻に一途なのだというから属性過多だ。
ロベルトは、……来ていないようだ。あのデカさで人ごみに紛れるということはないだろう。
さて他に知り合い、と思って、元候補生たちと教官の一団を見つけた。どれ、グリード教官やフランクにでも紹介するか。
「リジー」
そちらに足を向けたところで、呼び止められた。
お兄様の主催だ。都合さえ合えば来るだろうと予想していた人の声に振り向くと――視界を、真っ赤な薔薇が埋め尽くす。
視界いっぱいに広がる大輪の薔薇越しに、薔薇を背負うのがお似合いの王太子スマイルを貼り付けた人物が、こちらを見つめていた。





