16.意外と我が家の一員になる素質がある
「やっぱり無理があるみたいだな」
「だからずっとそう言ってんだろ……」
お兄様とクリストファーとの対面を前にして、私は作戦変更の決断をした。
どうも私が「真実の愛」とやらを見つけたと言っても、私をよく知る人間は誰も信じてくれそうにないのである。
リチャード曰く「日頃の行いじゃねぇの」とのことだ。そう言われるとぐぅの音も出ない。
そして仮に信じてくれたとして……お兄様に「真実の愛」とやらを祝福された場合を考えると、それはそれで気まずい思いをすることになりそうだという問題が浮上した。
マリーの反応ですらほのかな罪悪感を覚えたわけである。
もし万が一お兄様が信じた場合、たぶんものすごく祝福される。
何なら「リジーが幸せになってくれるのが一番嬉しい」とか泣かれるところまで脳内再生余裕だった。
マリー以上の罪悪感を覚えることは間違いない。
ここは「真実の愛」は一旦そのへんに放っておいて、「ありそう」な線を探る方が安パイだ。
たまたまリチャードがプロポーズしてくれて、たまたま互いの利害が一致した。
政略結婚じみてはいるがお互い友人程度の親しみはもっているわけだし、一緒にいればそのうち親愛の情だって育っていくからいいだろう、ぐらいの。
そこを落としどころにしましたよと主張することにしたのだ。
私は王族との婚約を解消しているし、リチャードも複雑な出自だ。互いに結婚には苦労するはず。リアリティは十分あるだろう。
そう結論付けて、帰宅した私は、サロンでお兄様とクリストファーと対峙していた。
自己紹介を終えたところで、出来るだけいつもの調子で切り出す。
「彼と婚約しようと思っています」
「…………え?」
「彼は世話焼きなところがあって、それなりに気が合うというか。お互いメリットがあるのではないかと思いまして。お父様とお母様にも許可はいただきました」
「そ、それは何ていうか、あの……急な話、だね?」
お兄様が困惑した表情をして、クリストファーの様子を窺っている。
クリストファーは呆然としているようだが、……何となく顔色が悪い、ような。
それまで黙っていたリチャードが、口を開いた。
「先にオレから1つ、いいか?」
「え?」
「アンタには一度会ってみたかったんだ」
事前の打ち合わせではなかったことをし始めたリチャードに、目を瞬く。
どういうことだ。アドリブを入れてくるようなタイプではないと思っていたのだが。
それならそれで事前に相談してもらいたい。もっとウィットにとんだ対応を考えておいたのに。
リチャードはどこか試すような目をお兄様に向けていた。
「……この子がこういう格好をしてるの。アンタの命令ってわけじゃないだろうな」
「命令? 僕が?」
お兄様が不思議そうに首を傾げる。
確か前にもそんなことを言っていたのを思い出す。
お兄様がそんなことをするわけがないだろうと一蹴したつもりだったが……どうやら私は本当に信用がないらしい。
彼はお兄様から目をそらさずに、続ける。
「どう思ってるわけ、この状態」
「ええと。似合ってると思うけど……」
「ありがとうございます」
「アンタは黙ってろ」
怒られた。
我が家の中での発言権は廊下の花瓶程度にしかない私だが、ゲストである彼にまでそんな扱いをされるのは心外である。
意外と我が家の一員になる素質があるのかもしれない。
やれやれ、リチャードが何を疑っているのか知らないが、私の男装はたった一人の女の子を落とすためだけのものだ。
それが済んでからも続けているのは単なる趣味である。
もうすっかり馴染んでしまっているものを今更急に方向転換するエネルギーがもったいないというだけだ。
あと女の子たちがちやほやしてくれるし。
私が女の格好をしたからとて誰もちやほやなどしてくれないことは正エリザベス・バートンが証明している。そこは大きなメリットだ。
「オレは義兄上殿が妹を利用するような人間かどうか、見定めようってだけだ」





