14.「ぎゃふん」と言わされる側のムーヴ
脳みそをフル回転させて、この場を乗り切る方法を考える。
こんなところで、こんなことで詰まされてたまるか。
ちらりと視線を殿下の後ろに向ける。
殿下付きの騎士と目が合った。
殿下を指さしながら「助けて」と口パクで伝えてみるも、さっと目を逸らされる。
何だお前、友達甲斐のない奴め。
さっきから私を睨んでいるリチャードに視線を移して、肘で小突く。
「ちょっと、君。助け船ぐらい出せよ」
「いやもうアンタが悪いだろ、これは」
決めつけたような口調で言い切られた。
何故だ。殿下の言っていることの6割くらいは誇張だというのに。
ため息をついて、目の前でさめざめと泣き真似をしている殿下を見下ろした。
北の国の王族をやり過ごすためとはいえ、自国の王族を弄んだだのなんだの、根も葉もない噂が立っては元も子もない。
もともとが軟派系を演じているだけにそれなりの説得力が出てしまっている気がするのもより一層、状況を悪くしている。
このままではまたしてもモブ同然の悪役に逆戻り、というかもはや悪化しているのではないか。確実に後から「ぎゃふん」と言わされる側のムーヴになってしまう。
巫女神子コンビの訪問をやり過ごしたあと、今後もこの国で平和に暮らしていくためには、ロベルトのご機嫌を損ねるよりも王太子殿下のご機嫌を損ねる方がまずいことは言うに及ばない。
結局私は観念して、ことの次第を白状する決断をした。
どうせアイザックにはバレたのだし、もう殿下にも一緒に仕掛け側に回ってもらおう。
「……勘弁してください」
殿下の肩にそっと手を置いて、身を屈めて彼の耳元で囁く。
「嘘です、嘘。北の国から来る方々に穏便に帰っていただくための」
「最初からそう言えばいいのに」
「殿下のご協力には及ばないかと」
「約束したでしょう?」
殿下がこちらを見上げる。
至近距離で見る紫紺の瞳は、吸い込まれそうな深く、澄んだ色をしていた。
「金輪際、私の前で誰かを恋人だと偽ることは禁止だ、って」
はて、そんなことを言われただろうか、と思って思考して、気が付いた。
そうだ、去年の剣術大会でそんなことを言われた、ような。
あれはあの時、私がリリアといちゃついていたから腹を立てて言っただけでさしたる意味のないものだと思っていたが……まだ有効なのか。
「どうしてそんな嘘をつくことになったのかは、今度きちんと説明してね」
「う」
殿下がにこりと王太子スマイルを貼り付けて微笑んだ。
どうも1年以上前の約束をわざわざ持ち出してくるくらい、私の嘘が気に入らなかったと見える。
やれやれ、貴族の中の貴族たる殿下は嘘にもおべっかにも慣れているはずなのに、この程度の些細なことに目くじらを立てていては将来が思いやられるな。
視線を伏せて「分かりましたよ」を示せば、彼は小さく息をついて、私から一歩、離れた。
「……なーんて、ふふ。少し意地悪が過ぎたかな?」
「殿下。皆が勘違いしたらどうなさるおつもりで?」
「きみが『愛』だなんてらしくないことを言うから、少し揶揄ってみたくなっただけだよ」
「お戯れが過ぎますよ」
「ふふ、慌てるきみは見物だったな」
「殿下も人が悪い」
殿下と向かい合う私も、彼同様ににっこりと笑顔を顔面に貼り付けた。
はらはらした様子だった貴族たちも侍女たちも、ほっと息をついているのが見えた。
殿下のご冗談だったことがしっかりと伝わったらしい。
私たちから興味が逸れたり、私と殿下が微笑みあっているのにきゃあきゃあしたりと、先ほどまでの張り詰めたような空気はなくなった。
隣のリチャードだけは、何やらじとりとした目で私を見ている。
挨拶をして殿下と別れたところで、リチャードが胃のあたりを抑えながら、ぽつりと呟いた。
「胃に穴が開きそうだ……」
「私もだよ」
今回の騒動はさすがに少々堪えた。
そういうつもりで同意したのだが、いっそう目つきを鋭くしたリチャードに睨まれた。何故だ。





