13.別のやつの負けパターンな気がする。
「殿下?」
肩を掴んで体を離そうとするが、殿下がか弱そうな素振りとは裏腹な握力でがっちりと私の服を握っていて、軽く手を添えた程度では引き剥がせなかった。
完全に見た目に騙された。そうだ、この人、もうあまり儚くないのだった。
「私とのことは遊びだったんだね」
「遊びも何も」
「あんなに愛してると言ってくれたのに」
言ってない。
言ったことない。
殿下の表情を窺うと、まったく泣いていなかった。どころか完全に目が据わっている。先ほどのあれは演技だったのだと理解するも、時すでに遅し。
先ほどからこちらに釘付けだった侍女たちはもちろんのこと、殿下付きの騎士たちや城の衛兵、使用人、果ては出入りしている貴族たちまでもが足を止めて、何だ何だと様子を窺っている。
まずい。
ハメられた、気がする。
「二人きりで街に出かけたり、互いに贈り物をしたり。楽しかったのは私だけ?」
「殿下」
「私はきみのために……きみの兄さんを助けるために、ほかの公務で無理をしてまで西の国に行く口実も作ったのに」
「ちょっと」
時々事実を紛れ込ませてこないでほしい。
街には出かけたし手芸の品を押し付けられたりはしている。西の国に連れて行ってもらったのも助かった。だがそういう切り取り方はいただけない。
貴方はマスコミですかと問いたい。
都合の悪い部分を切り取ったり都合のいい部分だけ抽出したり、そんなことをしても嘘はすぐにバレる。だいたい殿下はどう考えてもパパラッチされる側のご身分である。
国を背負う人間がデマを吹聴する側に回ってどうする。
あれ? この国もうダメでは??
「リリア嬢の時も思ったけれど。随分と庶民に心惹かれるようだね」
「リチャードは庶民というわけでは」
「継承権を放棄して騎士という身分を選んだ。養子のリリア嬢とさして変わらないよ」
殿下の言葉に、僅かな違和感を感じる。
リリアの身分のことを、彼が言及したことはほとんどなかったはずだ。
というか殿下こそ、王太子でありながら男爵家の養子を嫁に迎えようとしている身である。窘められるべきはそちら様ではなかろうか。
「きみは自分の身の上というものがよく分かっていないようだ。もう学園を卒業するんだし、そろそろ公爵家の人間としての振る舞いを身につけなくてはね」
「あいにく身分で友人は選んでおりません。殿下の御心遣いには感謝いたしますが、私は真実の愛を見つけ、」
たので、と言いかけて、はたと気づいた。
気づいた瞬間、冷汗がどっと噴き出す。
これは、ダメなパターンだ。
乙女ゲームではなく、別のやつの負けパターンな気がする。
ひそひそ、と周りで何やら話している声が聞こえてくる。
侍女たちの視線にも、貴族たちの視線にも。私への非難が何となく、滲んでいるような。
何故だか隣のリチャードまで私をじとりとした目で睨んでいるような。
いや、何故君にまで睨まれないといけないんだ、私は。
今現状、まったく不本意なことながら、私は思わせぶりな言動で殿下の心を弄んだ悪い男、ということになっているらしい。
しかも聖女とはいえ男爵家の養子に過ぎないリリアとイチャイチャしたり、次は隣国の庶子とイチャイチャしたり、他にも街で浮名を流したりと軟派系を満喫している。
ここまで耐えていた殿下が貴族としての自覚をもってそれを慎むように忠告したところで、私は「真実の愛」とやらを理由にそれを突っぱねた。
何てことだ。
詰んでいる。





